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サッシャ・ゲッツェル指揮東京都交響楽団を聴く。(09/08) [演奏会いろいろ]

都響20220908.jpg

2023年9月8日(金)
サントリー・ホール 19:00開演 

曲目:
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61
コルンゴルト:シンフォニエッタ ロ長調 op.5

ヴァイオリン:ネマニャ・ラドゥロヴィチ
指揮:サッシャ・ゲッツェル


台風でどうなるかと思っていたが、上陸前に熱帯低気圧になりしかも上陸せずという意外な展開のおかけで無事行くことができたのは本当にありがたかった。

コルンゴルトがメインというので天候もあり入りを心配したが、ネマニャ・ラドゥロヴィチの人気のおかげかかなり人の入りは良かった。

前半はそのラドゥロヴィチのソロによるベートーヴェン。

はっきり言うといろんな意味でかなり自由という印象。

自分がソロを取ってない時はぐるっと音楽にあわせるかのように身体をゆっくりと回転させたり、ソロを弾いてる時も主要なメロディを弾いているパートの方に身体を向けるかのような態勢で弾いたり、第一楽章のソロが出て来るまでのオケの演奏にあわせてときおりそのヴァイオリンパートを一緒に弾いたりと、とにかく音楽に身を任せたら感じたままにそのまま舞台上で身体を動かすという、とにかく自由きままというくらいのスタイルで弾いていた。

もっともそれは奇をてらったというよりも、音楽を視覚化かしたような感じがするほどじつに自然な流れの中でやっているので、あざとく演じているという感じは皆無。なので個人的にはこれはこれでとても好感がもてた。もっとも昔気質の人がみたら、怒って席を立ってしまったかもしれない。グルダの演奏会の時の某大物評論家のように。

で、演奏内容の方は、とにかく音楽の流れと言うかひとつの息遣いが非常に長く、まるで巨大なフレーズの連続が延々と続いているかのように感じられるほどだった。

しかもそれが弛んだりダレることなく紡がれていくのだからこれには感心してしまった。そして弱音の神経の配り方と、高音の抜けの良さと響きの伸び方がまた秀逸。そしてオケとの音のかのかけあいも、前述した身体や顔の動きなどを混ぜながらオケの音をしっかり聴いたうえで、その流れを大事にしながら行っていたので、これらが表情にかなりの幅をもたせていたことが弛みやダレを防いでいたのだろう。

だがそれ以上に驚いたのは第一楽章のカデンツァ。

この日はクライスラー版を使用していたが、その奔放なくらい緩急を大きくつけた演奏により、まるでパガニーニが弾いたらこうなるのではというような感じになっていた。また音が明るいせいか、それがまた一種の凄みに繫がっているようにも感じられた。

ただそれが不自然に感じなかったのは、演奏者パガニーニと作曲家ベートーヴェンの生きた時代がかなりの部分で重なっていたからなのかも、と、そんなとことを考えながらこのひじょうに聴くものの耳と心をとらえて離さないソロにじっと聴き入ってしまいました。

続く第二楽章はひじょうに良く歌うものの、やはりここでも弱音の神経の細かさのようなものが目立つ。ただそれによって音楽が神経質に聴こえるということはなく、それを下地にして自然かつ詩的に歌わせるといった感じのそれなので、聴いていて本当にある意味「愛」にみちた音楽となっているように感じられた。

そして最後の第三楽章は一転早めのキレのある演奏となっていく。そしてかなり大胆な表情の変化を仕掛けてくる。

ロンド主題も最初はふつうの音の大きさで弾きながら、しばらくして次にロンド主題が出て来ると今度は一転して弱音、そして三度目に出てきた時は一度目より大きな音でという具合に。

そしてこの楽章でのカデンツァ。ときおり激しく床を踏みならながら気合のより入ったものになっていたせいか、第一楽章以上に凄みのあるものになっていた。

演奏が終わった後、万雷の拍手が起きたのは当然なのだが、ただこれはソロだけでなく、指揮のゲッツェルの功績も大きかった。

かつて神奈川フィルで聴いた時は、弦の表情はいいけど管がややオケに任せすぎのようなところがあったのが気になったけど、今はもうそんなことはなく、じつに木管を上手くコントロールし都響の良さを引き出していた。

そして曲全体も力にみちた堂々とした、それこそときにはブラームスの第一交響曲を思わせめるほどのものに仕上げるだけでなく、ソロの自由さにも柔軟に対応するそれをみせていて、この演奏をより聴き応えのするものにしていた。

それにしても7月に聴いた石上真由子さんといい、今回のネマニャ・ラドゥロヴィチといい、今の人達はベートーヴェンに臆することなく自分を出す事に躊躇しない人が増えているのだろうか。だとしたらじつにこれからが本当に楽しみ。これから中堅や若手のベートーヴェンの協奏曲に注目より注目です。

