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ハイティンクの1960~1970年代の印象 [クラシック百物語]

ハイティンクは2017年現在、
ブロムシュテットとならぶ長老指揮者として、
世界的にも高く評価されている。

ただ彼の評価というか、
特に日本でのそれはその初めの頃は、
決して芳しいものではなかった。

彼の名前が日本で知られたのは、
1961年にベイヌム急死以降空席になっていた、
コンセルトヘボウの首席になった時だと思う。

前任ベイヌム同様ヴァイオリン出身で、
若くしてオランダ国内で活躍していた、
当時売り出し中の新鋭というポジションだったらしい。

当時31歳ということでまさに大抜擢だったが、
さすがに一人では荷が重いということだったのだろうか、
バイエルン放送響を退任したばかりの、
オイゲン・ヨッフムも共同で1964年迄担当、
日本にも1962年と1968年のコンセルトヘボウ公演時に、
ハイティンクに同行し来日している。

一方当のハイティンクはというと、
この二度のコンセルトヘボウとの来日、
翌年の1969年のロンドンフィルとの初来日公演と続くが、
彼の当時の日本での評価は、
一言でいうと地味もしくは鈍いものが多かった。


それらの多くの評の一致している所は、
オケは素晴らしいが指揮者の個性が薄い、
もしくは踏込が足りないという類のものが多かった。

これは彼のオケのそれを尊重し、
楽曲の良さをそこに活かしていこう姿勢もあったが、
当時近い年齢の指揮者に、
マゼール、ケルテス、そしてメータといった、
個性がハッキリと感じられる指揮者がいたことも、
ハイティンクには不幸だったかもしれない。

またハイティンクはこの時期諸般の事情で、
ブルックナーやマーラーの交響曲全集という、
大作を立て続けに録音したことも、
他の指揮者の個性的な演奏や熟練した演奏と比較され、
コンセルトヘボウの音が素晴らしいだけに、
結果オケに下駄を預けているだけという、
そんな感じのイメージも生まれてしまったことも、
結果的にハイティンク自身の評価の好転には、
いまひとつ結びつかなかった。

ハイティンク自身、
毎年のように頻繁に来日していたわけではないので、
そのあたりの録音でのイメージは、
日本ではかなり大きなそれを占めるものでした。

ただハイティンクのもつ、
平衡感覚の強い演奏スタイルは、
イギリス等では高く評価され、
1967年には早くもロンドンフィルの首席に就任している。

なので日本でのそれは、
世界での一致したものというわけではなかったようです。


1974年にハイティンクが五年ぶりに、
この時はコンセルトヘボウとの来日となった公演では、
自身初の単独によるツアー牽引となった。

チェン・ピーシェンと二日間共演があった以外は、
すべてソリスト無しの公演。

しかも中には初来日時にヨッフムの指揮で評判になった、
ブルックナーの交響曲第5番、
そしてこのオーケストに献呈された、
Rシュトラウスの「英雄の生涯」が初めて取りあげられるなど、
極めて意欲的な内容となり、
5月4日に前年オープンしたNHKホールでの演奏は、
NHKがテレビとFMでも中継された。

ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲
マーラー/交響曲第10番~アダージェット
Rシュトラウス/英雄の生涯

という内容のもの。

これは自分も見ていたけど、
ハイティンクは極めて積極性のある、
かなり熱い演奏を聴かせていたけど、
印象としては指揮者より曲の方が残るというもので、
ひじょうに自分の好みにあった演奏だった。

またオケの状態もとてもよく、
最初のハイドン変奏曲の冒頭の木管など、
その重く味のある響きに魅了されたものでした。


当時の来日前はオーケストラの来日ばかりが大きく話題となり、
指揮者はどうも二の次のような雰囲気だったものの、
この放送を見た人などは、
けっこうハイティンクも印象づけられたのでは?
と思ったものでした。

