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川瀬賢太郎指揮神奈川フィルハーモニー管弦楽団(2/9)を聴く。 [演奏会いろいろ]

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2月9日(土)みなとみらいホール 開演時間 2:00pm

川瀬賢太郎指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

(曲目)
マーラー/リュッケルトの詩による5つの歌曲

私の歌を覗き見しないで Blicke mir nicht in die Lieder!
美しさゆえに愛するのなら Liebst du um Schönheit
私は仄かな香りを吸い込んだ Ich atmet' einen linden Duft
真夜中に Um Mitternacht
私はこの世に捨てられて Ich bin der Welt abhanden gekommen

藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)

~休憩~

ハンス・ロット/交響曲第1番ホ長調Op.35


マーラーとハンス・ロットという、
後期ロマン派爛熟期の二人の作曲家の作品が並んだプログラム。

まず前半のマーラー。

藤村さんの歌唱でこの曲を聴いていると、
歌曲を軸とした作曲家でありながら、
この作曲時にはオペラ指揮者として全盛を築いていた、

そんなマーラーの二つの面が、
絶妙なバランスで歌われているように感じられ、
ひじょうにいろいろと考えさせられるものがあった。

「真夜中に」では驚くほど劇的な歌唱をきかせ、
「私はこの世に捨てられて」では清澄と沈滞を聴かせたそれは、
マーラーの9番の第四楽章や、
「大地の歌」の「告別」ともまた違う、
諦観とも彼岸ともまた微妙に違う、
とにかく言葉ではうまく表現できないが、
マーラーの美しいほどの凪を感じさせる、
ひとつの心象風景を印象付ける素晴らしい歌でした。

指揮の川瀬さんも木管の詩的な表情を随所に聴かせる、
とても心配りの効いたハートウォームな演奏を聴かせていました。

それにしてもかつては木管が弱いといわれていた神奈川フィルが、
木管でこれだけ説得力のある演奏をするようになるとは。

本当にこのオーケストラの成長と進歩は素晴らしいものがあります。


休憩後に後半はハンス・ロット。


今年はこの不遇の作曲家の交響曲が初演されてから30年。
日本初演から15年ということもあるのだろう。
とにかくこの曲があちこちでけっこう演奏される。

かつて沼尻さんが初演し、
アルミンクが続くようにこの曲を指揮してから、
しばらくあまり垣間見られない時期もあり、
単なるムーブメントだったのかと思わせられた事もあっただけに、
こうしてまたいろいろと演奏されるのはとても嬉しい。


しかしロットの交響曲は本当に演奏者にとってしんどい。

特に管楽器は第三楽章を除きほとんど吹きまくりで、
しかもそういう状態のままソロをとらせたりと、
伊福部昭の特撮ものとはまた違ったきつさがある。

さらにティンパニなど、
全曲の8割を叩いていたんじゃないかと思われるほどで、
さらその9割はロールをしていたんじゃないかというくらい、
とにかく信じられないくらいの出ずっぱり状態。
トライアングルも定期公演数年分を、
この一曲で鳴らしまくったんじゃないかというくらい、
こちらものべつ幕なし状態。


このただでさえオケにとってしんどい曲を、
指揮者の川瀬さんは聴きやすくしようとか、
コンパクトにまとめて分かり易く聴かせようとか、
そういうことを一切することなく、
このロットの思いの丈のかたまりのような曲を
外連味なく正面突破で
作曲者のそれを描き切ろうという、
極めてタフでオケにとってリスクの大きな演奏に打って出た。


結果的にオケはかなり終盤に向かっていっぱいいっぱい状態になり、
粗い部分も散見されはしたが、
川瀬さんの対寧な音づくりによってギスギスしたり、
音が刺激に走るという事にはなりませんでした。

ただあまりにも真向勝負をかけたことから、
この曲もつ異形ぶりや、
言いたい事をひたすらつめこんだ無理やり感、
さらには上記したようなオケへの負荷や奏者の体力を一切考えない、
過酷な曲づくりがモロに出た事も確かでした。

この曲をブラームスやハンス・リヒターが酷評や無関心という、
厳しい反応を示したのも、
曲想云々というより、
当時のオケの限界や状況という、
いわゆる現場知らないで書いたという、
そういう部分があったからなのかも。

そういう点では
ちょっとシューマンの交響曲と、
どこか似た立ち位置を感じさせるものものあり、
とにかく曲の弱さや問題点が結果的にモロに出た演奏でもありました。

ただそのような曲の問題点も多きく浮かび上がったものの、
それをはるかに上まわるロットの溢れんばかりの楽想、
最初から最後まで途切れることのないモチベーションの高さ、
そしてありったけの渾身の思いの丈が、
この演奏から凄いほどに伝わって来た。


それはまるで自分に残された時間が、
もう限りなく少ない事を予期していたかのようで、
川瀬さんの正面から斬り込みをかけたような今回の演奏は、
そういう部分も込みで、
ある意味ロットの交響曲の真の姿を顕著にみせた演奏といえるのかもしれません。

この曲の普及に大きく貢献したといわれる、
ヴァイグレ指揮ミュンヘン放送管弦楽団による名盤とは、
大きく様相の異なる演奏でしたが、
自分にとって、この曲がより身近になったように感じられた、
これもまたこの曲にとって幸せな演奏であったという気がしました。


演奏終了後かなりの人が「みなとみらい駅」に向かったのは、
18時から渋谷である第二ラウンドに行くためだったのでしょうが、
この川瀬さんの指揮による演奏は何故か聴いてもへとへとになることがなく、
むしろこちらが元気をもらうようなタイプの演奏だったことから、
これらの人たちも第二ラウンドを気持ちよく迎えられたことでしょう。


外はなかなかの雪でしたが、
心身共に温まった演奏によって帰りもあまり寒さが気になりませんでした。


最後に。

オケの皆様は本当にたいへんだったことと思います。
特に入ったばかりでいきなりこの曲だった方は本当にたいへんだったと思います。
本当にお疲れさまでした。



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サンフランシスコ人

(フィラデルフィアで)フィラデルフィア管弦楽団の定期のマーラー/リュッケルトの演奏会に行った事があります.....リッカルド・ムーティとフレデリカ・フォン・シュターデ....
by サンフランシスコ人 (2019-02-10 03:22) 

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