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ハンス=マルティン・シュナイト指揮神奈川フィルハーモニー(10/12) [演奏会いろいろ]

(会場)みなとみらい
(座席)3階C6列27番
(曲目)
シューベルト:交響曲第7番「未完成」
Rシュトラウス:最後の四つの歌(S/松田奈緒美)
Rシュトラウス:死と変容

 この日の演奏会はまず神奈川フィルの出来が素晴らしかった。自分がこのオケに感じていたかつての不満などはほとんどなく、その長所のみが大きくあらわれたような出来だった。これが今の神奈川フィルの姿なのだろう。正直に言うとかつて日本のオケでこれほどのレベルのオケを自分はほとんど聴いたことがない。もちろんそれは技術的という意味だけではない、音楽をするということ、そして音楽を聴くということがどういうことなのかを体現できるという意味においてということだ。

 前半の「未完成」。冒頭の低弦がまるで読経のような響きが地の底から静かに湧き上がってくるような音にまず驚かされてしまったが、その後はじつに静かな演奏が繰り広げられた。たしかにティンパニーの剛毅な響きはシューベルトのベートーヴェンへのそれを思わせるものがあったがそれでもそこには静かな雰囲気が根底にあったと思う。

 ときおりみせるルパートは黄昏た響きと楽想の変転の美しさを対比させる素晴らしいものだったが、それにしてもじつに巨大な第一楽章で、かつて聴いたチェリビダッケのベートーヴェンを想起させるものがあったが、佇まいはより自然かつ素朴なもので、ある意味なにもしていないというくらい音楽そのものしか鳴っていないようなかんじだったが、細部はじつによく歌い抜かれており、シューベルトの歌謡性もじつによく織り込まれたものとなっていた。

 続く第二楽章は一転通常のテンポとなったが、第一楽章が遅めだっただけに快活な足取りに聴こえてきたのは面白かったが、この楽章のもつ穏やかな楽想がじつに心地よく奏でられたものになっていた。音楽はその後終盤に向かうにつれ、より穏やかかつ清澄な響きに昇華されていったのは言葉も無いほど美しいものだった。最後の和音がホール全体に響いたその瞬間の至福の響きは絶品なものがあったが、それだけに一部聴衆の拍手の出がやや性急だったのは惜しまれる。拍手はしばらくして収まり、その後本来あるべき沈黙が続いた後本来の拍手となったのは、この日の聴き手の多くの総意の表れだったのだろう。だがこのようなことは後半皆無だった。おそらくこのとき性急に拍手された一部の方々は、後半での音楽の響きのもつ美しさを、拍手を待つという行為でここまで音楽は本来続いているのかということで痛感しそして堪能されたような気がします。そういう意味でこのときの早い拍手は悪意ではなかったということで、今では自分の感覚からこの拍手はかなり薄れたものになっています。

 後半の「四つの最後の歌」。この曲におけるオケの美しさと微妙なニュアンスにとんだ繊細な詩情あふれた響きを何に例えればよいのか、ほんとうに絶句してしまうほどの音楽がそこにはありました。それにしてもなんと鮮やかな音楽だったことでしょう。(シュナイトはがワーグナーにも長けた指揮者であるということをかつて聴いたことがありますが、ぜひワーグナーも聴いてみたいと強く感じられたほどでした。)特にこの終曲の出だしのハッとするほど美しい弦の響きはじつに素晴らしく、その後この雰囲気を湛えたようなどこまでも澄み切った響きと、深い息づかいにみちあふれた音楽はこの日の白眉というくらいで、晩年のシュトラウスの澄み切った境地と、あの破滅的な大戦からたった三年しかたっていない、まだまだ悲惨な状況が爪痕深く残っているこの時期に、このような彼岸の美しさにすら通じるような祈りたくなるほどの作品が作曲されたことに、あらためて大きな感銘を受けたものでした。またここでは松田さんの翳りのある声がじつによくあっており、これがまた感銘の深さをさらに与えてくれました。尚、自分は遠い席だったのでよくはわかりませんでしたが、演奏終了後松田さんが目頭を何度となくおさえられているように見受けられました。たしかに自分もこの演奏を聴き終わったあと、次第にこみ上げてくるものに胸がいっぱいになるものがありました。そういえば以前このホールで聴いたシュナイト氏のドイツレクイエムでもこういう気持ちになったことを思い出しました。

 最後はこれまた長大ではあるものの、まったく音楽がつまりきったような「死と変容」で終わったのですが、正直これだけの曲が三曲続くとかなりある意味気持ち的にいっぱいいっぱいになってしまい、正直この曲を聴いている途中からちょっと変な例えですが、あごがあがってしまったような状態にこちらがなってしまいました。とはいえこれほどの「死と変容」というのも稀というほどの出来で、結局最後まで気持ちが切れることなくこの演奏を聴くことが出来ました。終盤の銅鑼の響きがじつに意味深く奏でられていたのが印象深く、その後大きな盛り上がりの中、トロンボーンやホルンが一音一音克明かつ力強い演奏を聴かせ、確信にみちた見事な音作りで最後は静かに全曲を閉じました。これもまた極めて秀逸なシュトラウス演奏でした。

 この日の演奏会。たしかにオケが大鳴りに鳴ったり、剛毅な響きを前面に出した部分はあったものの、全体的にはじつに清澄な演奏会であったという気がします。(「未完成」などはまるで墨絵のような趣すら感じられました)そういう意味では秋のこの時期に聴くには最高のものであったのかもしれません。この日のシュナイト氏指揮神奈川フィルの演奏会。自分がこれまで聴いたこのコンビの演奏会の中でも最高のもののひとつでした。
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