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オーマンディ・フィラデルフィアの1967年来日ライブを聴いて [クラシック百銘盤]

今年(2019)生誕120年を迎えるユージン・オーマンディ。

その初来日公演の一部を収録したCDが発売された。

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オーマンディの初来日公演から大阪と東京の各一公演ずつ。

当時の新聞や評をみると、
じつはあまり芳しくない評が散見できる。

だがそんな評はどうあれこのライブCDで聴く演奏はとにかく凄い。

あまりにも許容範囲を超えた、
その巨大かつ情報量の膨大な凄い音楽を前にして、
ある評論家は狼狽え、混乱し、自分の世界に引き籠り、
結果、自分の価値観を羅列し肯定するため、
目の前の音楽を否定するという安直さに走ったのではないかというくらい、
とにかくその音楽は凄まじい。

普段レコードではホールと溶け合ったような、
そしてこの頃の国内盤がやや着色過多な響きによってマスクされていた、
このオケ本来の剥き出しの凄みがモロに前面に出て来たのだ。

ティンパニーなどほとんど別物だ。

これには今のレベルから考えると、
当時の日本のホールの些かデッドな響きの中での演奏ということもあるだろう。

この初来日時のフィラデルフィアは、
同オケの歴史に残る大コンマス、
アンシェル・ブルロシウが前年退団していたものの、
その状態はまだまだベストを維持しており、
セル指揮クリーヴランド並んで、
全米を代表する世界屈指のスーパーオーケストラだった。

しかも財団が世界的な名器を楽団員の為に購入を手伝い、
それを与えていたというだけに音質も絶品。

それがいきなりそんなホールでエンジン全開したのだ。

たしかにそれ以前にも1955年のシンフォニー・オブ・ジ・エア、
その後のベルリンフィル、レニングラードフィル、ボストン響等々、
いろいろと凄いオケの来日公演はあっただろうけど、
世界屈指の名門オケがピークの状態で、
しかも三十年もトップに経っている指揮者が同行したのだから、
今から見るとかなり脆弱だった当時の日本のオケに耳が慣れた人には、
ほとんど何が起きたか分からないような、
それこそ別次元の世界がいきなり現れたように感じ度肝を抜かれことだろう。

当時の来日公演とプログラムは以下の通り。

1967.png
※クリックすると大きく見られます。

今回のCDは5月4日の公演からハイドンを
そして5月12日の公演からはシュトラウスを省いたものだけど、
アンコール曲や日米両国国歌が収録されている。


オーマンディ当時68歳。

まだまだ老熟する前の、
かなり熱いものをストレートにぶつけてくるような、
いかにもトスカニーニに私淑した彼のベースを聴くような趣がある。

しかもかなり押しまくる。

もっともテンポを派手に動かすとか、
音を猛烈に咆哮させて汚く濁らし荒々しさを出すとか、
そういう事はしていない。

ある意味自然体のままバシバシ押してくるような感じで、
聴きようによっては容赦ない趣すらある。

オーマンディってこんなに強く押してくるタイプなのかと、
ちょっと新鮮な驚きすらあった。

(もっともCBS時代にもそれを充分感じさせる録音は多々あった。モーツァルトのパリ、ベートーヴェンのミサ・ソレムニス、プロコフィエフの古典交響曲、そしてショスタコーヴィチの4番あたりはその好例だろうか)

ただバルトークにせよシベリウスにせよ、
作曲家と面識があるということもあり、
特別な作曲家として熱くなっているのかもしれない。

自分は1978年と1981年に彼の実演に接した事があり、
シベリウスの演奏は1978年に神奈川県民ホールで接しているが、
2番と1番の違いはあるけど、
これほど熱かったという印象はじつは無い。

確かにその演奏は前年に聴いた、
ムラヴィンスキーのチャイコフスキーにも匹敵するような、
ほんとうにシベリウスの神髄ともいえるほど圧巻のものだったけど、
もうすこし泰然自若とした趣があった。

