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イルジー・ビェロフラーヴェク指揮日本フィルハーモニー交響楽団 (12/5) [演奏会いろいろ]

(会場)サントリーホール
(座席)2階C12列17番
(曲目)
ブルックナー:交響曲第5番


チェコの指揮者のブルックナーというのをあまり自分は実演で聴いたことがない。というよりチェコそのものがあまりブルックナーと関係が密でないのではないかという気がするときがかつてはあった。だけど実際はそうでもない。クーベリックはブルックナーを得意としていたし、ペシェクも7番を録音しているし、トゥルノフスキーも録音はしていないが7番をかつて群馬で指揮をしているし、来年はプラハで指揮をすることになっている。それにチェコフィルがマタチッチと何曲かブルックナーを録音し、アルブレヒトや小林研一郎との来日時にもブルックナーを演奏し、録音もしていることを思うと、そう決めつけるべきものではないと最近思うようになった。

そんな矢先、チェコフィルがブロムシュテットと、そして今回ビェロフラーヴェクがそれぞれ日本でブルックナーを相次いで公演することとなった。そしてそれはどちらも印象に残るものだった。

ビェロフラーヴェクのブルックナー。冒頭こそ遅めにはじまったものの、全体的にはオーソドックスなテンポによるものだった。スケールの大きさもバランスの良さもじつに見事なものだったが、面白かったのは金管と弦の対照的な動きだった。金管はじつに明確かつ硬質な音を基調としており、その押し出しの強さや明確な響き、そしてそれらとティンパニーの激しい響きが、あまり拡がりをともなわなかったことも相まって、どこかベートーヴェンかブラームスのような趣をもったものに対して、弦はじつにしなやかで、弱音の美しさも充分たたえた、旋律の流動感に重きを置いたようなものになっていた。

この組み合わせがじつにユニークに自分は聴こえた。それは縦の線を金管とティンパニーが形成し、横の流れを弦が築き上げていくという組み合わせで、このためこの交響曲のもつ新たな面を自分は感じることができたような気がしたものだった。

ただ演奏はそれらによってことさら面白く聴かせたり、劇的なドラマを形成させるといったものではなかった。むしろより自然体に、もしくは朴訥とさえいえるほどの真正面から曲に切り込んだ演奏となっていった。

もちろん第二楽章を必要以上に感傷的にしないためなのか、やや早めのテンポで押していったり、第三楽章がどこか田園舞曲的ともいえるような趣をたたえたりという、独特なものはあったものの、だからといってそれが変わった印象を与えるというものでもない、むしろ曲に真正面から取り組んだことによる結果という感じを受けたのものだった。

このため最後、終楽章のコーダにおいて、金管が音割れ寸前までの強い音を吹奏し、ティンパニーが強靱な響きを轟かせながら、剛直なまでに全曲を締めくくるというものではあったものの、全体的には極めてオーソドックスな印象を自分はもったものだった。

そのためか、劇的要素をはじめとした、曲に対してのとっかかりやすさという面が皆無に近かったため、聴いていて面白さに欠ける演奏と聴きようによってはとられるであろう演奏という気もした。たしかにそこには「血の出る」とか「魂の」とか「精神性が」みたいなものを連想させたり、そういう言葉に直結させるような、ある意味刺激や強調というか、ドラマみたいなものが無く、淡々かつ粛々と流れていく部分も多かった。「ブルックナーでは何かが起きる」みたいな期待をしていった方には肩すかしをくわされた気持ちになった方もいるかもしれない。

また音のつくりもことさら聴きやすくつくられているといったものでもないし、愉しく心ときめくような雰囲気も無いため、そういう意味で、今回の音楽はそのみてくれ以上に、手強い演奏であったと思う。

だけど自分はこれほどそういう言葉というものの領域に捕らわれない、それこそある意味「音楽」そのものだけで形成されたブルックナーというのを初めて聴いたような気がする。それだけにこの演奏は聴き手におけるブルックナーに対する自らの立ち位置や価値観というものを、あらためて意識するしないに関わらず感じさせられた演奏であったような気がする。それはどこまで言葉というものに自分が捕らわれているかということも含めてであり、その言葉が己のものなのか、他人のものなのかということもだ。

今回のビェロフラーヴェクのブルックナーはそういう意味でじつにその金管と弦のバランスを含めてユニークだったという気がした。それにしてもビェロフラーヴェクはほんとうに器の大きな見事な指揮者になった。かつてN響で1987年にマーラーの「復活」を聴いたときは、たしかに器も大きくバランスもいい演奏ではあったが、その器に中身がちょっとカスカスだったようなところがときおりあったものだが、今回はそういうことはまるでなかった。
この指揮者がどこまで円熟していくのかほんとうに楽しみです。

因みに本日の演奏では金管は通常通りで倍増することはありませんでしたが、これもまたこの日の演奏にふさわしいものでした。ぜひまたビゥロフラーヴェクの指揮でブルックナーを聴いてみたい。

…というよりチェコの指揮者によるブルックナーをもっと聴いてみたいです。
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