SSブログ

アレクサンドル・ラザレフ指揮日本フィルハーモニー交響楽団(11/11) [演奏会いろいろ]

(会場)サントリーホール
(座席)2階RA6列12番
(曲目)
ショパン:ピアノ協奏曲第1番(P/岡田博美)
ラフマニノフ:交響曲第1番


今から八か月前の3月11日。このサントリーホールでこの日の指揮者ラザレフと日本フィルハーモニーはコンサートを行った。77名の舞台上の演奏者よりも少ない聴衆を前にして…。

その後多くのことがこの日本で起きた。そして指揮者ラザレフ自身もすてにこのとき患っていた腰の状態が悪化、手術を行い数か月静養をとることとなった。そしてこの日の演奏会。健康状態がかなり回復したラザレフは、新しいプロジェクトをこの日開始した。「ラザレフが刻む<ロシアの魂>」。そして初日のこの日ラフマニノフの交響曲第1番が演奏された。ある意味自分が今年最も期待していた演奏会。あいにくの雨だが、ホールもその割には良好な入りだった。この日の演奏会に少なからず期待をもっていたのは自分だけでなかったことを確認できたものだった。

まず前半のショパン。いきなりオケがおそろしく自己主張していることにまずビックリ。正直うすっぺらなオーケストレーションだと思っていたこの曲から、こうも多彩なニュアンスと情報量を引き出してきたラザレフの凄さにまず驚いた。しかも甘味さなどほとんどなく、辛口の厳しさの中に程よい哀愁感をとどめたようなそれに、この曲の新しい一面を見せられた気がしたものだった。ただそれ以上にソロの岡田さんが見事。甘さに溺れず流されず、格調高くまるで古典派のようなその硬質ともいえるような語り口。このときこの曲がベートーヴェンの死後わずか三年後に初演されたことと、ベートーヴェンとショパンの生きた時代がそれほど大きく離れていないことを知らしめるような演奏で、ラザレフのそれとひじょうに独特なブレンド感をみせながらその演奏はすすめられた。

とはいえこれはショパンではない、という代物ではない。むしろこれもショパンなのだという感じの方が強く感じられる演奏だった。できればもう一度聴きたい演奏だがそれがかなわないのが残念。

そして後半のラフマニノフ。これがとんでもなく凄かった。トランペットとホルンを各一名増員しての編成で臨んだが、それは音量の増大よりも表現の幅のために増員したような感じがした。

演奏はショパン同様これまた辛口だが、とにかく詩的な美しさと凄まじいまでの緊張感、それにバランスのよさと見通しのよさに、ここというときの強大なまでのスケールの大きさと迫力。とにかく言うことなしの名演だ。

第一楽章はかのスヴェトラーノフよりも遅めに運ぶものの、まったくダレることなく、しかも細部までじつに綿密に描き抜かれた、ある意味透かし彫り的といえるほど楽想がみごとに浮き上がっており、この曲の再考を促すほどのものがそこにはあった。そしてここというときの怒涛の迫力も健在だった。しかも最近この組み合わせから少し希薄になりつつあった(あのショスタコーヴィチの11番や、初めて取り上げたときのプロコフィエフの5番の演奏時に聴かれた)、一回性の緊張感というか、スリリングな音楽への切り込みと没入が今回かなり強く感じられたことも嬉しかった。

弦の唸りをあげるような激しい高揚感、低音域の凄味のある響き、にもかかわらず透明感を失わない弦全体のバランス等々、作曲者がこれを聴いたら随喜の涙を流したのではというほどの出来であり。それこそ足かけ三世紀に渡って引きずった初演の失敗を、この一晩ですべて帳消しにしたほどのこれは演奏だった。

特に終楽章のその弩迫力はもう言葉もない。日本のオケがここまでできるようになったかと、本当に感無量の気持ちにさえなったほどだったし、完成度なら前述したかつてのショスタコーヴィチを凌ぐ感すらあった。

最後はスヴェトラーノフのように腰を割った堂々としたものではなく、むしろ淡々としたテンポであっさりと終わったが、その音量と迫力は尋常ではなかった。こういう終わらせ方はかつてのムラヴィンスキーがよくショスタコーヴィチで聴かせていたのと似ているところがあり、これはこれでとても興味深いものがあった。またここでの打楽器群の奮闘は特筆すべきものがあった。

とにかく今回のこの後半のラフマニノフは圧巻だった。ラザレフ自身も体調も演奏の出来もよかったのか、舞台上ですこぶる上機嫌なポーズをみせていた。終演後は握手会とサイン会をやっていたが、きっと気持ちよくラザレフもこれを迎えることができただろう。

今回のラフマニノフのように、ある意味聴き手に再考を迫るようなことが必要な曲を指揮させたら、ラザレフはおそらく史上最高の指揮者のひとりだと思う。今回はその魅力と特性が最高の形で発揮された演奏となった。天候的には楽器にとって万全とはいかないものがあったろうが、オケはそれでもそうとうな頑張りと集中力をみせてくれていた。やはりこのコンビはひとつはまるとその魅力は半端ではない。これからもまた大きな期待が持てたこの日の演奏会でした。

コンサートマスターは扇谷泰明氏。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント