SSブログ

ヤンソンスの1989年来日公演ライブCDを聴く (注 / ほとんど内容に触れていません) [クラシック百銘盤]

716+BxpAERL._AC_SL1500_.jpg

1989年にレニングラードフィルが来日した時のマリス・ヤンソンスが指揮した日のCDが昨秋発売されたけど、それを聴いての感想

山崎浩太郎氏が解説でいろいろ書かれているので、そことはなるべく重複しない話を中心にします。

この公演はレニングラードフィルの2年ぶり8度目の来日公演で、このオケが秋に日本に来るのは前回1986年以来2年ぶり三度目のこと。

ゴルバチョフ政権誕生後の1986年、春にモスクワ放送響がフェドセーエフ指揮で11年ぶり三度目の来日、夏にはソビエト文化省響がロジェストヴェンスキー指揮で初来日、そして秋にレニングラードフィルの来日と続くことになって以来、ソ連の来日オケは再び活況を呈しはじめます。

だがこの時のレニングラードフィルは今までと違っていました。

前年にこのオケにとって絶対的存在だったムラヴィンスキーが他界し、ユーリ・テミルカーノフがそのトップに就いたからです。

そんな中で行われた今回のこのコンサート。

ではそのツアー内容を記します。


レニングラード・フィルハーモニー・アカデミー
(指揮者:ユーリ・テミルカーノフ、マリス・ヤンソンス)

9月28日:群馬県民会館/ヤンソンス
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード
ベートーヴェン/交響曲第7番

9月29日:千葉県民文化会館/ヤンソンス
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード
ベートーヴェン/交響曲第7番

10月1日:神奈川県民ホール/ヤンソンス
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード
リスト:ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

10月2日:聖徳学園川並記念講堂/ヤンソンス
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード
レスピーギ/ローマの松

10月4日:名古屋市民会館/ヤンソンス
ワーグナー/マイスタージンガー、第一幕への前奏曲
リスト/ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
ベルリオーズ/幻想交響曲

10月5日:長野県民文化センター/ヤンソンス
ベートーヴェン/交響曲第7番
リスト:ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

10月6日:金沢観光会館/ヤンソンス
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード
べートーヴェン/交響曲第7番

10月7日:富山市公会堂/ヤンソンス
ワーグナー/マイスタージンガー、第一幕への前奏曲
リスト/ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
ベルリオーズ/幻想交響曲

10月9日:神奈川県民ホール/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
ムソルグスキー/展覧会の絵
チャイコフスキー/くるみわり人形、第二幕全曲

10月10日:オーチャードホール/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
マーラー/交響曲第1番

10月11日:オーチャードホール/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
ムソルグスキー/展覧会の絵
チャイコフスキー/くるみわり人形、第二幕全曲

10月13日:福岡サンパレス/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
チャイコフスキー/くるみわり人形、第二幕全曲

10月14日:佐賀文化会館/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番(P/ワレリー・クレショフ)
ムソルグスキー/展覧会の絵

10月15日:熊本市民会館/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
マーラー/交響曲第1番

10月16日:鹿児島文化センター/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番(P/ワレリー・クレショフ)
チャイコフスキー/くるみわり人形、第二幕全曲

10月18日:下関市民会館/テミルカーノフ
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
ムソルグスキー/展覧会の絵
プロコフィエフ/交響曲第5番

10月19日:姫路文化センター/ヤンソンス
ワーグナー/マイスタージンガー、第一幕への前奏曲
リスト/ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
ベルリオーズ/幻想交響曲

10月20日:フェスティバルホール/ヤンソンス
ベートーヴェン/交響曲第7番
チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲(VC/アレクサンドル・ルッディン)
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

10月21日:フェスティバルホール/ヤンソンス
ベートーヴェン/交響曲第7番
チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲(VC/アレクサンドル・ルッディン)
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

10月22日:シンフォニーホール/ヤンソンス
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード
リスト:ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
レスピーギ/ローマの松

10月24日:柏市民文化会館/ヤンソンス
リムスキー・コルサコフ/シェエラザード
チャイコフスキー/ロココ風の主題による変奏曲(VC/アレクサンドル・ルッディン)
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

10月25日:オーチャードホール/ヤンソンス
ワーグナー/マイスタージンガー、第一幕への前奏曲
リスト/ピアノ協奏曲第1番(P/ワレリー・クレショフ)
ベルリオーズ/幻想交響曲

