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クリスティアン・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ベルリンを聴く。(12/6) [演奏会いろいろ]

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2022年12月6日(火)
東京オペラシティコンサートホール 19:00開演 

曲目:
ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》前奏曲と愛の死
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調(ハース版)


バレンボイムが体調不良の為、指揮がティーレマンに変更。

そして曲目が6日のみ全面変更となった。


シューベルト:交響曲第7番ロ短調 ≪未完成≫作品759 
チャイコフスキー:交響曲第5番ホ短調作品64
 ↓
ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》前奏曲と愛の死
ブルックナー:交響曲第7番ホ長調


自分などはこの変更に思わず狂喜してしまったが、みんながみんなそうではなかったとのことで、これが場所によって悲喜こもごもの状況を作り出したらしいけど、自分のいた所はそういうことはあまり感じられなかった。ただ妙にまわりの席がごっそりと空いていたのが、個人的には嬉しかったがこれまた妙に気になった。


ところで自分はティーレマンを実演で聴くのは今回が初めて。

過去何度が聴く機会はあったが何故かあまり積極的に聴きに行こうとしなかった。理由は、過去の彼の録音にいまいち興味を惹かれなかったことが大。

ただ一度実演で聴いてみたいという気持ちもあったことは事実で、それで今回聴きに行くことに相成りました。

シュターツカペレ・ベルリン(以下、SKBと略)を聴くのは32年ぶりで、彼らのブルックナーを聴くのは1978年以来じつに44年ぶり。その時は指揮がスイトナー、会場が東京文化会館の改修関係で各社各団体がホール不足に苦しんだ時期だったため、今では考えられないかもしれないが、かの渋谷公会堂だったという公演。

曲目は前半が「ジークフリート牧歌」、後半が今回と同じブルックナーの7番(ただしその時はノヴァーク版)、そしてアンコールにモーツァルトの「フィガロの結婚」序曲というもの。

この公演もなかなか忘れ難い印象があり、そんな事も手伝い余計とても楽しみな演奏会となりました。

それにしてもこの日のプロ。

古いファンの中には、1986年のヨッフムとコンセルトヘボウの来日公演を思い出されたかもしれませんが、じつはこの日、文化会館とオペラシティの違いはあれど、このヨッフムの時と聴いていた席が今回かなり似たような場所で自分は聴くことになったので、その時の事もまたちょっと思い出してしまいました。
(あの時は開演前、立っていて膝ががくがくするくらい緊張した事を覚えています)


まず前半のワーグナー。

対抗配置のSKBによるトリスタン。

ひじょうに神経の張った弱音。その後フレーズを繋ぎながら高揚する時はやや前のめりになるほど一気呵成、鎮静化して行く時は音楽を止めようとしているかのような緩急をつけるが、わざとらしいアッチェランド等は皆無。

そして何よりもまるで部隊が見えて来るかのように劇的。この時、仕草もちょっと似ていた事から、かつて東フィルを指揮してこの曲を演奏していたハンス・レーヴラインを思い出した。音楽の構えとかはティーレマンの方が大きいけど、なんか劇場の叩き上げの共通項みたいなものをどこか感じてしまいました。

しかし聴かせ方があざといほど旨い。さすがという感じでした。


この後休憩20分。そして後半のブルックナー。


こちらも先のワーグナーで見せた特長が随所にあらわれていた。

第一楽章からいろいろと細かく弱音の表情、緩急の使い分けもなかなか計算されている。このあたりの寸法の取り方、音楽の呼吸のバランスのとり方の妙は、オペラで鍛えた手腕によるものなのかも。

第一楽章のコーダは焦らず悠揚と音楽を高揚させていたが、この日のSKBのブラス、特に低音の充実感は素晴らしいものがあった。

44年前も、同様にブラスの低音が素晴らしく、それが管弦一体となった木目の響きの中に絶妙な光彩と存在感を放っていたのですが、この日はさすがに44年前程の素朴な木造感は、その当時より洗練されたことで薄まった感じはするものの、それでも随所にかつての木目風の響きも感じられ、おかしな例えですが「落ち着いた光沢感のある総檜造りのパイプオルガン」とでも形容したくなるような、何とも味わい深い音をこの日は感じました。

第二楽章ではその特徴がさらに強くなったのですが、にもかかわらず面白い事にじつはここまでそんなに宗教的な崇高感は感じられず、むしろ強いタッチによる生々しさの方が何故か強く感じられた。

そういえばティーレマン同様ワーグナーに定評のある飯守さんも、この曲で同様な傾向の演奏をしていたのを思い出す。何かこの二人のこの曲に対するワーグナー視点からみたような共通した意識のようなものでもあるのだろうか。

ところでこの楽章。ハース版にもかかわらずあのクライマックスのところでシンバルとトライアングルが使用された(ただしティンパニーは無し)。これはなかなかユニークなものだったが、下手をするとシンバルが変に浮きかねないが、SKBの地力と尋常ではない音楽の立ち上がりがそのあたりを呑み込んでしまうような感じになったためそのような感じはせず、むしろ弦を中心とした流動感を強く感じさせる非常に新鮮な説得力の方を強く感じた。

