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「アメリカ文化外交と日本」を読んで [いろいろ]

アメリカ文化外交と日本
冷戦期の文化と人の交流
藤田文子(著) 東京大学出版会

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という本を読んだ。

これは小説ではなく研究書になのだが、
著者がひじょうに丁寧に分かりやすく噛み砕いているため、
難解な論文という趣はあまり無い。

かといって小説のように、
事実と事実という点の間をフィクションで補うという、
そういうことはもちろんしていない。

ようするにすべての事実と事実の間を、
これまたより細かい事実で繋いでいくという、
途方もない作業の上にこの本は成り立っている。

これをなにか形に例えるとしたら、
富士山にある「最高峰3776mの碑」がこの本そのもの。
そしてそれを形成するための資料や証言が富士山本体すべて。

というかんじだろうか。

読んでいて、
おそろくし膨大な資料がこの背後にあったんだろうなと、
とにかくまずそのことをまず痛感させられるものがあった。

資料は当時の関係者の証言はもちろんたが、
日米の図書館に所蔵されている政府関係の文献だけでなく、
多くの文化にかかわる資料や公演パンフレット。

当時のことを扱った研究書以外の書籍、
そして新聞や雑誌の小さな記事に至るまで。
考えられるかぎりの資料をあたっている。

その中には以前ここで紹介した、
大島幹雄さんが書いた神彰の「虚業成れり」も含まれている。


そのためかなり読みやすく書かれているにもかかわらず、
その密度の濃さのためなのか、
それとも自分の読解力の低さかはともかく、
280頁強の本を読むのに半月以上かかってしまった。
こんなことは初めてです。


で、その感想ですが、
ここで書かれていることが、
そのまま自分の幼少期に繋がっていくためなのか、
いろいろな部分で、

「ああ、あれはこれが元になっていたのか。」

ということが続出て、目から鱗の連続でした。

そして1960年代に、
なぜあれほどアメリカのオーケストラや演奏者が、
まるで目の敵のように叩かれたり難癖をつけられていたのかも、
ようやくハッキリと確認することができました。

自分は以前このことを、
主たる要因は日本の西欧への劣等感からきた差別意識、
というのが主で、
共産主義云々は補助的なものかと思っていたのですが、
どうやらこれは逆だったようです。


それを思うと、
そのときに築かれた色眼鏡越しの偏狭な評論が、
その後にわけのわからないイメージを風評として残し、
それが昭和の終わりまで蔓延していたことに、
非常に腹立たしいものを感じたのと同時に、
そのときの亡霊が、
いまだに若い聴き手におかしな先入観を与えていないかと、
そのあたりも心配になってしまいました。


それはさておき、
そんなかつての日本の状況と、
それに対するアメリカのそれが、
とにかくじつによくここでは記されています。


1950年代の日本におけるアメリカの文化外交の、
その源、その過程、その評価、そしてその後を、
この本はじつに明晰に捉えています。


そしてそこから今の外交、
さらに国と人との交流と「互いを知る」ということの大切さを、
この本の読後に多くの方がきっと感じられることでしょう。


因みに著者の藤田さんはこれを脱稿するのに二十年かかったとか。

価格がお手頃ではないので(税抜\5900)、
ぜひ購入をとは言えませんが、
図書館等でみかけたらぜひ一度お読みになってください。


たいへんな力作です。
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阿伊沢萬

この本は文化外交を第一次大戦頃からその歴史を紐解きだしなが、アメリカという国家の姿勢そのものの断片もひじょうに克明に描き出している労作です。最近クラシック音楽においてつまらない本がときおり話題になってるのをみるにつけ、こういう真の労作こそもっと話題になるべきなのではないかと、ちょっとこのあたりなんとも言えないものを感じてしまいます。とにかくより多くの方にその存在を知ってほしい著作です。

ゆきママさま、makimakiさも。nice! ありがとうございます。
by 阿伊沢萬 (2015-05-25 20:45) 

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