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賢治のモルダウ [宮澤賢治のクラシック]

宮沢賢治の故郷に北上川がある。

東北最大の流域面積をもつこの川は
その高低さがあまりない地形を流れているせいか
どこか悠揚としたたたずまいをもった川でもあります。

賢治はこの川のイメージを
ある曲にもっていました。

それがスメタナの交響詩「モルダウ」
連作交響詩「わが祖国」の第二曲目にあたる曲。

賢治はその「モルダウ」に
故郷北上川を重ねていたようですが、
賢治が当時聴いていたその「モルダウ」のSP、
それが現在CDになっています。

766.jpg

エーリヒ・クライバー指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(1928年ベルリンでの録音)[NAXOS 8.110907]

録音は当時としてはまあまあのものですが、
演奏はなかなか面白いものでした。
最初はオーソドックスなものの
途中でメロディをかなり気の赴くままに即興的に歌うようなところと、
流動感のある音楽の運びが交錯しており、
しかもじっくり淡々と聴かせるところがそれらととともに同居しているといった
ちょっと個性的なものでした。
また録音のせいかシンバルや大太鼓といった打楽器があまり聴こえないことも手伝って、
音楽がかなり流れのよい流線型的な造形をもったものとなっていることと、
そのため弦の響きがじつによく聴こえるため
悠揚とした中にも奔流のような流れを感じさせるものとなっています。

ただこれを聴いていて
「ああ、賢治はこういうふうに北上川を想っていたのか。」
と当時賢治の心に映っていた北上川が
じつに美しく、そして生き生きとした表情をもっていたことと、
賢治を囲む自然の美しさがいかに素晴らしかったかを
この演奏を聴いて追体験させられたような気がしたものでした。

そしてこの演奏の最後がかなり喜々とした音楽となり
まるで音楽がしぶきを上げて跳ね上がっているような部分を聴くと、
さらにそれらを強く感じたものでした。

オーケストラは弦が独特のポルタメントをかけたり
アンサンブルに現代的な機能性と無縁だったりという部分で
ちょっと今の感覚からすると古い感じがするかもしれませんが、
これもまた当時のドイツのオーケストラのスメタナの演奏記録という意味で
貴重なものという気がします。

他に入っている曲目においてもなかなかユニークかつ聴き応えのある演奏が
(ドヴォルザーク「新世界より」、「謝肉祭」、「スケルツォ・カプリチオーソ」他)
古い録音の中にも展開されているこのCD。

賢治のモルダウを聴くだけでなく、
当時のドイツのオケによるボヘミアものの演奏、
そして若き日の名指揮者エーリヒ・クライバーの姿を知る上でも、
じつに貴重かつ味わいのあるものという気がします。
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