このあとのワーグナーの葬送はティーレマンがこの日かなり拘った弦の弱音の表情の美しさが際立った。そしてワーグナーチューバの音はまるでパイプオルガンのように素晴らしい響きを奏で音楽は終了。聴き終わった後、思わずマスク越しに大きく息を吐くほど強く気持ちを集中させられた演奏でした。

続く第三楽章はかなり気合の入った演奏で、スケルツォの後半は音楽が前のめりになるくらい猛烈な演奏になり、弦楽器奏者の多くが全身で音楽を奏でているようにみえるほどの熱演と化す。ただそれでもフルトヴェングラーのような狂気の世界に突入するような事が無いのはティーレマンのバランス感覚の表れかも。

そして第四楽章、慌てることなくしっかりと歩を進めた流動感と管楽器の分厚さを交互に前面に出した、じつに聴き応えのある音楽が連続する。そのせいかこの楽章に演奏によってときおり感じる「物足りなさ」や「あっさりし過ぎ感」がまったく感じられず、先行するどの楽章にも位負けしない程の音楽がそこでは鳴っていた。

それにしてもSKBのこの日の低音はとにかく異常なくらい凄かった。ここまでの威力を感じたのは自分が聴いた中では1986,年のヨッフムが指揮した時のコンセルトヘボウくらいだろうか。

コーダ―前のトゥッティではまるでパイプオルガンが鳴り響いたかのような見事な響きだった。

そしてコーダの輝かしい高揚感も特筆ものだったが、最後の音が終わった瞬間、指揮者が構えを解く迄静かだった聴衆もブラボー。

とにかく終わってみればとんでもないくらいの凄い演奏でしたが、気づいたら最後自分はかかとを浮かせつま先立ちで聴いている事に気づいた。余程聴いていて力が入ったのだろう。こんなことはあまり記憶にないので我ながら驚いた。

ティーレマン自身もかなり会心の出来だったのか、舞台に戻る度にスタンディングオベーションをする聴衆がどんどん増えていく光景に余程嬉しかったのか、とにかく終演後は終始上機嫌にみえた。

二度のカーテンコールの間には、舞台に残っていたブラス奏者の所に小走りに賭けよったりしていた。
(はっきり見えなかったが、みんなで並んで写真をとってもらっていたようにみえた)


しかしティーレマンも素晴らしいけど、自分はSKBに心底感嘆してしまった。

もちろんオケとしての技量や味わいもそうだけど、それ以上にブルックナーをあれだけ自分達の中に取り込み一体化したかのような没我の演奏をしながら、あそこまで音楽を高みに押し上げた底力というかスピリットに感動すらしてしまった。

これが伝統をもった超一流のオケの本気なのだろう。

あと正直このプロがこれ一回だけとはほんとうに残念。

もし急遽このプロで追加公演をしてくれたら、札幌でも鹿児島でも聴きに行くと思う。本当にそこまで思わせるくらい聴かずに死ねるかレベルの超名演だった。

あとひとつ気になったのは、けっこうマイクが散見していたけど、この日の公演、録音とか正式にされていたのだろうか。録音されていたらかなり嬉しいです。

以上で〆・


しかしネットでは無料招待された子供たち云々という声がけっこうあった。当初のシューベルトとチャイコフスキーならともかく、この二曲はあまりにもハードルが高かったようです。

それこそ映画鑑賞で、当初は「ドラえもん」だったのが、都合で「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」になったようなものだったのかも。

せめて「田園」「運命」だったらよかったのかもしれないけど、それだと今度は自分が行かないからなあ。

ここの部分だけはちょっと致し方なかったとはいえいろんな意味で残念でした。

因みにこれは招待されたお子様だけでなく大人でもそこそこいたようです。これもまた残念。

あとプログラムが高いというけど、カラヤンが1977年に来日した時は、東京公演と大阪公演が各千円で別々に販売されていた。

当時の価格としてもあれだったけど、日本公演のプログラムが二つに分かれていたのにはかなり驚いた。もっとも自分の購入した東京公演のプログラムは、大きさこそ今回の物より小さいけど、厚さは数倍ありましたが。

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コメント 3

サンフランシスコ人

ティーレマン....

http://chicagoclassicalreview.com/2022/10/thielemann-makes-a-triumphant-return-leading-cso-in-thrilling-and-majestic-bruckner/

10月にシカゴ交響楽団に客演したみたいです...


by サンフランシスコ人 (2022-12-09 07:02) 

阿伊沢萬

シカゴといいSKBといい、ティーレマンは渦中の人のようですね。
by 阿伊沢萬 (2022-12-09 11:58) 

サンフランシスコ人

ティーレマン....米国の歌劇デビューはサンフランシスコ・オペラでした....

http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id442.pdf

ギネス・ジョーンズの「エレクトラ」....... 行きたかった...
by サンフランシスコ人 (2022-12-10 02:28) 

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