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ガウクとレニングニラードフィルのチャイコフスキーの「悲愴」を聴く。 [クラシック百銘盤]

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1958年にアレクサンドル・ガウクが
日本でレニングラードフィルを指揮した演奏会のライブ盤。

そのLP盤がCD化されたのを聴いた。

印象としては、以前LPを聴いときに比べて、音がややスリムになったというか全体的に軽くなった。

以前聴いたLPでは全体的にもっと骨太で重々しく、そのため前半やや立ち上がりが鈍く感じられたが、音がスリムになりパンチが鋭くなったことから、その鈍さがあまり感じられなくなった。

またクリアさがLPに比べやや後退しているが、これはもう劣化等の問題で致し方ない。

そのためなのか弱音部で、若干聴きとりにくい部分があるのが残念。

ただ余白に入っている小品三曲は、45回転盤のせいか音量がより豊かで音質が良く状態もかなり良好。

一曲目の「情景」のみ名曲ということで、針を通した回数が他の曲に比べ多いせいなのか、気持ちクリアさが落ちいてるような気がするけど気のせいか。

あと日比谷のデッドさは相かわらずだけど、
CD化により音質が若干変わったせいか、
第8スタジオのトスカニーニとNBCに似た音の印象を感じた。

そういえば日比谷で旧NBC交響楽団である、シンフォニー・オブ・ジ・エアを聴いた某評論家が、トスカニーニの訓練の痕跡を、そこから聴きとることができたというコメントをしていたが、ひよっとすると日比谷と8スタは、基本的な部分でどこか似た音質特性を持っているのかも。

余談ですが会場が同じ日比谷で1954年に録音された、カラヤン指揮N響の同じ「悲愴」のライブを聴き比べると、なかなか面白いものがあります。

そう言えばかつて日比谷で井上道義氏指揮の、サンクトペテルブルグ響によるショスタコーヴィチを聴いた時、二階席上段にこれでもかという強烈な音の直撃があったことを、この演奏を聴いてて思い出しました。

日比谷公会堂。

今年(2019)10月に開場90周年を迎えますが、再開されたらぜひ再びオーケストラ公演を聴いてみたいです。


話を戻しますが、ここでのガウクの指揮は、オケの性質も手伝ってか、かなり豪放かつ堅固、ロマンティックかつシンプルな響きを有していて、彼が来日時にニキシュの悲愴を例にあげながら、この曲関しての基本的な考えを述べていたそれが、じつに見事に実践されている事が再確認させられた。

この指揮者の最盛期の録音が聴けるということでも、これは本当に貴重な演奏の復刻といえるだろう。

またレニングラードフィルも素晴らしく、聴きようによっては今のテミルカーノフのそれと、かつてのムラヴィンスキーのちょうど中間という、そんな感じの雰囲気の音を出している。

因みにこの時のメンバー表を、1975年来日時のそれと比較してみると、管楽器はトロンボーンのコズロフ、それにホルンのブヤノフスキ―の名前があるものの、他のパートの首席等はかなりメンバーがその間入れ変わっている。

それに比べ弦楽器の方は首席や副首席がほとんど同じという布陣で、1958年来日前に弦が世代交代し、管がその後世代交代をはたしたのかもしれない。

因みに弦のメンバーには若き日のリーバーマンの名前があるが、この時はまだコンサートマスターとしての来日ではない。

またティンパニは当時63歳のヴァレリー・オサチェク。当時ソ連最高のティンパニ奏者のひとりでイワノフの先生にあたり、ショスタコーヴィチのレニングラード初演にも参加したとか。
この人のこんなにしっかりと音の入った盤は数少ないと思われるので、そういう意味ではこれもまた貴重かと。

そういえば1970年に来日した時、音が前回に比べ変わったという話を聞いたことがあったけど、そのあたりの影響等があったのかもしれない。

ところでこの盤が比較的早く廃盤になったのは評価が低かったからと、このCDの解説にあった。

たしかにそれはそうかもしれないけど、それ以外にもいくつか大きな要因がある。

この盤は翌年もカタログに残っていたが、その翌年販売元のビクターの洋楽に編成変更等があったようで、当時のメロディアを扱っていた新世界レコードが大きく変更が施され、半分以上の規格番号が消え、一部の有名な演奏者や人気の名曲のみが順次再発売となった。

これにはこのレコードが発売された翌月、ビクターが日本初のステレオレコードを発売したことで、今後のそれに対する備えという意味もあったのかもしれない。

そう言えば当時の録音メーカーがブルーノ・ワルターに対し、「モノラル録音は市場からステレオ録音によって淘汰される」という事を伝え、コロンビアセッションに踏み切らせたという話があった。

