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「ガルパンの秘密 ~美少女戦車アニメのファンはなぜ大洗に集うのか」を読んで。 [ガールズ&パンツァー関係]

2012年秋のテレビ放映開始以来、「美少女と戦車」のアニメーションが業界でも異例の大ヒットとなっている。作品の舞台となった茨城県大洗町には大勢のファンが訪れ、ブルーレイやDVDの売り上げは各巻平均5万枚を超え、サウンドトラックCDは4万枚に迫り、関連グッズも大人気だ。当初はそれほど期待されていなかったアニメ「ガールズ&パンツァー」は、なぜこれほど多くの人に受け入れられたのか。本書はその真相に迫るべく、水島努監督をはじめとする21名のの関係者に対して長時間のインタビューを敢行した。その証言から浮き彫りになる「ガルパンの秘密」とは──。
(Amazon)

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という本を読んだ。

今年春に先行限定版が出、
通常版が先日発売になった本ですが、
なぜか限定版での購入ができた。

これがなかなか面白かった。

制作側、販売側、現地側と、
いろいろな関係者の証言をインタビュー形式でつづるという、
ちょっとしたNHKドキュメント風の一冊だ。

内容について細かくは書かないけど、
要約すれば「ガルパン」はいくつもの偶然と、
そして熱意によって今の状況を現出させた作品ということが、
この本では書かれている。

自分はヒットする作品は、
「9割はオーソドックスで、新しい部分は1割もあれば充分。」
と考えている。

ようするに目新しいものを盛り込みすぎると、
観客がついてこないというのが自分の考えにある。

じっさい今までヒットした作品の多くは、
目新しい部分が一見注目されてはいるけど、
実際はそうでない、むしろ古典的ともいえるほどの部分が多い。

ガルパンもまさにそれだった。

確かに「戦車道」というのはビックリ発想だが、
それと学園艦以外はひじょうにオーソドックスな設定だ。

しかも作品そのものは同時期に放送していた「ラブライブ」とよく似ていて、
廃校寸前の女子高を救うために、
学年を超えた生徒が生徒会共々全国大会に出場しようというところなど、
戦車道とスクールアイドルの手段が違うだけで、
ひじょうに酷似している。

このあたりも「ガルパン」のオーソドックスさを感じさせる、
ひとつの現れとは言えないだろうか。


本文中に
「一歩先を行く作品は追いつくのは難しいけれど、半歩先なら多くの人がついてこられる。」
という言葉があるけど、
これもまたガルパンにも当てはまる発言のひとつといっていいと思う。

そしてこの本はこの言葉が循環主題のように、
多くの人たちが強い熱意と愛情を持ちながら、
半歩前を行くために「少しだけ新しい」古典的な作品をつくりあげようとする、
そんな努力と過程が描かれている。


それにしても読んでいて予想通りだったのが、
大洗の人たちの当初の反応と状況だった。

確かにアニメファンというのはイメージが一般にはよろしくない。

だけどそれは知らないからであって、
イメージだけによる想像の産物としてできている部分がある。

じつはそういう産物と同じものに苦しめられていたのが大洗の人たちだった。

311の時、
東北ほど被害が大きくないのでそれほど取り上げられないし、
また積極的に声も出しづらい、
だけどお隣福島の原発のそれによる影響は深刻で、
そこには風評による少なからぬ被害もあった。

それを思うと、
アニメファンの負のイメージに対して、
大洗がそれを早期に払しょくできたのは、
たんなる土地柄だけではなく、
そういう部分も潜在的にあったような気がする。

もちろんそれは意識してのことではないだろう。
だがどこかにそういうものが強く働いていたような気が、
この本を読んでいて妙に強く感じられてしかたがなかった。

因みに自分は茨城が311直後たいへんだったことを知人から聞いていた。

知人は311のあったその日の昼前に茨城に帰郷した。
そして自宅について寛ごうとした矢先にそれにあった。

直後から食料不足をはじめとした多くの困難に直面した。
特に鉄道の不通が致命的で、
完全に陸の孤島となってしまったという。

このため数日後、当時できたばかりの茨城空港まで、
家族とともに片道分の燃料だけで車をとばし、
そこから名古屋へ行きそして神奈川に移動、
自分のアパートの一室に家族とともに避難するという、
たいへんな困難を聞かされた。

またこれから梅の見ごろだった偕楽園もかなりの損傷を受けた。

そしてあの放射能。

当時福島の米がいろいろ言われていたが茨城の米も煽りをくっていた。

岩手、宮城、福島の被害は確かに甚大だが、
青森や茨城、さらには北海道や千葉も無傷ではなかったのだ。

それを思うと、当時の大洗は、
正直とにかくとんでもなくたいへんな状況であったことは、
なんとなく想像くらいはできるというものだった。


そしてガルパンはそんな時期に持ち込まれた作品であり、
そして大洗に多くのアニメファンが訪れる誘導剤のようなものになった。


だがガルパンは決して町おこし前提でつくられたアニメではない。
あくまでも少しだけ新しいオーソドックスな作品だ。

ただそれだけに大洗の人たちもその半歩についてこれた。

(これがガルパンではなくストパンだったら果たしてこうはいっていたかどうか…。)


そしてそこから町自らのもつ潜在的な力で再度立ち上がり、
制作上の都合で二話が延期となった「ガルパン」を逆に支え、
OVAや劇場版までの繋がりをつくる力のひとつとなっていった。

ある意味、作品と聖地がともに支え共栄しあうという、
ほんとうにユニークな関係へと成り立って行った。

もちろんそこに行くまでにはかなりの苦労と努力があったことは、
この本にもいろいろと書かれているし、
すべてがうまく運んだわけではないことは、
二話分の放送が三か月も先送りになったことが雄弁に物語っている。

だがそれすらも大洗側としてはラッキーだったという。
ほんとうになんともユニークな関係だ。

こういうあたりを本当に多角的にいろいろとこの本には記されている。
とにかくなかなか面白い一冊でした。


あと個人的なことで恐縮だが、
この作品の制作に携わったバンダイビジュアル。

自分はこの会社がAE企画といわれていたころからのおつきあいがあり、
いろいろとかつてはご迷惑をかけたり恩恵にあずかったりと、
とにかく関係の深い会社だった。

おそらく自分の名前をまだ知っている人もいるかもしれないし、
苦笑いをする方もいるかもしれない。

ただとにかくいろいろと思い出深い会社であることから、
アニメから退いた今でもその動向は注目している。

かつてファーストガンダムのLDBOXが出たり、
ガンダムSEEDのDVDが出ていた頃、
「いやあバンダイさんは景気がよくていいですね」
というと
「来年がたいへん…。」
という返事が笑顔の中からかならず返ってきていた。

この業界、
とにかく今がよくても来年は…ということが常態化しているので、
ガルパン人気が少しでも続いてほしいというのは正直なところだろう。

TVの劇場作品が恒例化しているので、
以前よりは少しだけ安心な部分があるにはあるのでしょうが…。

そんなこともこの本も読んでいて思わず考えてしまった。


あと渕上舞さんも比較的多くページを割いて、
そのときのことを話されているが、
これから声優を志そうと思っている人は、
ぜひ一読されることをお勧めする。

正直渕上さんはまだ運がいい。
一生ガヤだけで終わってしまう人だって珍しくないし、
10年人気が保てる声優さんなんてこのご時世ほんのわずかしかいない。

渕上さんというと個人的には「電波女」の前川さん。

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「しばし待たれよ」でもおなじみ?のキャラで、
個人的にはアニメの歴代キャラでも十指に入るお気に入り。

たしか以前渕上さんの紹介に
「電波女の前川さん役でおなじみの…」
と言われていただけに、
渕上さんがガルパン直前期に声優を引退しようとしていたことには、
この本を読む前から知ってはいたが、
ここに書かれていることを読んであらためて考えさせられてしまった。

声優のたいへんさと、
金銭的な見返りの少なさが痛感させられる、
ほんとうにある意味生きていくのがきつい仕事ということも再認識させられた。

シンデレラ声優というふうにこの本でいわれているけど、
個人的にはダイハード声優といった方がいいのではないかと、
そんなかんじすらしてしまった。


ちょっと徒然なるままに書き過ぎましたが、
とにかくそんな感想を持ちました。


余談ですが自分は今回のこの件で、
大洗がらみで水浜線を中心にいろいろと書いているけど、
それも元を正せばきっかけはガルパンだ。

そして今じつはもうひとつ大洗の地味なものに注目している。
それについてもいつかここで取り上げてみたい。

それが終わると大洗とは一区切りになるかもしれませんが、
そのあたりのことについてもいずれ書きたいと思ってます。

以上です。


あともうひとつ余談ですが、
本文中プラモをつくるお子さんが減っているという記述に、
ああそうなんだと…。

自分も子供時はよくプラモをつくっていた。

だけど自分のメインは「城」と「軍艦」で、
「戦車」はT34、ポルシェティーガー、四号、
それと三式中戦車くらいしか作ったことはない。

だからガルパンはある意味新鮮だった。

※なにしろ当時「三笠」や「聚楽第」のプラモが無いと怒っていた、変わり者の子供だったもので…。

みんなフィギュアに走ってしまったのだろうか。
時代なのかなあ…と、
この話にはとにかく寂しさを感じました。
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