ニコライ・アレクセーエフ指揮サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団を聴く(11/11) [演奏会いろいろ]
11月11日(日) 開演時間:15時 文京シビックホール
曲目
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番【ピアノ】ニコライ・ルガンスキー
チャイコフスキー/交響曲第5番
テミルカーノフの代演として今回アレクセーエフが同行する事となったこの公演は、そのためある意味ひじょうに興味のある公演となりました。
アレクセーエフはかつて新日本フィルに客演したり、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニーの室内オケと来日したことがあるものの、それほど日本では知名度が高い指揮者ではない。
またいい意味での効果を狙ったりする演出や、ドラマ性や劇性といったものとは無縁の、極めて実直な指揮者なためスター性とも程遠いタイプなので、話題に上ることも少ない。
だが指揮者としての実力はたいへんなもので、特にオーケストラから「強い音」「明晰な音」をしっかり導き出す事に長けており、そういう意味では間違いのない指揮者というのが基本ラインにある。
かつて新日本フィルに客演した時は、このオケから驚く程野太く、迫力のあるスケールの大きな音楽を引き出した時には酷く驚嘆したが今回ははたして。
結論から言うと、以前聴いた時と基本ラインは変わらないが、以前より穏やかで、抒情的な方向に強く座標が向いたように感じられた。これは年齢的なものもあるだろう。
どっしりとした風格のある音楽や安定感、さらに長大なフレーズが連続したように聴こえるような音作りや、弱音の美しさは以前と同じイメージだし、弦が一枚岩で響くそれもほとんど同じだったが、音楽の表情、特に弦の歌い方が大きくなり、さらに以前より穏やかなイメージが今回は強かった。
またオケの音が以前聴いたこのオケと違う音が随所で聴こえた。
このオケ。ムラヴィンスキー時代は「苛烈」「強靭」というものがあり、テミルカーノフになってから「典雅」「壮麗」という、形から色へとその重きが変化していったが、今回はホールのせいもあったかもしれないが、その中間のような響きのように感じられた。
今回オケは18型対抗配置、そして金管はすべて弦と同じく山台無し、そしていつものようにトランペットもトロンボーンも、上を向くことなく常時やや楽器を下向きにして吹奏していたにもかかわらず、以前聴いた時よりかなり音量があった。
その分やや粗く響いていたようにも感じられたかもしれないが、オケをみているとそれはそういう音楽を無理強いされたというより、テミルカーノフより自由にさせたことからそういう方向に音楽が向かったようにも感じられた。
それは特に後半のチャイコフスキーに如実にあらわれていた。
(おそらく弦のボーイング等は、テミルカーノフのそれをいじらずそのままやったとは思うけど、それでこういう音が引き出せたとしたらこの指揮者、こちらが思う以上にオケをドライブする力が強烈なのかもしれません。)
なかなかそういう意味ではユニークというか、ちょっと先祖帰りしかかった音、それこそ一昔前の旧ソ連オケの演奏を彷彿とさせる瞬間が聴けたのは面白かった。それともこのオケの基本はここ半世紀、じつはあまり変わってないのだろうか。
因みに前半のラフマニノフは、オケを14型に刈り込んだものの、それでも随所にピアノを呑みこむような迫力を聴かせた。
ルガンスキーは相変わらず見事だったけど、ちょっと前半オケとうまく噛み合わない部分が散見されたのは、やはり指揮者が代演ということもあったのか。そういえばこの日はホールの開場時間が少し遅かったようだけど、そのあたりの練習や打ち合わせが長引いたためなのかもしれない。
最後はアンコールとして「ニムロッド」。
最近この曲はこのオケ、特にテミルカーノフが好んでアンコールとして演奏しているけど、ひょっとしてテミルカーノフはアンコールというより、この曲を自分の演奏会の「クロージングテーマ」としているのかもしれない。
それを思うと、アレクセーエフがこの曲を持って来たのは、ファンにとっての心づかいだったのかも。
それにしても、客席側からもらった花束をもって退場したのはともかく、再度舞台袖からあらわれた時、その花束をもって、しかもそれを高々と客席に掲げていたのはなんとも微笑ましかった。よぼと嬉しかったか、またある意味かなり緊張していたのだろう。
この日本公演、ぜひ指揮者もオケも成功してほしいものです。
あと余談ですが、テミルカーノフとアレクセーエフの位置関係を何かに例えるとしたら、かつてのフィルハーモニーにおける、ムラヴィンスキーとAヤンソンスのような関係といえるのかもしれません。
それくらいアレクセーエフはこのオケにとって重要な存在といえると思います。
「それほど日本では知名度が高い指揮者ではない....」
米国でも知名度が高い指揮者でないです....
by サンフランシスコ人 (2018-11-12 05:10)
>米国でも知名度が高い指揮者でないです....
私は米国では無名だと思っていたのですが、少しは知名度があるのでしょうか。
by 阿伊沢萬 (2018-11-12 19:35)
通りすがりですみません。
わざわざメガネをかけるパフォーマンスして(テミルカーノフも儀式のようにいつもやりますよね)、チャイ5ではタクトに切り替えてたのにまた手振りに戻してたあたり、「ニムロッド」は明らかにテミルカーノフの所作を意識したネタだったんだと思います。
そのうえであのスローテンポの愛おしむようなニムロッドを聴くと、団員たちと指揮者のボスへの想いがぐうっと胸にせまって、久しぶりにちょっと泣いてしまいました。
by じゃい (2018-11-12 20:52)
この眼鏡の仕草は、ムラヴィンスキーやフェドセーエフもよくやっていたので、レニングラードで音楽を学んだ人間の伝統なのかと、一時不思議に思ったものでした。
>団員たちと指揮者のボスへの想いがぐうっと胸にせまって、久しぶりにちょっと泣いてしまいました。
ニムロッドは文京でもいい演奏でした。彼がこのオケはテミルカーノフのものという意識と、テミルカーノフを目当てに来た聴衆の方々も強く意識していたことを強く感じさせるものがこの「ニムロッド」にはあったような気がします。
じゃい様、コメントありがとうございました。
by 阿伊沢萬 (2018-11-12 22:08)
「私は米国では無名だと思っていたのですが、少しは知名度があるのでしょうか...」
http://www.democratandchronicle.com/story/lifestyle/music/2017/02/25/famed-orchestra-returns-rochester-first-time-55-years/98300976/
"....this performance, the orchestra will be led by Nikolay Alexeev."
ある?
by サンフランシスコ人 (2018-11-13 09:02)