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下野竜也指揮広島交響楽団を聴く(3/10) [演奏会いろいろ]

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2024年3月10日(日)

すみだトリフォニーホール 15:00開演 

曲目:
細川俊夫:セレモニー ~フルートとオーケストラのための
上野由恵(フルート)
ブルックナー:交響曲 第8番 ハ短調 WAB.108(ハース版)


先月の高関さん指揮の富士響に続くブルックナーの8番。

しかも同じハース版というだけでなく、第一楽章の五小節目に出て来るクラリネットの一くさりのソロまでカットしているというおまけつき。

これには理由があって、高関さんは以前からここの部分が腑に落ちず、閲覧できる限りのスコアを調べた結果、「これはブルックナーのものではない」ということで欠落させたのですが、下野さんの場合はチェリビダッケがこの部分をファゴットで、しかも音まで変えているのにビックリしその理由等を高関さんに聞き、これこれしかじかということを聞かれたあと、一度はチェリビダッケ式を取り入れたもののやはり違和感はぬぐい切れず、結果先月の高関さん同様、このクラリネットをカットしたというもの。

このことを下野さんは開演前に急遽ミニプレトークで話されたが、理由はこのことを説明するためというより、何も言わないでそのまま演奏してしまう、冒頭で「クラリネットがやらかした」とネットで拡散されクラリネット奏者の名誉に関わりかねないためだったとか。

そういえば高関さんも富士響の公演時に同様のものを行ったけど、理由の一つはやはりこれだったのだろう。ただもうひとつの理由として今回は故意に開演を5分遅らせる事で、第三楽章の終結部の静かな部分で携帯等の時報が鳴って興醒めさせられることを防ぐためということも話されていた。因みに今日の下野さんがそのことに触れなかったのは、この日は前半に細川さんの曲があるので、そういう危惧が無かったということがあったと思われます。

ということで始まったこの日の演奏会は「すみだ平和祈念音楽祭2024」+「広響創立60周年記念 東京公演 広島交響楽団 特別定期演奏会」+「下野竜也音楽監督ファイナル」の一環。


前半はまず細川さんの曲。

冒頭フルートのソロがまるで虎落笛(もがりぶえ)とも虚無僧の吹く尺八とも聴こえるような音で始まるが、これがなんとも虚無的とも自然的ともいえる感覚を聴かせる。これを聴いていたらデューク・エリントンが「極東組曲」における「Ad Lib on Nippon」で、クラリネットの音を尺八に準えた話をふと思い出してしまった。

オーケストラも武満さんやシベリウスの「テンペスト」を想起させる部分があり、2022年に初演された作品ではあるものの、難解な現代音楽というイメージはあまりなく、むしろ聴きやすい作品だった。

もっともこれはソロの上野さんはもちろんですが、下野さん指揮の広島響の力に追う所も大きかったと思います。おそらく昭和の頃のプロオケだったら雑音みたいに響くオケによって興醒めしていたことでしょう。

20分休憩の後後半のブルックナー。

今回のブルックナーはインテンポで淡々と押していく。このあたりは先月の富士響と共通しているけど、富士響はとにかく管楽器の音圧が凄く、全体的に「剛」のイメージが強いものだったが、今回の広島響はやや明るめの洗練された響きの弦が印象に残る「柔」のイメージが強いイメージで、それはあたかもベームとベルリンフィルとワルターとコロンビアの各々のモーツァルトくらい雰囲気は違うものだった。

それにしても下野さんのインテンポ感と、そこからくる安定感は無類のもので、ひょっとするとこの曲を初演したハンス・リヒターはこういう方向性の指揮をしていたのではと思われるほどだった。

劇的な効果を必要以上に求めず、とにかく外連味や誇張の無い、ある意味淡々といっていいくらい自然体に事を進めていく。

正直「つまらない」と思われてもいいというくらい愚直に音楽に対峙していくその姿勢を聴いていたら、かつて十代目柳家小三治師匠の言った言葉を思い出した。それは、

「落語は面白くやろうとしたらダメ。もともと落語は面白いものだから、そのままでやればいい」

今回の下野さんはまさにそれという感じの演奏だった。

そのため終楽章のもつ劇的なそれもじつにごく自然かつ過不足なくホールに鳴り響いていたのは当然の成り行きだったと言える。ある意味とても納得させられる演奏だった。

因みにこの日の演奏では、何故か今迄聴いてきた同曲の演奏の中でも飛びぬけてハープがとても印象深く聴こえた。第三楽章はもちろん第二楽章でもそれはかなり顕著だった。

この曲だけ何故ブルックナーは三台もハープを使おうとしたのか、そのときようやくその真意が分かったような気がするほど、とにかく強く印象に残る響きでした。もっともその真意はブルックナーではなく弟子の誰かのものかもしれませんが。

終演後大きな拍手が起きたが、その後舞台上で指揮者とオケが記念写真を撮っていたとか。これは今日が下野監督最後の「定期公演」ということなのだろう。因みに本当のラストは今月末の30日にある「ふるさとシンフォニー」コンサートで。広島響のサイトによると、

「音楽総監督・下野竜也と広島交響楽団が、今年度で閉校となる広島県立安芸高等学校を会場に地域の皆様に身近に音楽に触れていただくコンサートです。
安芸高等学校校歌を安芸高等学校音楽部OB・OGの皆さんも参加されて広響との共演によるオーケストラの演奏でお届けします」

というもの。

何かとても羨ましい気がします。このコンビを聴けたことに今は素直に感謝です。

因みにこの日のブルックナーは約85分。第三楽章は30分近いものだったが、まったくダレることない濃密なものでした。録音もされていたようです。

以上で〆
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