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イッセルシュテットの1970年の第九を聴く。 [クラシック百銘盤]

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ヘレン・ドナート(ソプラノ)
ツヴェトカ・アーリン(アルト)
ヴェルナー・ホルヴェーク(テノール)
ハンス・ゾーティン(バリトン)

北ドイツ放送合唱団ヘルムート・フランツ(合唱指揮)

北ドイツ放送交響楽団
ハンス・シュミット=イッセルシュテット(指揮)

録音 1970年5月5日 ハンブルク:ムジークハレ


ハンス・シュミット=イッセルシュテット。

今この指揮者は、
特に若い層にはどういう受け取られ方をされているのだろう。

かつての彼は日本ではそこそこ名前の知られた指揮者だった。

戦前にはカサドとのドヴォルザークのチェロ協奏曲の音盤が、
新聞に発売告知されていたこともあった。

ただだからといってスター指揮者だったというわけではなく、
むしろ二つ下のヨッフムの方が注目されていたといっていい。

その後の彼はハンブルクに新設された北ドイツ放送放送交響楽団に就き、
1971年までその任に就いた。

彼が日本で特に注目されたのは、
おそらくバックハウスとのベートーヴェンの協奏曲全集だと思う。

オケがウィーンフィルということもあり、
当然この全集は大きな評判をよんだ。

(ヌヴーとのブラームスがいつ発売されたかはよく知らない)

そして1964年にイッセルシュテットは初来日。
読売日響と大阪フィルを指揮した。

彼はもともとモーツァルトを得意としていたが、
この公演でも31番と41番を指揮し好評を博した。

そして翌年から彼の代表作となる、
ウィーンフィルとのベートーヴェン交響曲全集の録音を開始する。

1970年の楽聖生誕二百年記念のためのそれ。

その最初に録音されたのが第九。

それから1969年までかかり全9曲と序曲数曲を録音する。

そして1970年を迎える。

この楽聖生誕二百年の記念すべき年。

世界各地で多くのイベントがあった。

ロンドンではクレンペラーによるベートーヴェンの交響曲全曲チクルス。

日本では大阪万博開催中ということもあり、
大阪ではカラヤンとベルリンフィルの、
東京ではサヴァリッシュとN響のチクルスが挙行された。

そんな年の大詰めにイッセルシュテットは再び来日、
読売日響を指揮して荘厳ミサと第九を演奏した。


読売日響は二十世紀に三つの歴史的演奏をしたと言われている。

ひとつは1990年のクルト・ザンデルリンクによるハイドンとブラームス。
ふたつめは、1977年と翌年に続けて来日したチェリビダッケとの一連の公演。
そしてみっつめが、1970年のこのイッセルシュテット公演。


自分は1974年に当時読響の団員だった方が、
「イッセルシュテットは素晴らしい指揮者だったなあ」と
本当に噛みしめるように話されていた事を聞いたことがある。

ただこれは本当に素晴らしかったという意味あいと、
もう二度と彼の下で演奏できないという悔恨の念もあったように感じられた。

イッセルシュテットは前年の5月28日、
アムステルダムでコンセルトヘボウを指揮しブレンデルとの共演で、
ブラームスの1番の協奏曲を録音した数日後に急逝してしまったからだ。

この最後の録音も素晴らしかったけど、
その前年にバンベルク響と録音した、
モーツァルトの31番と35番も名演だっただけに、
その死は本当に多くの人たちから悔やまれた。

(因みにイッセルシュテットが亡くなった1973年は、じつに多くの指揮者が亡くなられた受難の年といわれています)

そんなイッセルシュテットの1970年の来日公演を自分は耳にしたことが無く、
一度耳にしたいとずっと思っていた時今回このCDを知った。

録音は同年の5月5日。
指揮者70歳の誕生日当日、地元ハンブルクで指揮したもの。

演奏時間、15:56、10:17、15:31、25:17。


演奏はじつに実直というか真っ向勝負の演奏で、
外連味なくストレートに音楽をすすめていく。

ウィーンと違うのはオケの性質上のそれもあるだろうけど、
ウィーンの時にときおり感じられた独特の練り込まれたうねり感のようなものが、
こちらではより硬質で辛口ではあるものの、
全体により大きな起伏となっているように感じられる。

そういえばこの傾向はウィーンでのベートーヴェン全集でも、
最後の方に録音された7番や8番でも感じられており、
イッセルシュテットの座標がこういう方向に向かいはじめていたのかも。

ただ録音でこれだけ感じられるということは、
じっさいにはよりこれが大きなものであったことは確かで、
1970年の日本でのそれが歴史に残るといわれたのは、
そのあたりの素晴らしさがひとつとしてあったのかもしれない。

ティンパニーもしっかりと打ち込まれていて、
これがまた音楽の芯の強さを感じさせられるものがある。

ライブということで、さすがにキズ無しとはいかないけれど、
この興の乗り方と音楽の流れはセッション録音以上のものがあり、
とにかくこの曲のひとつの理想といえるほど素晴らしい出来。

ウィーンの時のような共同作業的なものではなく、
指揮者が気心知れたオケによって自分の音楽を前面に出すことができた、
本当に深い感銘を受ける演奏でした。

合唱も善戦してるしソロもアンサンブルにも気を配っていて、
これも指揮者の音楽とうまくマッチしている。

録音はややテープの痛みのようなものを感じる時があるが、
全体的にはまあまあの音質となっている。

これを聴くと1970年の来日公演も聴きたいけど、
録音等はもう残っていないのかも。

だったら1970年以降に彼が遺したライブ録音等を、
もっといろいろと発掘しCD化してほしい。

と、そう思わせるほど聴き応えのある第九の名演。
聴く機会がありましたらぜひご一聴を。

尚、ハンブルクのこのオケが初めて来日したのは、
この録音よりだいぶ後の1987年5月。

指揮者はデュトワと朝比奈隆。

当時のトップだったヴァントと来日するのはこのさらに三年後となります。


※イッセルシュテットの日本公演の日程と曲目。
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サンフランシスコ人

サンフランシスコ交響楽団にイッセルシュテットが客演したみたいですね....

http://synapse.library.ucsf.edu/?a=d&d=ucsf19680930-01.2.42

"noted guest conductors including: Rafael Kubelik, Hans Schmidt-Isserstedt..."
by サンフランシスコ人 (2019-03-15 01:21) 

阿伊沢萬

クリップスの時代ですね。この二人は年齢も近しいですし、同じ時期にコンセルトヘボウやウィーンフィルと録音をしていたので、どこかで接点があったのかもしれません。
by 阿伊沢萬 (2019-03-16 01:12) 

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