それは年齢的な違いも少なからずあるだろう。

ただいろいろな部分で、
このライブ盤とその時の実演はかなり重なる部分があり、
ちょっといろいろと懐かしいものがある。

特に音楽の芯の太さと強さは、
このライブ盤ではかなりストレートに伝わってくる。

実際に聴くと、
さらにそれを取り巻くように透明な、
それでいてうっすらとした色のようなものを取り込んだ響きがひとつとなって、
風圧をともなうように舞台上からせり出すように響いてくる。

しかも音楽は静態してるわけではなく、
曲によっては推進力に富んだ、
しかも軽やかなステップで疾走するかのように音楽が動く。

これはなかなか録音では分からないが、
こういう芸当ができるのは、
あとはムラヴィンスキーとレニングラードフィルくらいしか自分は知らない。

また弦楽器の一枚岩的な響きに比して、
管楽器はそれに比べるとやや奏者に任せた部分があるのも、
これまたムラヴィンスキーとそのオケと似ているのが面白い。

トスカニーニに私淑した弦楽器出身指揮者の特性なのだろうか。

最後に思い出した事。それはオーマンディの写真。

彼の写真をみると口元は笑っている写真は数あれど、
目が笑っている写真というのを自分はほとんど見た事がない。

ここでの演奏もまたそれを思い起こさせる。


因みにこの初来日公演以降に、
彼はじつはフィラデルフィアの勇退を決断しており、
後任にサヴァリッシュに白羽の矢をたてたものの、
サヴァリッシュはカイルベルト急逝後の、
バイエルンの歌劇場をまかされる事が決まっていた為固辞され、
結果これを諦めざるを得なくなり、
ムーティに1980年に託す迄十年延長とあいなったという事があった。


そんな事を考えて聴くとまたちょっと面白いかも。

そんなライブ盤です。

音質は多少マスターが痛んでいる箇所はあるものの、
概ね良好なステレオ録音で収録されている。

だだできればコンプリートで聴きたかったなあ。


最後に。

このCDのシベリウスの方に書いてるライナーで、
村田武雄さんがいろいろと話されているけど、
あれがほぼ自分の立ち位置と同じという事を付け加えておきます。

評論家側からはいろいろと言われたものの、
演奏家側からはむしろこのオケは高く評価され、
世界で最も素晴らしいのはフィラデルフィアとクリーヴランドだと、
当時在京のオケに在籍されたていた方々の声も多数聞かれた。

またこの時ほぼ同時期にモスクワフィルと来日したコンドラシンは、
世界で最も素晴らしいオケをフィラデルフィアと発言していた。

このように演奏する側からは、
フィラデルフィアは極めて高く評価されていたようです。

そして何よりも当時の聴衆の反応がまた熱狂的で、
この演奏がじつに素晴らしかったかがよく分かる。

これがすべてなのかもしれないし真実なのだろう。

そういえば自分が1981年にこのコンビの演奏会を同じ文化会館で聴いた時、
最後のチャイコフスキーの5番が終わった直後、
数は少なかったけどスタンディングオベーションをされていた方がいた事を、
これを聴いていてふと思い出した。


因みにじぶんがかつてオーマンディに対して書き込んだものがこちらにあります。
かなりキツイ物言いもありますのでご了承ください。

http://www003.upp.so-net.ne.jp/orch/page175.html

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コメント 3

阿伊沢萬

今聴くと、かなり攻撃的ともいえるサウンドが随所に聴かれ、本当に録音とはかなり別物感覚の演奏をしていたんだなという事が分かります。できれば大阪での團さんの交響曲も聴きたかったです。

soramoyouさま、nice! いつもありがとうございます。
by 阿伊沢萬 (2019-03-19 22:12) 

サンフランシスコ人

フィラデルフィア管弦楽団の ニュース....八嶋恵利奈が副指揮者に決定する...

http://www.philorch.org/press-room/news/philadelphia-orchestra-and-yannick-nézet-séguin-announce-two-conducting-appointments#/
by サンフランシスコ人 (2019-04-06 01:37) 

サンフランシスコ人

2/29 八嶋恵利奈がサンフランシスコ響を指揮する...

http://www.sfsymphony.org/Buy-Tickets/2019-20/MFF-2-29.aspx
by サンフランシスコ人 (2020-01-30 01:55) 

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