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ペトル・ポペルカ指揮東京交響楽団を聴く(8/20) [演奏会いろいろ]

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2022年8月20日(土)
サントリーホール 18:00開演 

東京交響楽団第702回 定期演奏会

ウェーベルン:大管弦楽のための牧歌《夏風の中で》
ベルク:歌劇「ヴォツェック」から3つの断章*
ラフマニノフ:交響的舞曲 op.45

ソプラノ:森谷真理
指揮:ペトル・ポペルカ

当初予定されていたマティアス・ピンチャーが二か月前に来日不可となり、急遽指揮者交代、さらに当初のピンチャーの「牧歌~オーケストラのための」をベルクに変更し、森谷さんをゲストとして迎えるというプロに変更になったが、森谷さんのベルクというのも凄いけど、代わりに来た指揮者が来月からヴァーレクやレナールトが首席にいたことでお馴染みのプラハ放送響の首席指揮者兼音楽監督に就任する、今年36歳のポベルカというのには驚いた。

指揮者としては2015年にアマチュアオケに客演したことがあるらしく、その後もコントラバス奏者としても何度か来日していたとのこと。彼は24歳の頃から10年程SKDでコントラバス奏者として活躍し、副首席まで勤めていたということなのでSKDに詳しい人にもお馴染みの方だと思う。

さて三年ぶりに来たサントリーホールはコロナ以前とかなり様相が変わっていた。

何というか暗いという以前に比べどこか寂しい感じを受けた。

ただ二年前の次々と公演が中止になり、311以上の危機的状況だった当時の事を考えると、よくぞここまで立ち直ったというべきなのかもしれない。舞台上のオケのメンバーも演奏中マスクをしている人はあまりみかけなかった事を思うと、来年の今頃にはさらにかつての日常に近づけることだろう。

ただしマスクによって寝息があまり聞こえずに済むという長所もあるので、眠たい人はこれからも積極的にマスクをしてくれると助かります。もっともそれでもやはり聞こえてくる大寝息もありますが。

さて前半。

最初のウェーベルン。まず弦の豊かな表情と弱音の神経の細かさ、そして木管の表情付けの上手さが印象に残る。また音楽の起伏は豊かなものの、あまり芳醇さや濃厚さに傾かなかったせいかどこか爽やかで詩的な印象が弦中心に感じられ。ウェーベルンというよりヤナーチェクを聴いているような感さえしたけど、これはこれでとてもいい感じ。

その後オケの強奏になるとポイントは抑えているものの、音楽の流れとオケの勢いに任せた感のある演奏になったが、このあたりはオケのウォーミングアップもかねてのものなのかも。

最後またまた前半の印象が戻ってきたけど、このときはどちらかというと、いろいろ仕掛けは施しているものの音楽にすべてを語らせるという、ちょっと「待ち」のスタイルのように感じられた。ただこれはこの曲のみ。

次のベルクは、先ほどまでの特長がさらに前面に出たような演奏で、指揮者もかなり熱気を前に押し出す傾向が強まって来た。ただこの指揮者、かなり音楽への見通しがいいのか、不純物を取り除き音楽に鮮度を与えるような趣が強く感じられ、決してその熱気が空回りすることがない。そのためベルクのもつ音楽の魅力がかなりストレートに伝わるものになっていた。

そういう意味ではラザレフにちょっと近いものも感じられるけど、あそこまで音楽をその動態視力の良さで精査していくというのではなく、設計の確かさと頭の切り替えの早さでそれを可能にしているという気がした。

そのため森谷さんの歌も素晴らしくオケの中から見事に立ち上がって来るのを感じる事ができた。それにしても森谷さんの歌が凄かった。

その一種冷めたような、それでいて突き放したものでは無い情念の噴出のようなものが凄まじく、正直聴いていて圧倒させられた。

正直いうと自分のいた場所は歌を聴くにはダメダメな場所だったけど、森谷さんの声がその背中からも驚くほど強靭に響いてきて、途中からダメダメな場所で聴いているという実感がわかないくらいのものがありました。

突然降ってわいたようなこの日のこの曲ですが、やる人がやればどんな状況でも素晴らしいものになるという証なのでしょう。


ここで休憩20分。


そして後半のラフマニノフ。

ここまでほぼ20年おきに作曲された曲が並んでいるように配置されているのですが、にもかかわらず最後は時代が昔に戻ったような作品になるというのも面白い。
(偶然かもしれないけど、この日の一曲目とこの曲はともにユージン・オーマンディが初演した曲)

最後のラフマニノフは編成も大きな打楽器群や一部楽器の追加を除けば、ブルックナーの5番あたりの二管編成とほぼ同じということで、それほどの超大編成というものでもないし、むしろ編成たけならベルクの方が大きいかもしれない。
(因みにこの日は対抗配置の16型)

だがこの日のラフマニノフは物凄い程にオケが鳴り捲った。

それにはここで指揮のポペルカが一曲目と違い徹頭徹尾「攻め」の姿勢に転じたことも大きかったと思う。

抉るところは徹底的に抉り、鳴らす所は容赦なく鳴らし、見栄をきるところは思いっきり見栄を切り、歌う所はとことん歌い上げるということを、今まで聴かせてきた特長をすべて活かしながらの上で音楽をどんどん進めていった。というかとにかく「攻め」ていたという感じがする演奏だった。

しかもそれらを頭の切り替えがとにかく早いのか、瞬時にして違和感なく次々とハッキリこちらに提示してくるので、聴いているこちらも一瞬も気が抜けないくらいの気持ちにさせられてしまった。

第二楽章と第三楽章を続けて演奏したことも、こちらの気持ちを切らさないという意味ではとても効果的だったと思う。

またオケそのものもラフマニノフになり一段と音が充実したものになり、特にこの曲での打楽器群の踏ん張りはかなりのものがありました。

とにかく最後の大音響に至るまで、鮮やかで爽やかで、そして熱いラフマニノフでした。

演奏後の聴衆やオケの反応も良く、正直この日一日というのがもったいなく感じられる演奏でした。
(天候のせいもあり、人の入りは大入り満員とまではいかなかったことも残念)

実際二日続きだったらオケもさらに指揮者の音楽に踏み込み練れた音楽を奏でていたような気がします。もっとも初顔合わせということを思うと、この日のそれもかなりのレベルの演奏ではありましたが。

最期スタンディングオベーションを贈られたポペルカ。

次はいつの来日になるのか。東響への再登場かそれともプラハ放送響との来日公演か。

バッティストーニあたりとほぼ同年齢(同郷フルシャより五つ年下)なのでこれからの活躍、そして今から次の来日がとても楽しみです。


しかし誰かが言ってたけど、弦楽器出身のチェコの指揮者は本当にいい人が多いなあ。

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