ワルターのこのセッションが始まったのは1958年。ビクターにも同じ考えが当時あったのかもしれない。

そして1960年にステレオ録音された、ムラヴィンスキーのチャイコフスキー三大交響曲が、ドイツ・グラモフォンから発売されると、もはやモノラル録音の出番は無くなってしまい、同じグラモフォンから1958年の来日公演時、来日記念盤として発売されていた、1956年録音のムラヴィンスキーによる「悲愴」等も、カタログからいつの間にか消えてしまった。

※ただ当時はステレオ録音対応のプレイヤーが少なかったので、同じ音盤でステレオ盤とモノラル盤の二種を発売していものも一部にはあったようです。

もっともその後も発売されなかったのは、多くのモノラル録音が廉価盤として大量に再発売された時代や、1970年以降の来日時にも記念盤として再発されなかったこと、そして他の約18時間に渡る録音の所在不明等と合わせて考えると、ひょっするとマスターは早々に、ソ連側に引き渡されるという契約があり、この盤も結果的に枚数もしくは期間限定的なものになったのかもしれない。

カラヤンとベルリンフィルや、クーベリックとバイエルン放送の1975年公演も、
同様のケースがあったと聞いています。

もっとも限定という謳い文句を自分は見つけられなかったので、これはあくまでも推測です。

また小品三曲のうちチャイコフスキーはアンコールだったものの、グラズノフは当日プログラム後半にあったので、その時に演奏されたものだったかもしれないが、今手元に当時のプログラムノートが無く確認できないのが残念。

ひょっとすると後半でもアンコールでも各々演奏されたかもしれない。

とにかくいろいろと聴き処のある音盤の復活。

ぜひ機会がありましたらご一聴を。


あとこれは余談ですが、この時レニングラードフィルは羽田に二機のTu-104で来日しましたが、このとき、

 「交響楽団一行を降ろしたTu-104は、この音楽会を主催した朝日新聞社による航空関係者の機内見学会とデッキからの一般見学会(1千人)などに開放し、蒲田警察署などによる徹夜の警戒をうけた翌13日(日曜日)淡路人形浄瑠璃一行21人を乗せてモスクワへ帰りました。
 レニングラード交響楽団は、1か月以上にわたって全国を公演し、5月21日淡路人形浄瑠璃一行を積んで再来日したTu-104によって日本を離れたのでした」
http://dansa.minim.ne.jp/a3605-Haneda-1958Tu-104.htm

ということがじつはあったようです。

このソ連に行った団体は、現在も活動を続けられている「淡路人形座」の事で、このソ連公演の事は、
https://awajiningyoza.com/introduction/overseas/

にも記されています。




◎演奏時間

「悲愴」
① 18:45、② 7:39、③ 8:56、④ 10:04、拍手無し

「白鳥の湖」
〇情景 2:47、拍手無し
〇ワルツ 6:33、拍手急速フェードアウトでほとんどカットに近い。

「ライモンダ」
〇スペイン舞曲 1:36、拍手急速フェードアウトでほとんどカットに近い。

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阿伊沢萬

確かに録音は古いですが、当時の人達はあんな物凄い音を聴かされたら、日本のオケに絶望すら感じたかもしれません。

当時の海外のオケはそれこそ幕末の黒船来航みたいな衝撃だったかも。

soramoyouさま、nice! ありがとうございます。
by 阿伊沢萬 (2019-06-15 00:03) 

ぶりちょふ

大変ご無沙汰しております。近年録音に向き合うようになってレコードのイコライザーカーヴの研究に没頭しております。1955年以降のRIAAカーヴ統一というのはハードの話だけでありまして、現代のCDに至るまで一度もRIAAカーヴでプレスされた商業録音が存在しないことを突き止めました。

ガウクの悲愴ですが、これはトスカニーニが晩年に使用していたEQカーヴであるNew Orthophonicカーヴで録音されているのではないかと思い当たりましたので、正しい音でお聴きいただきたく私のブログに第3楽章をアップいたしました。デッドな会場故全然違う音とは感じられないかもしれませんが、スピーカーから大き目の音で再生いただけましたら違いは歴然としていると思います。バカでかい音で鳴らす必要はありませんが、小さめの音で再生される場合は殆ど違いが分からないかもしれません。

ブログは昨年から始めました。モノラル盤だけでなくステレオも含めたレコードのイコライザーカーヴを検証する世界初のブログです。レコード業界に歯向かう内容になってしまえ可能性があるので細々とやってます。日本の音楽ファンは殆どイコライザーカーヴの存在を知らないので英語表記にしています。ネットに転がっているレコードのカーヴ情報は信用できるものが全くありませんが、そのような頼りない記事を参考に複数のカーヴを搭載したプリアンプを弄るマニアが出てきて、自分で適切なカーヴが探せないとRIAAカーヴという結論に戻って全く進歩しないのが残念です。ブログ、お暇なときにご高覧ください。検索ウインドで「MP3」と入力すると、他のサンプル音源もお聴きいただけます。
by ぶりちょふ (2019-09-29 09:20) 

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