サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団演奏会に行く。 [演奏会いろいろ]
ラトルがホームグラウンドの新天地ともいうべき、
ロンドン交響楽団のトップに就任しての同オケとの来日公演。
おそらくこのコンビでは初来日のはず。
個人的にはロンドン響とのこのコンビ。
些か遠回りしたかのような感さえあり、
ようやく待望の組み合わせが実現したかと、
そんな気持ちで今回の公演にでかけました。
最初のラヴェル。
ちょっと互いに慎重かつ手探り的なはじまり方だったけど、
曲が進むにつれ互いのフォーカスがしっかりしだし、
ラトルのやりたい事を積極的にロンドン響が表現していくという、
ひじょうに相性のよい音楽が流れるようになっていきました。
音はロンドン響にしては驚異的に弱音の表情が凝らされており、
なかなか神経の細かく行き届いた、
それでいてあまりにも完璧を尽くしきってしまうような、
そういう音楽とも違う、
じつにハートウォームな音楽がそこにはありました。
またその音色もクリアではあるものの、
無国籍的な無味無臭な響きというものでなく、
ラヴェルがまるでディーリアスやRVWの音楽になったかのような、
イギリス的な響きと詩情に満たされている事には驚嘆してしまいました。
ロンドン響のこの曲というと、
半世紀以上前のモントゥによる名盤があるが、
それとは違いとにかく強く「イギリス」を感じさせるこれはラヴェルでした。
もっともその心温まる響きはモントゥと同じくらいのレベルにあり、
なんとも幸福な気持ちにみたされた演奏となりました。
ロンドン響の特に中低音の弦の豊かな響きが秀逸で、
多少編成を刈り込んではいたものの、
それによる音量の不足等はまるでありませんでした。
ラトルもじつに冴えた指揮ぶりでしたが、
ロンドン響の充実ぶりもまた素晴らしいものがありました。
その後シマノフスキ、休憩後ヤナーチェクと演奏されましたが、
このどちらもさらにラヴェルを上回る名演で、
シマノフスキの息を呑むほどの響きのバランスの確かさと、
密度の濃さと高揚感は、
この公演をきっかけに日本で同曲の演奏頻度が上がるのでは?
というくらい聴き応えと印象強さを感じさせるものとなりました。
もちろんそこにはヤンセンの、
音量も表情も豊かで冴えに冴えた響きも、
これまた大きく貢献していたことも特筆しなければならないでしょう。
しかしラヴェルからシマノフスキへの流れと言うか、
曲の配列の仕方がとても素晴らしく、
シマノフスキを初めて聴いた人も、
意外と無理なくラヴェルから入り、
この曲の良さを堪能できたのではないでしょうか。
こういう鋭敏な仕掛けと言うか感覚はラトルならではなのかもしれない。
そして最後のヤナーチェク。
とにかくブラスセクションが素晴らしく。
11人のペットが舞台最後列に一列に並んで吹奏されたそれは、
まるで英国王室の祝典音楽のような雰囲気さえ感じられ、
ここでもまた「イギリス」というものをよく感じさせるものとなっていました。
また弦の反応の俊敏さも驚く程で、
チェコ風味のようなものは当然薄かったものの、
それを除けばほぼ完璧を尽くしたかのような、
ほとんど理想的なこれは演奏になりました。
とにかくラトル就任後間もないこのコンビが、
まさかここまでのレベルに達しているとは正直思ってもみませんでした。
今後ロンドン響とラトルはこのオケだけでなく、
世界の楽壇の歴史に残る最高のコンビになるのではという気さえします。
もうこのコンビなら何でも聴いてみたいとさえ思わせるほどの本当に圧巻の演奏会でした。
やはりラトルは根っからのイギリス人なのでしょう。
尚、本日はホールに着いたのが開演10分前でしたので、
西村さんによるプレトークは未聴です。
(余談)
正直に言うと、
ラトルがベルリンフィルのトップに就任したというニュースを聞いた時、
確かに喜ばしい事かもしれないけど、
個人的には「?」という感じがした。
なんというか客演ならともかく、
恒久的なつきあいをするという事を考えると、
この両者は水と油じゃないかという感じがした。
実際録音を聴いていると、
良く言えば共同作業、
悪く言えば音楽に踏み込めないもどかしさみたいなものが、
以前のバーミンガムとのコンビと比較すると、
かなり強く感じられるものがあった。
なのでこのコンビが16シーズンも続くなどと、
当時は考えすらしなかった。
ただ次第にいい意味で歯車がかみ合い出したのか、
その後はなかなか聴き応えのある演奏も耳にするようになった。
そんな中での突然の辞任発表が2013年にあった、
確かに唐突ではあったが意外という気はしなかった。
ラトルとしてはもうベルリンでやるべき事はやり尽くしたように、
このときは感じられた。
そしてそれから二年後、
ラトルがロンドン響に行くことが発表された。
この時自分は
「ああ、やはりラトルはイギリス人なんだなあ」
というのと、
この指揮者が伝統的なイギリスの語法と伝統を、
想像以上にそのベースに刻み込んでいることも感じられた。
今回の来日公演はまさにそれの再確認となった。
おそらくこれからのラトルはベルリンでの経験や貯蓄を活かしながら、
これからを歩んでいくだろう。
確かにロンドン響への道は、
些か大回りをしたように結果的には感じられるけど、
ベルリンのそれを経験したことは、
ラトルにとって決して無駄ではなかったと思うし、
むしろバーミンガムからストレートにロンドン響へ行くより、
結果的はよかったような気がする。
このコンビのこれからに本当に強く期待したいと思います。
サンフランシスコ人にとって、サイモン・ラトルは好印象ではない指揮者です...
by サンフランシスコ人 (2018-09-28 07:40)
ラトルがもしベルリンに行かなかったら、日本での評価や人気も未だ低かったような気がします。1987年の文化会館、1994年の人見記念講堂での、バーミンガムとのコンサートは歴史に残るほど悲惨な人の入りでした。なので好印象を持たれない方はけっこう多いのではないでしょうか。
by 阿伊沢萬 (2018-09-28 23:57)
soramoyou さま。
ラトルの今回の来日は、本当に今この指揮者き何がやりたいかということが、じつによく分かる内容でした。それだけにBPO時代より熱狂敵なファンが増える反面、この指揮者から離れていく人も少なからずでてくるような気がします。
そういう意味でもこれからのこのコンビがとても楽しみですし大注目です。
nice! ありがとうございます。
by 阿伊沢萬 (2018-09-29 00:00)