あらえびすの「名曲決定盤」を読んで。 [クラシック百物語]
第二次大戦以前の昭和の名盤ガイドというと、
たいていこの本がでてくる。
当時の音楽ファンはこういうものを読んで参考にし、
今では考えられないくらい高価な音盤を購入していたんだなあと、
そんなことを考えながら久しぶりに読んだ。
で、ぶっちゃけた感想としては、
当時としては驚異的に音盤を購入していたクラオタによる、
盛大な感想文大会という範疇を抱ない代物で、
今のクラオタならこれくらい書ける人はけっこういると思われる、
そんなレベルの内容かと。
しかも現代と同様に好き嫌いと良し悪しがちゃんぽんになった内容で、
当時これを鵜呑みにして聴いた人がさぞ多かったんだろうなあと、
ある意味当時の日本のそれの一端を垣間見るような気がしたし、
その悪癖を未だに継いでいる間抜けな評論家いることも、
残念な現実として再認識させられた。
ただこの本はそういう負の部分だけで構成されているわけではない。
今となっては忘れ去られてしまった演奏家にふれていたり、
演奏家は知られているが、
その人にこんな録音があったのかというものが分かったりと、
そういう資料的な価値はかなりのものがある。
それに今とは扱われ方が大きく違う人もかなりいる。
中には当時の音盤量が少なかったり、
第二次大戦以降に円熟していった人もいるので、
そういう部分はしかたないけど、
それ以外にも今とはけっこう評価が違う人がいて、
このあたりはなかなか興味深かった。
他には当時の日本の音楽に対する価値観や、
独墺至上主義的なものの考え方が伺えたりと、
そのあたりもけっこう面白いものがあった。
ただ当時の独墺至上主義的なそれと、
そこから派生したような米英系を低くみる傾向は、
当時日本の一種の劣等感からきたものであって、
戦後に大きく蔓延した独墺至上主義や米英系を低くみるそれが、
思想的なものが介入していた部分があることから、
それらとはやはり違って感じられた。
あと当時と今とでは年齢に対する感覚が違い、
五十代の人も今でいう六十代かそれ以上の年齢のように話している所が散見される。
五十代の声楽家を老婆とよんだり、
六十代の指揮者を古老と表現したりと、
今では?となってしまうところがけっこうあったり、
その表現が今では大丈夫なんだろうかというものもあった。
もっともこのようにかなり時代的なものがあるせいか、
戦前の好楽家の雰囲気というもの、
もっとくだいていえば、
当時のクラオタの雰囲気や匂いみたいなものが強く感じられ、
そういう部分はとても楽しいものがある。
また書いている事がけっこう後腐れが無い書き方のせいか、
いろいろと問題のある表現はあるものの、
最近のもののように、
読んだ後に酷い嫌悪感を感じることもない。
このあたりは書き手のさっぱりした、
悪意のない潔い姿勢がそこにあらわれているからだろう。
もっともそこにはいい意味で、
酒の席で自分を慕う後輩との音楽談義で、
自分が語ったそれをそのまま文字にしたような、
そんな趣のある書き方を、
なんとなくだけどしているからかもしれない。
いつも言っている事だけど、
音楽を語る事はじつは音楽を語っているのではなく、
自分自身をじつは語っているにすぎないと自分は確信している。
それを思うと、
上で感じたような書き方をするあらえびすと言う人は、
じつに魅力あふれる人だっんだろうなあと、
これを読んでいて感じさせられるものがある。
そういう意味では当時の貴重な資料というだけでなく、
あらえびすの人柄の一端に触れられる一冊といえるかもしれない。
興味のある人はぜひ一読をお勧めしたいです。
〆
とにかく読み物としては面白いですし、昔の資料的価値もそこそこあります。上下巻ともにユニークな著作物だと思います。
soramoyouさま、nice! ありがとうございました。
by 阿伊沢萬 (2018-12-23 11:00)