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マルティン・トゥルノフスキー指揮群馬交響楽団(10/21) [演奏会いろいろ]

(会場)群馬音楽センター
(座席)30列28番
(曲目)
ドヴォルザーク:自然の中で
ヤナーチェク:タラス・ブーリバ
ブラームス:交響曲第1番

 トゥルノフスキーの今回の公演はこの指揮者の凄みを痛感した演奏会になりました。三度目にしてはじめてこの指揮者の真髄を聴いたような気がしたほどでした。

 最初のドヴォルザークは最初こそこのホールのややデッドにすぎる響きに慣れなかったことや、オケのエンジンがかかりきっていなかったため、きもち心もとない感じがしたものの、オーケストラのトゥッティで素晴らしいほどの質感と密度をもった響きを奏でたあたりから急速に調子があがりだし、特に弦を中心とした響きはじつに冴えた、そして中低音における強い響きはじつに見事なものがありました。終盤は爽やかな詩情感と力強い響きが絶妙に交錯したものとなり、この指揮者の特長のひとつが見事に表出されたものとなりましたが、驚いたのは二曲目のヤナーチェク。

 とにかく弦の強さと緊張感が凄い。指揮者の指示も一曲目以上に弦に指示を出していたようで、ビリビリしたような緊張感と厳しさが、強く前面にでてきたものとなりましたが、これは第二曲における冒頭の、弦の清澄な響きを保ちながらも切れるように鋭角的に刻んできたその鮮烈な響きに、さらに色濃くあらわれており、この指揮者のもつ凄みの一端が垣間見られたような気がしたものでした。

 ですが終曲でのそのもの凄いほどの力感をもったそれはさらに凄いものがあり、パイプオルガンが無いというハンディ等があるにもかかわらず、指揮者のもつ力のみで強烈なまでに押し切った、まさにこれは凄演となりました。これには群馬交響楽団の意思の徹底も大きく、途中綺麗にきまらなかったり表情が流れかかったりしたものの、そういうリスクを冒しても安全運転を避け、トゥルノフスキーのもつこの凄絶なドラマを表現しようという方向性で全員が音楽をしていたことに、トゥルノフスキーの指揮と同じくらい深い感銘をもったものでした。

 にもかかわらず後半のブラームスがこの日の白眉となったのは、オケの状態が前半よりさらにあがっていたこともあるのですが、トゥルノフスキーのこの曲に対する集中力というのが尋常ではなかったということにつきると思います。冒頭の序奏からして早めのテンポで演奏されているものの、その力強い意志のようなものが凄いほどの充実感をもたらしており、弦の極めて強く引き締まった響きが緩急自在の表現を随所に聴かせ、しかもしっかりとした古典的ともいえるほどのバランスのとれた造型と、やや重心を低めにとり低音に強い下支えを施した響きが、ブラームスのこの交響曲における理想的ともいえる演奏を可能にしたのかもしれません。

 それにしてもこれほど音楽を自然に鳴らしながら、しかもそこに指揮者の強靭な意志がこれほど色濃く投影された演奏というのをあまり自分は知りません。この演奏を聴くとちょっとかつてのセルの演奏を思い出してしまいますが、今回のそれはさらに曲を前面に出した演奏となっており、曲をして語らしめるというこの指揮者の基本姿勢がほぼ理想的な状態で提示された感じがしたほどでした。第二楽章終わりのヴァイオリンソロの背後の弦の響きなど、その理想的なあらわれであったような気がします。

 この演奏で圧巻だったのは特にコーダ。じつに淡々と見得もいっさいきらずに音楽の力にすべてを託したものになっていたのですが、最後の終結部におけるオケの響きには正直驚愕してしまいました。そのもの凄いほどの激しい気迫もさることながら、一瞬弦が先導した直後に低音を軸として、重さと硬さに独特の溜めが僅かに含まれた、それこそ戦前のベルリンフィルでたまに聴かれたようなバランスで響いたそのオケの音に、戦慄的といっていいくらい驚愕したものでした。正直トゥルノフスキーにこれほどの凄みというのがその音楽に含まれていたことを、今までまったくといっていいほど自分は感じていませんでした。そういう意味でこの日のブラームスはこの指揮者の奥深さと、その底辺にある桁外れの強靭さと凄みを、さらに強く認識させられたものでした。

それにしてもトゥルノフスキーはほんとうにすごい指揮者です。これだけの指揮者が毎年来日してくれているのは、ほんとうに奇跡的といっていいのかもしれません。ほんとうにありがたいことです。また群馬交響楽団も正直ちょっと指揮者の音楽に凌駕されている瞬間もなくはないのですが、それでもここまでひたむきに演奏しているその姿にはほんとうに頭が下がるおもいです。

ただひとつだけ。これは好みの問題なのかもしれませんが、やはりここのホールの響きに自分は馴染めないものがあります。たしかに舞台が近くに感じられたり、直撃音が濁りなくストレートに来るのはいいのですが、この残響の希薄さには正直辛いものがあります。耳が慣れてくれば多少はいいものの、トゥルノフスキーの直撃音だけでない、そのホールの響きをも巻き込んだときの素晴らしさというものを自分は池袋で経験しているだけに、ここの部分だけもったいないという感じがどうしてもしてしまいます。こればかりはどうしようもないのかもしれませんが、それだけにたまにはこのコンビを、サントリーホールやMUZA等で聴いてみたいという気がします。厳しいかもしれませんが希望だけは持ち続けたいと思います。

あと本日のトゥルノフスキー氏。ほんとうに若い。背筋を伸ばし颯爽と指揮台に登場し、指揮もじつに若々しくてきぱきとしている。これで78歳とはとんでもない話です。ブロムシュテットといいトゥルノフスキーといい、この世代のドレスデン経験者は年齢をとることをどこかで忘れてしまっているのでしょうか?
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