もっともこの公演も以前よりは好評だったものの、
やはり話題そのものはやや地味で、
ハイティンクの評価も自分が思った程ではありませんでした。

ただこの来日直前そして以降に日本で発売された、
ブラームスの交響曲第4番や第2番は素晴らしく、
雑誌での評価もそこそこのものがありました。

このあたりからハイティンクへの評価は、
ゆっくりと上昇していきました。

そして1977年コンセルトヘボウとの三年ぶりの来日。

aco.jpg

かつては六年間隔で来日していたので、
ちょっと意外な感じもするこの来日公演は、
ハイティンクの素晴らしさを全開したような演奏ばかりで、
マーラーもベートーヴェンも、
そしてFMでしか聴けませんでしたが、
ブラームスやドビュッシーも気合の入った、
それでいてバランスや細やかな表情も随所に感じられる、
極めて聴き応えのある素晴らしい演奏ばかりでした。


評判も以前よりかなり良いものがふえ、
特に指揮者とオーケストラの一体感が高く評価され、
今までよりもはるかに評判の高い、
特にハイティンク自身が高い評価を受けた公演になりました。

しかもその後発売された多くの録音が、
そのときの好調さを持続しているだけでなく、
ハイティンクの凄みも強く感じられる演奏が増えていきました。

自分がもつハイティンクの音盤が、
1970年に録音されたものが多いのはそのためでしょう。

前述したブラームス以外にも、
チャイコフスキーの5番、ブルックナーの7番、
ロンドンフィルとのスコットランドは、
今でも自分の愛聴盤となっています。

そしてデジタル録音時に録音された、
ブルックナーの9番には腰が抜けそうなくらい驚かされ、
ある評論家の方など、

「この歳でここまで円熟しきってしまうと後が心配」

と言うほどでした。


このためハイティンクの次回の来日を心待ちにしたものの、
1980年のロンドンフィル、
1986年のコンセルトヘボウとも同行することはなく、
結局1992年のロイヤルオペラまでその来日を待たなければならなかったのは、
本当に今でも残念に思っています。


このように今では巨匠といわれているハイティンクでしたが、
1960年代1970年代の半ばくらい迄は今では信じられないくらい地味で、
評価もあまり高くありませんでした。


それから半世紀程たち、
今は押しも押されもせぬ巨匠となりましたが、
ある意味文字通り大器晩成という道を歩んできた人だと思います。

これからも末永く活躍してほしいです。

bh.jpg

1977年のプログラムに2003年サインをいただいたもの。
本人もなにかこのプログラムを気にしていたようです。
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サンフランシスコ人

2017年3月にシカゴ交響楽団を病気で欠場したみたいです...

http://chicago.suntimes.com/entertainment/james-conlon-to-replace-bernard-haitink-in-cso-concerts/
by サンフランシスコ人 (2017-08-16 06:37) 

阿伊沢萬

その後7月のロンドンのプロムスでは復活されたようなのでなによりです。ただ無理はしないでほしいです。
by 阿伊沢萬 (2017-08-16 22:16) 

サンフランシスコ人

シカゴ交響楽団のホームページによると....

http://cso.org/ticketsandevents/production-details-2018-19/chicago-symphony-orchestra/haitink-bruckner-beethoven/?perfNo=9288

Thursday, October 25, 2018

Beethoven Piano Concerto No. 2
Bruckner Symphony No. 6

Chicago Symphony Orchestra

Bernard Haitink conductor
Paul Lewis piano

by サンフランシスコ人 (2018-02-02 04:31) 

サンフランシスコ人

ハイティンク....2018年10月20日のシカゴ交響楽団の公演時に転倒....

http://chicagoclassicalreview.com/2018/10/thrilling-memorable-bruckner-and-a-scary-moment-from-haitink-cso/

"Bernard Haitink stepped off the podium and seemed to waver and lose his balance. Violinist Sylvia Kim Kilcullen reached out in an attempt to steady him, but the 89-year-old conductor stumbled backward and fell onto the stage."
by サンフランシスコ人 (2018-11-03 06:16) 

サンフランシスコ人

訂正....10月25日です...入院やキャンセルのニュースは、見当たりませんでした.....

http://www.askonasholt.co.uk/events/bernard-haitink-05-02-2019-2000-philharmonie-luxembourg-luxembourg/
by サンフランシスコ人 (2018-11-06 03:24) 

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