この後ネマニャ・ラドゥロヴィチのアンコールで、ヤドランカ・ストヤコヴィッチの「あなたはどこに」が演奏された。

かつて日本に二十年以上滞在されていたことでお馴染みの方も多いと思うヤドランカの名曲をこういう形でここで聴くとは思わなかった。

これは心に染みる演奏だった。

指揮者のゲッツェルがオケの中にあった空席に座りこれをじっと聴いていた姿も印象的だった。


ここで20分間の休憩。外に出た時、雨も風も止んでいた。この時は知らなかったけど台風が既に無くなっていたのだから当然だったのかも。


後半はコルンゴルト。かつて神奈川フィルでも取り上げた事があるくらいの本人のお気に入り。その時の演奏は大絶賛されたが自分は聴きに行っておらず酷く後悔したもので、今回のそれは本当に有難かった

1913年初演というから作曲者16歳というのだから驚く。もっとも16歳の交響曲というとリヒャルト・シュトラウスの最初の交響曲があるけど、こちらはワインガルトナーが初演し、ニキシュ、Rシュトラウス、カール・ムックが取り上げたというから扱いがかなり違う。

今回のゲッツェルのそれは綺麗にまとめ美味しく聴かせようという感じではなく、16歳の若き天才作曲家の輝かしい最初の交響曲という、勢いと輝かしさを前面に出した演奏で、かなり鮮烈で刺激的、そして挑発的ともいえる攻めの音楽が展開されていた。

第一楽章などツェムリンスキーやウェーベルンの「夏風の中で」のような雰囲気と、めくるめくような音の饗宴、瑞々しいくらい愛らしい音楽、それらが絶妙に交錯するそれを、ゲッツェルは正攻法でガンガン押し気味に描いていくので、時折ささくれだったように響きが感じられる時があるが、それがまた勢いと輝かしさを強く感じさせるものがあり、当時のウィーンの人達のコルンゴルトへのイメージってこういう感じだったのかもとさえ思わせるものがありました。

第二楽章もほぼ同様な感じだったものの、曲想のせいかよりガッチリとまとまった力強い響きが印象に残る。ゲッツェルの随所にパンチの効いた響きがじつに心地よい。

第三楽章はメロディメーカーとしてのコルンゴルトの非凡さを余すとこなく感じさせてくれる演奏。それにしてもここまで聴いてると、後にアメリカで映画音楽で大成功し、そして戦後時代遅れとしてウィーンをはじめクラシック音楽の楽壇から冷たくみられる悲劇に見舞われる要素が、要所要所に感じられる。
(ただそれを思ったとき少しコルンゴルトと伊福部昭が重なってみえてしまったが、コルンゴルトは伊福部さんのように晩年評価されていたとは言い難かったのが少し辛い)

そして最後の第四楽章は、次々と湧き上がる楽想を冴えに冴えわたる捌き方で聴き手を圧倒し尽くすおそろしく手数の多いこの曲を、じつに見事にその素晴らしさを全身をフルに使いながらの指揮でゲッツェルは描いていく。

最後の輝かしさや決めのカッコ良さも抜群で、予想以上に聴き応えのある名演でした。

この作品。

「春の祭典」や「ばらの騎士」、それに「グレの歌」が出現した時期の作品ということで、ロマン派の終焉ともいえる時期の作品だけど、これを聴いていると新古典派ならぬ新ロマン派をひょっとしたら切り開く作品だったのかもという気がちょっとしてしまった。

ただコルンゴルトがその後アメリカに渡り映画音楽に革命的な衝撃と恩恵を与えることなく欧州にとどまり、その活動をナチスに妨害されることなく続けていたらはたしてどうなっていたのか。

シンフォニエッタはそんなことも考えさせてくれました。
それだけにコルンゴルトの作品はもっと再評価されるべきという気がより強くしたものでした。


今回は19世紀初めに書かれたベートーヴェンの曲と、そのほぼ百年後に書かれたコルンゴルトの曲を、さらに百年後我々が聴くというなかなか凝ったプロでしたが、内容はそのせいかとても盛沢山という感じでした。

もっともこの演奏会が前半はラドゥロヴィチ、後半はゲッツェルが主役の二部構成のような様相を呈し、しかも各々がひとつのフルコンサート並みに密度の濃いものだったこともそう感じさせた理由だと思います。

終演後、満足げな表情をされていた方が多く見受けられたのもその証だったのかも。


それにしても繰り返すようですが前回山田さんの指揮で聴いたウォルトンもそうですけど、今回のコルンゴルトももっと演奏されていい曲だと思います。

昭和の頃の日本のオケだと雑然したものになったかもしれませんが、今の日本のオケは充分これらの曲の魅力を描くことができるので、このあたりの名曲をもっと手掛けてほしいものです。



以上で〆。


しかし本当に台風が来なくて良かったです。天候に左右されてこれが聴けなかったと思うとちょっとゾッとします。因みに今回の公演はカメラは見当たりませんでしたが、音の方は収録されていたようです。

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