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大野和士指揮東京都交響楽団を聴く。(4/13) [演奏会いろいろ]

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2023年4月13日(木)
サントリーホール 19:00開演 

曲目:
マーラー/交響曲第7番 ホ短調「夜の歌」

指揮/大野和士

大野さんは2015年の都響音楽監督就任記念公演でもこの曲を指揮したという。

その曲を就任から9年目のシーズン開幕で取り上げるのだから、これは普通で終わるとは思えない。

ただ今回は名古屋や大阪でも公演をうつということなので、東京はこの日のみという事で自分は既に売り切れたと思い諦めていたが、前日に当日券が出るという嘘のような本当の情報が流れ、それで急遽聴きにいく事にしました。

ただホールの中は「完売御礼」ではあっても「満員御礼」というわけではなかったようで、けっこうあちこちに空席が見られたのは意外だった。「夜の歌」が難解と感じ敬遠した定期会員の方が少なからずいたのか、それともコロナや黄砂で体調を崩された方が少なからず出たのかは分からないけどこれには正直驚いた。こればっかりは今のシステムではどうにもできないことなのかも。

さて演奏の方は演奏時間が80分を超えるくらいだったので、時間だけみると普通かもしれないけど、今回の演奏はそういう時間とは関係なく、とても濃密で情報量の豊かな演奏だったが、印象としてはそういうことよりも「ハートフル」「ファンタジー」そしてスコアを深く読み込む事で辿り着いた「シンプル」さがより強かった。

そしてそれらは弦を軸にした、ある時は悠揚にそしてある時は繊細に表現の多様を尽くしたようなそれが大きく物を言っていた。

この曲、じつは管楽器や打楽器の多彩な使い方の方に意識が今迄言っていたのですが、今回のそれはこの曲がじつは弦が驚くほど雄弁に物語る曲だという事を強く感じさせられるものがあり、そういえばマーラーの母国ボヘミアは「弦の国」と言われ、この曲を初演したのはその国のチェコフィルだったことを思い出させられたものでした。

そんな弦を主軸にし、それに管を絶妙にブレンドしたような響きのこの日の「夜の歌」は、ひとつのドラマとかそういうものではなく、マーラーの溢れんばかりのありったけのインスピレーションを、前述したようにまるで五つの楽章からなるファンタジー色の濃い、ハートフルかつ視覚的な音画に仕上げたような趣さえ感じられ、聴いていてただただその音楽の描き出す温かくも幻想的な世界にどっぷりと浸ってしまうような、そんなかんじのものとなっていました。

(極端な事を言うと、ディズニーの「ファンタジア」でこの曲の一部が利用されても違和感がないくらいに感じられたもので、ある意味この曲が苦手な方にこそ聴いてもらいたいような演奏でもありました)

このためあの先行した四つの楽章に比べ、唐突感が半端ない終楽章も今回はそういう感じがあまりせず、ティンパニーも抑制がきいていたこともあり、先行した楽章とも違和感なく連続していました。

ただしこの楽章の終盤、鐘が出てくるあたりからはさすがにこの楽章独得の明るさを増し、以降は素晴らしい高揚感を伴いながら、それでいて狂騒にはならず、どこまでも「ハートフル」で「ファンタジー」な雰囲気を保ちながら力強く全曲がまとめ上げられていました。

そのためか聴き終わった後なんともいえない幸福感を覚えましたが、それと同時にふとクリュイタンスがパリ音楽院を指揮して録音した、ラヴェルの「マ・メール・ロア」を聴き終えた後の感覚を思い出してしまいました。この曲を聴いてそんな事を思ったのはこれが初めてでした。なんとも不思議な体験です。確かに今回の演奏ではクリュイタンスのラヴェルとはまた違った意味で「音楽細工」的な部分を感じたことは確かなのですが。

もっともこれは自分が聴いた場所も影響しているようにも何となくですが感じられ、違う場所だともっと管が強く前面に出てきたもっと違った印象を受けたかもしれません。この公演はTV収録されていたようなので、後日そのあたりも確認してみたいと思います。

しかしこの曲は本当に大変で、管楽器の一部はこの日の黄砂の影響もあったのか、かなりしんどそうな音が第一楽章を中心にちらほら聴かれました。ただ普通ならそれらに気を削がれるところ、この日は弦がとにかく大きく物を言いながら、情報量の多い濃密な音楽を次々と押し寄せにかかったため、そういう部分に気持ちが引っ張られる暇が無かったことや、しんどそうな音を出しても、その音が大野さんの創る音楽の方向性をしっかりと守っていたため浮いた感じにならなかったこともあってか、時間が経つにつれだんだんしんどそうな音のイメージが自分の中から消えかかっています。

この後の名古屋や大阪ではきっとこのあたりは解消されることでしょう。

それにしてもこの曲、こんなに楽しく温かい曲だったのかと、本当にとても新鮮な体験をさせてもらいました。おそらくこういう演奏ができたのも、指揮者とオケが創り上げた事による膨大なエネルギーの下支えがあればこそなのかも。

そしてこの曲が第三交響曲同様、前二つの交響曲によって誘発されたマーラーのありったけのインスピレーションと感情の爆発がいかに凄いエネルギーを持っていたかという事も改めて痛感させられました。

欲を言えば、できればもう一日東京でやってほしかったです。

以上で〆



都響は若杉弘、ベルティーニ、インバルという偉大なマーラー指揮者によって、日本屈指のマーラーオケと言われていますが、じつは都響のマーラーを実演で聴くのはこの日が初めて。

今回聴いて「なるほど」と思った次第。来年(2024)のインバルの10番もぜひ聴きたいものです。

あと今回、何故かこの曲が「幻想交響曲」を多少意識して書いたのではないかとちと思ってしまった。何となくですが。

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コメント 2

サンフランシスコ人

マーラー/交響曲第7番......昔、ベルティーニ指揮の(フィラデルフィアで)フィラデルフィア管弦楽団の定期演奏会で聴きました...
by サンフランシスコ人 (2023-04-15 02:55) 

阿伊沢萬

自分はベルティーニのマーラーをケルン放送響と何曲か聴いてますが、残念なことに7番は聴きませんでした。

聴く機会があっただけに残念な事をしたものです。
by 阿伊沢萬 (2023-04-16 00:58) 

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