10月26日:オーチャードホール/ヤンソンス
ベートーヴェン/交響曲第7番
チャイコフスキー/ロココの主題による変奏曲(VC/アレクサンドル・ルッディン)
レスピーギ/ローマの松

というもの。

今回のCDはこの公演の最後から二日目のものだが、この公演じつはテミルカーノフとヤンソンスが交互に指揮したというものではない。

つまり

9/28~10/7迄がヤンソンス
10/9~10/18迄がテミルカーノフ
10/19~10/26迄がヤンソンス

と、今までのこのオケには無い、ひじように変則的ともいえる担当となっている。

自分はこのうち10/1と10/26のヤンソンス、そして10/10のテミルカーノフに聴きに行っている。

じつはこの時の演奏会は正直あまり思い出したくないというのが本音。

というのも、この時のレニングラードフィルは、自分が聴いた限り来日公演でいちばん最悪最低の状態。

とにかくオケに覇気がない。音は汚い。ただ音がデカいだけでバランスは最悪という、86年に聴いてからたった3年でこうも悲惨な崩壊をオケは遂げてしまうのかと、聴いてて呆然とした程だった。

1日のシェエラザードなどほとんどやっただけの無表情な音楽、協奏曲で若干持ち直し、最後のチャイコフスキーはムラヴィンスキーの十八番なだけに、前半はかつての響きを取り戻し、「おおっ」と思わせたが、中盤以降はガス欠でもしたのか急速に緊張感が失せていった。

だが大問題だったのは10日の公演。冒頭のショスタコーヴィチはオケが勝手に突っ走って終わりという、確かに迫力はあったがとてつもなく雑な出来、協奏曲はすべてに渡り平板低調、そして最後のマーラーもオケが散漫で、第二楽章など一瞬オケが崩壊するのではないかというくらいバラバラになって唖然とさせられた。

第四楽章でかなり大きな地震に見舞われたものの、音楽が止まらなかったのが救いというくらいだった。

正直指揮者とオケにまったく意思の疎通がない。こんな事も珍しいが、演奏中に弦楽器の一部がやたら椅子を動かし位置を少しではあるが変えている事が何度となく、しかも複数人がやっていたが、そのガタゴトという音がこれまた気になってしかたなかった。とにかくこれなどは今迄見た事もない光景だった。

また別の日の指揮者がヤンソンスの時、指揮者の登場より遅れて奏者が慌てて舞台に上がってくるという、これまたこのオケではかつてみられない光景もあったという。

もう緊張感も集中力もない、完全に糸の切れた凧というかんじになっていた。

その後、テミルカーノフが打ち出した全面的なムラヴィンスキー否定が、オケの多くの団員から猛反発をくい、フィルハーモニーの事務方の一部でも反発が起きていたという話を聞く。またそれと同時に真偽不明のテミルカーノフに対する噂も飛び交ったらしく、とにかく最悪の状況での日本公演で、ヤンソンスをもってしてもそれは如何ともしがたい状況だったという事を知った。

ムラヴィンスキー未亡人の同オケ首席のフルート、アレクサンドラ女史が問答無用で即解雇されたことも大きかったらしいが、とにかく「このオケはもう10年は聴く必要無し」と思わせるほど10日の公演は最悪だった。

ただ最終日は前半のベートーヴェンは低調だったが、ロココあたりからオケに気合が入り、「ローマの松」では、舞台近くの一階席右側壁際に陣取っていたバンダが最後立ち上がってのそれも加わってのじつに輝かしい演奏となったが、それはこのオケの将来にようやく光が差したような感すらするほどで、そんな素晴らしい演奏で終わったのが本当に幸いだった。

あと最悪だった10日の公演。最悪の上をいく最悪にならなかったのは、アンコールで演奏されたチャイコフスキーの「くるみ割り人形」から「パ・ド・ドゥ」。これがムラヴィンスキーの十八番だったこともあってか、指揮者そっちのけで、ムラヴィンスキーの音が突然成りだしたこと。

それこそムラヴィンスキーが日本のファンに最後の別れを言いに突然オケに乗り移ったかのようなそれは名演だった。

だが謎なのは、そうなることを分かっていたのに、テミルカーノフがなぜこの曲を指揮したのだろうかということ。それだけが未だに自分の心の中でこの演奏はひじょうに引っ掛かっている。
(因みにこの時はまだニムロッドはアンコールとして演奏していませんでした)

