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「春の祭典」録音雑感 [クラシック百物語]

今年はストラヴィンスキーの「春の祭典」が初演されて百年。
ベートーヴェンの交響曲第7番が初演されて二百年という年にあたる。
この二つのリズムというものに重きが置かれた曲が、
百年という歳月を挟んで初演されていたというのも面白いが、
「春の祭典」は特にここ半世紀でその認知度というか、
その一般普及度が大きく変貌したことはさらに興味深いものがある。

「春の祭典」の録音や演奏はたしかに第二次大戦以前にもあり、
ドイツ初演をフルトヴェングラーがしたり、
ディズニーの「ファンタジア」でかなり改変されてはいたが、
その全曲が取りあけられていたりと、
決して知られていない曲というわけではなかった。

だが1950年代におけるステレオ録音の出現、
そしてブーレーズやマルケヴィチによる論文や録音、
そしてその演奏によって初演50周年の頃には、
かなり一般のクラシックファンもよく知る曲へとなっていった。

ただこれ以前のステレオ録音というと

モントゥ指揮パリ音楽院(1955)
アンセルメ指揮スイス・ロマンド(1957)
マルケヴィチ指揮フィルハーモニア(1959)

というあたりが代表的なものというくらいだった。

だがブーレーズが1963年にフランス国立放送と同曲を録音したとき、
「春の祭典」の録音におけるひとつのきっかけが生まれた。
1963年度仏ACC&ADFディスク大賞を受賞したことで、
大きな話題をよび、名盤としても高く評価されました。

※ただ同じ年に録音されたカラヤンのものは…。

こうしてこの曲の録音がセルに結びつくとわかると、
多くのレーベルがこれらの曲の録音を開始しはじめます。
ですがその山場は意外にも早く訪れます。

1969年に録音された二つの「春の祭典」・

アメリカCBSが録音したブーレーズ指揮クリーヴランド
イギリス・デッカが録音したメータ指揮ロサンゼルスフィル

このまったくタイプの違う二つの「春の祭典」はどちらも話題になり、
しかもかなりのセルを記録したといいます。

このため1970年代は「春の祭典」ラッシュとなりました。
思いつくだけでも並べてみると以下の通りです。

72年 ティルソン=トーマス指揮ボストン
72年 バーンスタイン指揮ロンドン響
73年 ハイティンク指揮ロンドンフィル
74年 マゼール指揮ウィーンフィル
74年 ショルティ指揮シカゴ
75年 アバド指揮ロンドン交響楽団
75年 カラヤン指揮ベルリンフィル
76年 コリン・デイヴィス指揮コンセルトヘボウ
77年 チェクナヴォリアン指揮ロンドンフィル
78年 マータ指揮ロンドン交響楽団
78年 ムーティ指揮フィラデルフィア
79年 小澤指揮ボストン
80年 マゼール指揮クリーヴランド
81年 ドラティ指揮デトロイト
81年 フェドセーエフ指揮モスクワ放送交響楽団

この1972年から1981年までの十年間の録音はとにかく凄まじい。

当時はLPの時代のため、両面に一部二部をわけてプレスしたため、
三十数分でLP一枚という割高感満点にもかかわらず、
これらの演奏はどれも話題になり、一部はかなりのヒットになったといいます。

このものすごいまでの「春の祭典」連発は、
たしかにちょっと食傷気味にはなったものの、
このおかげで「春の祭典」の録音が、
比較的ごく当たり前のものになったというメリットもあった。

じっさいこの時期以降、
こちらも「春の祭典」に対して特別な意識をしなくなったのも確かでして、
いろいろな「春の祭典」を短期間に怒涛のごとく聴いたことによって、
「春の祭典」を多種多様に楽しめたということは、
今考えるととても有難かったというかんじすらしたものでした。

ただこのとき正直この強者たちが
ストラヴィンスキーが1971年に亡くなっていたこともあるかもしれませんが、
とにかくやりたい放題というか己やオケの個性をフルに発揮させた、
「おもしろい」演奏をやりまくったため、
この後しばらく何聴いてもそれほど面白く感じなかったのも事実で、
現在年配の方々を中心に「春の祭典」のお気に入りのディスクを聞かれると、
かなりの方々がブーレーズ&メータから1981年録音のものの間までのものを、
何枚かチョイスする傾向があるのはそれを物語っているように感じますし、
ブーレーズがクリーヴランドで1991年に同曲に再録音したものが、
あそこまで面白み等を排除した演奏になったのも、
なんとなくその反動もしくはアンチテーゼとして出現したのかなと、
そういう感想ももったものでした。

とにかくこうして初演百年を迎えた「春の祭典」。
はたしてこれから半世紀はいったいどういう「春の祭典」が出現してくるのか。
今の若い指揮者の顔ぶれをみるとなかなか面白そうですので、
ぜひこれからのそれを注意してみていきたいと思います。
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阿伊沢萬

これ書いててあらためて自分の「春の祭典」のベースが1970年代につくられたんだなあと痛感させられました。「三つ子の魂百まで」とはよく言ったものです。

松本ポン太様、nice! ありがとうございました。


by 阿伊沢萬 (2013-07-26 21:06) 

サンフランシスコ人

「ストラヴィンスキーの春の祭典が初演されて....」

『春の祭典』をサンフランシスコ交響楽団が初めて演奏した時の指揮者はピエール・モントゥー.......

https://www.sfsymphony.org/Watch-Listen-Learn/Read-Program-Notes/Program-Notes/STRAVINSKY-Les-Noces-%28The-Wedding%29-%E2%94%82-Le-Sacre-du-p.aspx

" Monteux also led the first San Francisco Symphony performances of the original 1913 version in February 1939."
by サンフランシスコ人 (2016-04-01 06:57) 

サンフランシスコ人

マルケヴィチとクリーヴランド管弦楽団は、『春の祭典』を演奏会で演奏した...

Cleveland Orchestra Program Notes Index

Date(s): December 27, 1956
December 29, 1956
Composer(s): Igor Stravinsky
Title: Sacre du Printemps
Conductor: Igor Markevitch
by サンフランシスコ人 (2018-10-17 02:03) 

阿伊沢萬

録音ないんですかね。

>マルケヴィチとクリーヴランド管弦楽団は、『春の祭典』を演奏会で演奏した
by 阿伊沢萬 (2018-10-18 22:20) 

サンフランシスコ人

ないみたいです...
by サンフランシスコ人 (2018-11-03 01:24) 

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