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高倉健と中尾彰の金田一耕助。 [映画]

横溝正史の作品に登場する名探偵金田一耕助。

そういうとかなりの人が
石坂浩二さんや古谷一行さんのそれを思い浮かべる人が多いと思うが、
渥美清さんや西田敏行さんを思い出す人はそんなに多くないと思う。

そしてそれ以上に思い出されないのではないかという人に、
高倉健さんと中尾彰さんがいる。

ともに劇場版一作のみですが、
高倉さんが「悪魔の手毬唄」(1961/ニュー東映)。当時30歳。
中尾さんが「本陣殺人事件」(1975/ATG)。当時33歳。


そしてこの二作品がけっこう捨てがたい魅力がある。
今回はそれらの簡単な紹介。


まず高倉さんの「悪魔の手毬唄」。

AT.jpg

モノクロの作品で90分を切る長さの作品。

これがじつはかなりの曲者。

ネットによると何と脚本家が原作を読まず、
たんなる聞きづてだけでそれを起こしたというのだから、
当時よく原作者がこれをOKしたものだと正直仰天。
(因みにこの作品の原作は「宝石」という雑誌に連載され公開二年前に終了している。)

そのため登場人物もストーリー展開も、
はなはだしく他のこの作品の映像作品と様相が違うし、
かなり大事な部分や要素もバッサリ切り捨てられて、
ほとんど別作品というくらいに改変されている。

はっきりいって、
ローランド・エメリッヒ版「ゴジラ」の金田一版だ。


だがこれを金田一耕助とか横溝作品とかを度外視してみると、
けっこうおもしろい作品にしあがっている。

まず高倉さんの金田一がとてつもなくカッコいい。
しかも歯切れがよく素晴らしくキレがいい。
もう健さん探偵全開という感じだ。
背広にサングラスにスポーツカーも全然嫌味じゃない。

しかも現地でいきなり学生を助手にしたりと、
おそろしく積極的なところもイイ。

また磯川警部役の名優神田隆さんもこれまた、
懐が深くしかもなかなか頼りがいのある人物になっている。

悪役じゃない神田さんというのもなんか新鮮。

そしてヒロインには当時まだ高校在学中だった太地喜和子さんが、
志村妙子名義で出演している。
これがまた高校生とは思えないくらい達者な演技をしている。
太地さんって凄い人だったんだとあらためて痛感。

他にも美空ひばりさんの実弟、小野透さん。
ベテランの花沢徳衛さん。

また悪役として後に名が知られる山本麟一さんも、
清潔ながら早くも悪役名優としての存在感をみせている。

また「和製キングコング」というコメディに主演した、
山口勇さんが冒頭倒れた巨木を力技で動かすシーンに出ている。


そんな人たちがかなり改変された内容のこの作品で、
じつに適材適所でいい役を演じている。

ただとにもかくにも高倉さんの存在感が凄い。

しかもとにかくかなりハマッてる。
佐々木小次郎よりこちらの方が全然いい。

もしこれがシリーズ化されていたら、
案外高倉さんの当たり役になっていたかもしれない。
それくらいの良さなのだ。

警察の嘱託というのもいい設定で、
いろいろと面白いところもあるのになあという感じです。


なぜかDVD化されていないのが残念。
ぜひDVD化してほしいものです。

因みに途中風呂場のシーンで、

「ときにあなた刑事さんですか」
「いやあ僕は違いますよ」

と金田一が話しかけられるシーンがあるが、
これがなんとなく

「ときにあなた健さんですか」
「いやあ僕は違いますよ。

と、健さんの笑顔もあってか、
そう聞こえてしまうのがなんか笑えます。



続いて中尾彰さんの「本陣殺人事件」。

51j26mhzGCL.jpg

こちらはカラーで110分というもの。

さっきの作品に比べるとはるかに原作に沿ったつくりだが、
製作費の関係で時代を1970年代にしたため、
中尾版金田一はジーンズを着こなした、
なんかいかにもATGっぽい雰囲気になっている。


だが中尾さんの金田一は、
服装を除けばかなり原作に雰囲気が近いのかもしれない。

高倉さんのようなスピード感は無いけど、
また声がじつに低くよく通る声のせいか、
台詞にかなりの説得力がある。

これもまたなかなかの金田一さんだ。


またこの作品では一柳賢蔵役の田村高廣さんの存在が大きい。

この冷徹で完全主義者でブライドの塊のような賢蔵を、
じつにしっかりと、
またその病的ともいえる側面までも見事に演じている。

このため中尾さんの金田一と両極でこの話をしっかりと支え、
結果この作品をじつに見応えのある作品にしている。

そして磯川警部役の東野孝彦さんも、
神田さんとは違ってこれまたいい雰囲気の、
友好的かつ庶民的な磯川警部を演じているし、
常田富士男さんが重要な役で出演しているのも見ものです。

また作品の全体が、
後の角川よりも閉鎖的かつ陰惨な雰囲気がするのも、
ある意味では横溝作品にふさわしいかも。

じつはこの「本陣殺人事件」、
この中尾金田一以降映画化されていない。

TVでは制作放送されているが、
角川をはじめ劇場用作品としては、
すでに40年以上映画化されていない。
(公開は1975年9月なので2015年で公開40年。)

そのためこの作品は、
唯一のカラーによる劇場用
「本陣殺人事件」となっている。

翌年から角川がシリーズ化することになる、
石坂浩二と市川昆監督による金田一シリーズとはまた違う、
大作ではない金田一作品ということで、
こちらも未見の方には見ることをお勧めしたい。

もちろん大作ではないが、
安っぽさや手抜き的な雰囲気はいっさいないので、
そのへんは安心できます。

こちらはありがたいことにDVD化されています。

監督は高林陽一さん。そして音楽はあの大林宣彦さん。


しかし中尾さんの金田一。


けっこう抑えた演技をしてるんだけど、
あの目つきと低音で言われるとなんか説得力あるなあ…。

犯人はたまらんだろうけど。


〆。


あと余談ですが、
高倉さんの「悪魔の手毬唄」に出演している、
亀の湯の女中さんをやっている方。

とてもちゃきちゃきしていい感じの演技をされていた。
誰なのだろう。
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コメント 1

阿伊沢萬

この二作品。角川の金田一作品をみてない人や原作を知らない人にはけっこう楽しくみれると思います。しかし何度もいいますが健さん探偵ほんといいです。カッコよすぎます。ぜひ一度地上波で放送してほしいです。DVDにもなってないですし、なんとかならないものでしょうか。

ゆきママさま、makimakiさま、winona-0725さま。

nice! ありがとうございました。
by 阿伊沢萬 (2015-05-27 19:22) 

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