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ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団を聴く(12/4) [演奏会いろいろ]

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2022年12月4日(日)
NHKホール 14:00開演 

曲目:
ワーグナー/ウェーゼンドンクの5つの詩
(メゾ・ソプラノ:藤村実穂子)
ブルックナー/交響曲 第2番 ハ短調(初稿/1872年)


地味だけど噛めば噛むほど味の出るようなプロ。

まず前半は藤村さんのワーグナー。

藤村さんは以前、川瀬賢太郎さん指揮する神奈川フィルとのマーラーの「リュッケルトの詩による5つの歌曲」を聴いて以来。

あの時も素晴らしかったけど、今回のワーグナーもまた良かった。その深く説得力のある声は相変わらずだけど、静かに歌っていてもあの巨大なNHKホールの隅々まで無理なく届き響くその声に驚嘆してしまった。

これが世界レベルの歌なのかとあらためて納得させられたものでした。

またこのバックを受け持つルイージ指揮N響の細やかな表情と陰影に満ちたその響きが絶妙で、特に第三曲「温室で」の「トリスタン」の響きにおける、ステンドグラスに陽光が当たる事で微妙にその色合いが変化していくかのようなそれはまさに絶品で。N響がここまでの演奏ができるようになったのかと、ちょっと嬉しくなってしまうほどでした。

このあたりはルイージの卓越した指揮によるところが大だと思いますが、歌と言い指揮といい申し分ない演奏でした。

演奏は弦12型。


このあと休憩が20分。そして後半。


じつはブルックナーの2番を実運で聴くのは今回が初めて。

音盤としては1975年秋のジュリーニ指揮ウィーン響の来日記念盤として発売されたものを聴き始めて以来というからけっこう長い。

ただこの曲は当時「若書き」の曲としてあまり評価されず、日本初演もその前年のブルックナー生誕150年時に、ペーター・シュヴァルツ指揮札幌交響楽団によってようやく行われたくらい。
(N響はこの二年後にサヴァリッシュの指揮で演奏を行った)

音盤もこの当時、ジュリーニとシュタイン指揮WPO、ハイティンク指揮ACO、ヨッフム指揮バイエルン放送があったくらい。

その後は音盤も演奏会でのそれも増えたけど何故かなかなか自分は聴くことがかなわなかったので、ようやくという感じだった。

ただ今回演奏されたのはよく聴かれる1877年稿ではなく初稿ともいえる1872年稿で、第二楽章と第三楽章の演奏順が入れ替わっているのをはじめかなり1877年稿とは様相が異なっている。

特に1877年稿がかなりの素材を「作曲家」ブルックナーによって見通しとまとまりを良好にするため切り捨てられることになってしまったのに対し、この日演奏された1872年稿は切り捨てられる前に即興演奏の大家であった「演奏家」ブルックナーの閃きによって生まれた多くの素材が、バランスやみてくれそっちのけで盛り込まれている。

なので指揮者にとってこの1872年稿は魅力的な素材が目の前に多く展開されてはいるものの、手際を間違えるとかなり冗漫になりかねない曲であるだけに指揮者のそれがかなり問われるものとなっているはずなのですが、この日のルイージにはそんなことを微塵も感じさせず、じつに素晴らしい演奏を展開していました。

この日のルイージの演奏はとにかく丁寧(弱音の表情などかなり細かい)。そしてじつによく歌う。

このためこの曲がかつて言われたような若書き的弱さも感じなければ、バランスや見通しの悪さ、それに冗漫な趣も感じさせない。むしろこれで決定稿でもいいのではないかと思わせるほどの充実感がそこにはあった。

またこの演奏会では弦を中心とした濁りの無い晴朗感がじつに心地よく、特に第二楽章のトリオや第三楽章ではそれが強く感じられたが、ルイージと同じイタリアのジュリーニとこのあたりどことなく似ているような感じを受けた。ただ使っている稿が違うせいかジュリーニ程の流麗感はこの日のルイージには感じられなかった。

このような感じで第三楽章までは本当に曲への印象の再考を迫るような感じだったが、終楽章はさすがにそうはいかないくらい生煮えのような(それこそブルックナーの第九の未完の終楽章のような)部分があり、このあたりは無理せず巧みに捌いていったように感じられた。

最後、じつはちょっと注目していたコーダの弦の低音のみが第一主題を演奏するところ。

かつてアイヒホルンがこれに否定的なそれを表していたが、思ったよりはっきり聴こえたものの、やはり埋没観は否めなかった。それともブルックナーはあえてその埋没観を何某かの理由で狙っていたのだろうか。ただこの日の演奏は埋没観こそあれ、それを補って余りある高揚感が見事で、そのため物足りないという感じはありませんでした。

と、いろいろ考えさせられたものの、終わってみればじつに充実感のある中身の濃い演奏で、この稿を使ってここまでできる指揮者はそんなにいないのでは?というくらいのものでした。

ルイージとN響の今後にさらに期待を持ちたいです。それにしても本当にN響はヤルヴィ以降大進化しました。驚きです。

尚、ブルックナーの演奏時間は楽章間のインターバルを含め約70分。因みにジュリーニの77年稿ノヴァーク版による演奏は58分です。

以上で〆


といいたいところですが、一部の拍手が早いという不満も多少あったものの、それ以上に「だらしない事演奏中にするなよ」と言いたくなるような人がいて愕然。あれ。後ろに人がいたら喧嘩になっていたかも。

NHKホールの人たちは近いうちにそこそこな騒動が起きる事を覚悟しなければいけないのかも。

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