レニングラードフィルはその後都市名の変更とともに名前を変え、そしてこの公演以降10年程かけ、じつに楽団員の七割程が入れ替わり、テミルカーノフのオケへと変貌していく。

それはレニングラードフィル=ムラヴィンスキーであるように、サンクトペテルブルクフィル=テミルカーノフとなった証でもありました。

そんなことを思いながらこのCDを聴く。

さてこのCD。

残念ながら自分はこの日の公演には行ってないし、この公演を上記の理由から今以上に避けていた部分があるので、その放送も当時耳にしていないが、聴いてみて思った事に、このCDと同時発売された1986年の同オケのライブ同様、テープが劣化しているのかな?とちょっと思ってしまった。

オケがなんか気持ち遠いというか、そのせいかこんなに柔らかかったかなあ?というのが印象としてすぐに来たし、音全体は綺麗にとれているけど、やや綺麗すぎて聴きやすい反面、生々しさが後退したように感じられた。

ただ今回はそのおかけで、あの雑然とした感覚がかなりオブラートに包まれたような感じになったため、あの時のような粗さが目立たないのは幸いだった。

そして1986年盤と同様に、次にヘッドホーンを外してスピーカーにして聴いてみた。

そしたらこれまた聴いたら「おお、凄い」という音が出てきた。

ひょっとしたらこのCDも、そういうことよりも聴く装置や環境によってかなり変わるのかなあという感じがして、今は専ら安物のスピーカーで聴いている。

で、演奏は直線的といっていいくらい、真正直かつ正攻法ともいえる演奏だけど、シベリウスなどはそれだけにとどまらないなかなかの味わい深いものがありました。

もっともヤンソンスは、前年当時音楽監督をしていたオスロフィルとの初来日公演でも、やはりアンコールでこの曲を見事な演奏を聴かせているので、本当に十八番中の十八番だったのでしょう。

あと幻想は、1979年に彼の父アルヴィドが同じレニングラードフィルを指揮した同曲とどことなく似た感じを持ちました。

ただ父の方が弓を弦にベッタリつけたような、分厚く粘り気のある、より暗く重心が低く巨大な演奏ではありましたが。

と、聴いていてこれくらいの印象しか今はありません。


最後に。

当時、レニングラードフィルはテミルカーノフではなく、ヤンソンスがそのトップに就くだろうと誰もが予想していただけにテミルカーノフがなった時は、その人選に誰もが驚きましたが、後に「ヤンソンスがなれなかったのは、彼がロシア人ではないからだ」という話を聞かされた時、驚くと同時にいくつかの疑問も氷解しました。

ロジェストヴェンスキー離任後のモスクワ放送響、キタエンコ離任後のモスクワフィルで、後任に彼が噂されたものの結局別の指揮者が後任になった事などがそれでした。

ただそれもはたしてどこまで事実なのかは正直不明ではあります。

もっともソ連でのポストに恵まれなかったものの、オスロで評価を次第に上げ、さらにピッツバーグでステップアップした彼は、2000年にあったベルリンフィル公演で、アバドとともに来日するほどにその評価はさらに高まり、その後コンセルトヘボウとバイエルン放送という二大オケとともに大輪の花を咲かせたことは、結果的に彼の歩んだ道がじつは彼にとって最高の道のりだったということなのかもしれません。

これはそんな道のりを歩みだす前のヤンソンスの記録という意味では貴重な資料ともいえる録音かもしれません。

以上で〆

追伸

上で10日の公演をボロクソ言いましだか、じつは今もし録音が残っていたら聴いてみたいもののひとつがその公演。

今聴くとはたしてどうなのか。じつは全然そんなことなかったのか、それともやはりあれだったのか。

最近特に気になっています。

本〆

※このブログにおけるムラヴィンスキー関連の項目
https://orch.blog.ss-blog.jp/archive/c2305360029-1
nice!(1)  コメント(1) 
共通テーマ:音楽

nice! 1

コメント 1

阿伊沢萬

おぉ!次郎様

なんというか、ちょっと苦い部分がある思い出話につきあっていただきありがとうございます。

もう三十年以上前の話ですが、苦すぎたせいか、意外とまだハッキリと印象に残っている公演のひとつになっています。

今となっては、次第に苦さより貴重な体験といった印象の方が強くなってきてはいますが。

nice! ありがとうございました。

by 阿伊沢萬 (2021-05-12 16:58) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント