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アレクサンドル・ヴェデルニコフ指揮NHK交響楽団を聴く(12/2) [演奏会いろいろ]

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12月2日 開演時間:15時 NHKホール

(曲目)
スヴィリドフ/組曲「吹雪」―プーシキン原作の映画から
スクリャービン/ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 作品20(P/アンドレイ・コロベイニコフ)
グラズノフ/交響曲 第7番 ヘ長調 作品77「田園」



ヴェデルニコフを聴くのはロシアフィルとの来日公演以来だから、
もう十年以上ぶりということになる。

あのときは泰然自若な音作りと嵐のような猛烈な興奮を兼ね備えた、
ある意味アシスタントを務めた事があるフェドセーエフの若き日のそれを思わせるようなスタイルだった。


あれから十年ぶりに聴いたヴェデルニコフは、
かつてのそれと大きくイメージは変わらないが、
以前より格段に表現の幅が大きくなり細やかな陰影や深さを感じさせるそれとなっていた。
(ちょっと先月聴いたアレクセーエフと似たような所がある)

特に弦の美しさは格別なものがあり、
それは一曲目のスヴィリトフで最高に発揮されていた。

それにしてもじつに味わいのある演奏だった。

この曲は全曲や一部をかつてスヴェトラーノフやフェドセーエフでも聴いているが、
それらと比べても何等聴きおとりすることのない、本当に極上の演奏だった。


続いての協奏曲。

こちらはコロベイニコフの強靭かつ明晰なタッチのせいか、
よくこの曲をショパン風味に弾く演奏が多い中、
指揮者ともども正面突破を試みるような演奏に徹した為、
辛口のラフマニノフとも言いたくなるような強烈な演奏になっていた。

そのせいか19世紀終わりに書かれたこの曲から、
より強い20世紀の感触を受けたのも確かで、
この曲より十年程後に書かれた「法悦の詩」を感じさせるような所が、
ときおり感じられたような気がしたものでした。


ここまでが前半。

ここまでで感じた事はN響が演奏していることもあるけど、
ロシア機な雰囲気というものはメロディ等には感じられるものの、
全体的にそういうものに頼らない、
曲そのものを真正面からしっかりとらえながら、
あるがままの良さをじっくりと描こうという指揮者の姿勢。


ただそのために他人事になったり一歩退いたりという感はなく、
音楽に対してかなり踏み込んだような趣が強く、
それが結果としてその曲の良さだけでなく、
結果的に今まで感じる事のなかった別の面も表出されるという、
なかなかの出来になっていたように感じられた。


ただこれはスヴィリドフやスクリャービンだから上手くいったところもあり、
これらより国民楽派的な要素が強いグラズノフとなるとどうなるか。

そして後半。


正直言うと自分はグラズノフの交響曲とあまり相性が良くない。

ムラヴィンスキーの指揮で4番や5番の録音を聴いた時も、
これといった印象を自分は受ける事はなかった。


ただこの7番は例外的にとても好きな曲なので、
あまり演奏される機会もないためとても楽しみにしていました。


結論から言うと前半のやり方をここでも踏襲した演奏となったため、
予想通りロシア風味というものはあまり強くなかったけど、
ちょっとボロディンの交響曲第3番を想起させるような第一楽章での詩情感たっぷりの表情づけなど、
心から音楽に浸ることができる、じつに嬉しくなるような期待通りの演奏となっていました。

確かに随所にこれがロシアのオケだったらと思った部分がなかったわけではないけど、
それはオケがN響という時点でしょうがない話。
(それでもホルンのビブラートなどはなかなかの味わいでした)

ただこれはN響が悪いとかそういう意味ではなく、
これは言葉では伝えきることのできる範疇の外の話であって、
そこの部分はオケがNYPOであろうがロンドン響であろうが、
同じであったと思います。


逆にその分この曲のそれ以外の聴かせどころみたいなものがいろいろと感じさせられ、
前半でも印象としてあった、
この曲にはこんな面もあるのかという新鮮な部分も少なからずありました。

それにしてもオケの音が大きい。

この曲は打楽器こそ奏者が四人いるものの、
基本二管編成ということでブラームスの交響曲第2番あたりとそれほど変わらない。

にもかかわらずホール全体にじつに無理なく伸びやかに響くそれには、
ちょっと驚いてしまいました。

この指揮者ロシアフィルでも感じたけど、
けっこうオケから無理なく大きく伸びのある、
それでいて濁りの無い響きを引き出すことができるようで、
これがこの曲ではかなりものをいっていました。

特に第四楽章終盤の盛り上がりはじつに巨大なスケール感を持った圧倒的なもので、
かつてフェドセーエフがN響を指揮して聴かせたショスタコーヴィチの交響曲第1番を彷彿とさせるものがありました。

またこのときのN響の分厚い弦の響きもさることながら、
金管の野太いくらいの中低音が、
まるで往年のソ連オケのような響きを垣間見させるような凄みをみせたため、
それに輪をかけたような凄い音楽となっていました。


このため最後の〆も完璧に決まっており、
ひじょうに聴き応えのある充実感溢れる見事な演奏となっており。、
個人的には大満足のそれとなりました。


ただ残念なのはやはりこの曲メインでは、
この大ホールではなかなか満員御礼とはいかなかったこと。

もう少しより多くの人にこの曲とこの演奏を聴いてほしかったです。


最後に余談ですが、今月は本当ならデュトワ登壇月。
ですがご存知の通りのスキャンダルで今年だけでなく来年もN響へのそれは無いようです。

今年はそれでもヴェデルニコフ、フェドセ―エフ、
そしてなんとヘンゲルブロックという豪華版になったのは不幸中の幸い。

ただ来年はAプロが今の所指揮者未定のようなので、
できればまたヴェデルニコフに指揮してほしいところですがはたして。


以上で〆。

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阿伊沢萬

地味な曲目でしたが、かなり満足度の高い演奏会でした。ただグラズノフでこの入りだと、来年のヴァインベルクやジョン・アダムスはどうなっちゃうんだろうと、かなり不安です。

soramoyouさま、はじドラさま、nice! ありがとうございました。

by 阿伊沢萬 (2018-12-03 20:41) 

サンフランシスコ人

「確かに随所にこれがロシアのオケだったらと思った部分がなかったわけではない...」

ロシアのオケの日本公演で、やらないと曲目だと思います...

「そこの部分はオケがNYPOであろうがロンドン響であろうが、
同じであったと思います...」

テミルカーノフとNYPOだったら、満足度の高い水準になった?


by サンフランシスコ人 (2018-12-04 06:44) 

サンフランシスコ人

NHK交響楽団を聴く(12/12).....2018年12月2日(日) 3:00pm.....

(12/12)でなくて(12/2)?
by サンフランシスコ人 (2018-12-04 06:58) 

阿伊沢萬

>ロシアのオケの日本公演で、やらないと曲目だと思います...

スヴェトラーノフは1987年にアンコールで一部の曲をソビエト国立と演奏しています。フェドセーエフは2012年にチャイコフスキー響と今回と同じ曲目を演奏しています。因みに後者の演奏会には行っていません。

>テミルカーノフとNYPOだったら、満足度の高い水準になった?

水準は高いと思いますが、自分の言う所のロシア色は今回と同様レベルかと。

>日付は訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
by 阿伊沢萬 (2018-12-04 16:02) 

サンフランシスコ人

「ロシア機な雰囲気というものはメロディ等には感じられるものの、
全体的にそういうものに頼らない..」

米国のオケも同じ方針見たいです...
by サンフランシスコ人 (2018-12-06 04:19) 

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