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ベルリンフィルのある時期の録音をみて思った事。 [クラシック百物語]

203.jpg
カラヤンが指揮したベートーヴェンの交響曲全集。

上のそれは1961年末から1962年にかけて録音されたもの。

カラヤンが初めてベルリンフィルを指揮して録音した、
いわゆる「全集」もの。

1955年にベルリンフィルのトップに着任し、
7年目にしてようやく完成されたもので、
今でもその評価は高く、
フルトヴェングラー時代からの名手も多数在籍していた事もあり、
ベルリンフィルの今とは違うそれを愉しめるという意味でも、
けっこう人気のある全集です。

もちろんそこには当時のカラヤンのスタイルが明確にあらわれた、
「カラヤンのベートーヴェン」もしっかり刻まれていて、
前任者フルトヴェングラーのそれが入り込んだような、
中途半端なそれは感じられない。

「さすがカラヤン、自分の音が出せてようやく録音したのか」

と、その我慢強く時期を待ち続けたそれに感心したものでしたが、
最近「ちょっと待てよ」というかんじになってきた。


というのも、
ステレオ録音が本格化した1957年以降、
ベルリンフィルを指揮して何人もの指揮者が、
かなりのベートーヴェンの交響曲を録音していた。

クリュイタンスが全9曲、
フリッチャイが4曲、
ヨッフムが3曲、
ベームとマゼールが2曲、
カイルベルトとケンペが1曲。

7人の指揮者で計22曲が1957年から1961年迄の間に行われている。

表にするとこんなかんじになる。
BEE1.jpg

ak=クリュイタンス
ej=ヨッフム
rk=ケンペ
ff=フリッチャイ
kb=ペーム
lm=マゼール
jk=カイルベルト
hk=カラヤン
※マゼールの6番は1959-1960にかけての録音。
※クリュイタンスの8番は1957と1960に、分けて、もしくは二度の録音、または一部録り直し、したものをひとつに編集したとのこと。


特に偶然かもしれないけど、
前任者フルトヴェングラーが得意にしていた、
3番、5番、7番、が3人から4人で各々録音されたが、
これは他の番号より録音が多い。

もちろんこれらの曲は人気があり、
カタログを増やし売り上げを伸ばそうとしていこうという、
当時のレコード会社の方針と、
数社がこれらの録音に絡んでいたことで、
このような事が起きた事は確かだろう。

ただはたしてそれだけだろうか。

これから先は個人的な憶測です。


じつはこれらの録音。

ひょっとしてカラヤンが望んだ事ではなかったかという事。
(カラヤンにとって願ったり叶ったり、渡りに船だったという意味です。)

ひとつはこれらの録音により、
さらに今まで以上にベルリンフィルの知名度が上がり、
それらの録音もよく売れるだけでなく、
今後の自分の録音の売り上げにもプラスになるだろうということ。

そしてもうひとつ。

じつはこちらの方がカラヤンにとって重要なのかもしれないが、
前任者の色をこれらの録音の執拗な積み重ねにより徐々に薄め削り取り、
この機会を利用し結果的に更地にして、
自分の音楽を色濃く投影できるようにしようと、
そうカラヤンが考えていたのではないかという事。

しかもコンサートでは自らもベートーヴェンを指揮しているので、
さらにそれに輪をかけた状況になっている。
(じっさい1957年のベルリンフィルとの来日公演でも、3番、5番、7番を各々複数回指揮している。)

因みに3番は、クリュイタンス、フリッチャイ、ケンペ、ベーム、
5番は、クリュイタンス、マゼール、フリッチャイ、
7番は、クリュイタンス、ベーム、カイルベルト、フリッチャイという、
まったくタイプの違う名指揮者が次々と録音していったため、
より更地にされたような気がしてしまう。


そしてこれらの録音が終了すると同時に、
カラヤンは1961年末から1962年にかけて一挙に全集を録音し、
その後カラヤンがベルリンを去るまで、
このオケでベートーヴェンを録音したカラヤン以外の指揮者というのは、
クーベリックを除くとおそらくいなかったような気がする。

これと同じような事は、
ブラームス、シューベルト、モーツァルト、シューマン、
そしてブルックナーやドヴォルザークの一部でもそれはみられる。


このあたりはたして実際はどうなのだろう。

カラヤン自身が手を下したというわけではないようなので、
このあたりの事はもはやわからないけど、
何かとにかくカラヤンがこの機会をうまく利用し、
自分のオケをつくる事に成功したような気がしてしまう。


もっともこれらの事は、
結果的にカラヤンとの聴き比べとなり、
よりシビアな聴き方をされるリスクも生じるけど、
そこの部分には自分に絶対の自信を持っていたのだろう。

そういう意味では、
カラヤンの凄さをあらためて感じさせられたのも確かで、
そんな事を考えながらこの演奏を聴くと、
また違ったものが感じられる気がします。

LP時代に一時代を築いたこの全集も、
すでに録音されて半世紀以上が経ち、
カラヤンも今年(2018)生誕110年を迎えます。
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サンフランシスコ人

「ひょっとしてカラヤンが望んだ事ではなかったかという事...」

カラヤンは、ニューヨーク・フィルハーモニックとの公演でも、1番&9番を指揮している....
by サンフランシスコ人 (2018-01-25 02:49) 

阿伊沢萬

サンフランシスコ人 さま。

あと余談ですが、グラモフォンが後にWPOと契約したのも、BPOがカラヤン専属オケのようになったため、ベームをはじめとしたグラモフォンと契約した指揮者の録音場所を確保するという意味でも切実なものだったかもしれません。


soramoyou さま

これらはあくまでも憶測ですが、そう考えるとなんとなく多くのセッションのそれが妙にストンと収まるような気がしました。考えすぎかもしれませんが。

nice!ありがとうございます。

by 阿伊沢萬 (2018-01-26 21:36) 

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