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ムラヴィンスキー新譜二点雑感 [ムラヴィンスキー]

ムラヴィンスキーの新譜CDが出た。

「1978年6月、ウィーン芸術週間でのチャイコフスキー第5番ライヴ録音と、1977年10月、大阪フェスティヴァル・ホールでの『未完成』と『くるみ割り人形』が鮮明な音質で登場!」

というもの。
で聴いた感想なのですが…はっきり明暗が分かれました。

まずチャイコフスキーの5番。

80001.jpg

正直驚きました。

気持ちティンパニーや一部の管楽器が引っ込み気味に感じられますが、
それ以外は完全に別物感覚です。

自分がこの前年聴いた同曲の感動が蘇ってくるように感じられたものでした。

自分はこのときのことを以前以下のうに書いています。



「(前略)

そして後半のチャイコフスキー。

これ以前はもちろんおそらく今後も聴くことのできない
「奇跡」の連続のような演奏となりました。
そしてこの後、ムラヴィンスキーのチャイコフスキーというと
自分にとって「=交響曲第5番」であり
「=1977年10月19日NHKホール」というかんじになってしまいました。

ですがじつはこの時のチャイコフスキーの5番は
この指揮者の数ある同曲の演奏の中でも、
極めて特異なものであったという気がしています。

 ムラヴィンスキーが1973年4月に本拠地で録音したライブや、
1975年に日本公演で録音されたきわめて厳しい音質によるライブは、
それまでの峻厳な中にバランスよく音楽を刻み込んでいく
50年代末期から続くムラヴィンスキーのスタイルが踏襲されています。
また1980年以降のそれでは、
音楽に清澄さと静かなバランスのよい風格が備わった演奏となっていますが、
この1977年の日本公演での演奏や、
翌年のウィーンライブにおけるそれはそのどちらとも違う、
ある意味均衡やバランスのよさを二の次にしたような演奏となっています。

それは厳しい造型の下にいつもは隠されている、
この指揮者の激しい感情の吐露が
一気にその割れ目から噴き出してきたようなかんじでして、
しかもそのことによっておきた今までにはなかったような激しい表情の変化が、
次から次へと表出されていくその様は、
音楽が生き物であるということを痛感させられるくらい鮮烈なものがありました。

しかも随所にこちらの予想しない表情があらわれては消えと明滅していくのですから、
これはもただごとではないというかんじがしたものの、
同時に途中からは正直に言えば自分の器の小ささに悔しさも感じたものでして、
こんな演奏もう一生聴けないという一期一会的な感覚と、
自分に対する激しい憤りが交錯するという、
今まで一度たりとも経験したことがない状況に自分は直面したものでした。
(このときの第2楽章冒頭の弦の完全に静態したままの響きなどは
いまだに忘れがたいものがあります。
また終楽章でのコーダで一瞬音が小さくなる部分で、
いきなり音がムラヴィンスキーの背中の一点から響くような
音の絞込みをした瞬間はなにが起きたか一瞬わからなくなるくらい驚嘆したものでした。)

(中略)

それにしてもNHKホールがこれほど雄大に鳴った演奏というのを
自分はあまり聴いた記憶がありません。
四ヶ月前にショルティ指揮のシカゴによる「幻想交響曲」や
アンコールでの「タンホイザー」序曲でさえこんなことはありませんでした。

たしかにシカゴの場合は音の方向にあるものに対しては圧倒的な力を誇示するものの、
その方向からずれるとややその力が弱まって感じられるふしがありました。

それがレニングラードの場合は、
弱音に強く聴き手の耳を意識させ
研ぎ澄まさせるということをさせた上でのということもあるのでしょうが、
音の進行方向の直線上だけでなく、
そのホールの背後というか側面からも響きをつくりあげている部分があるためか、
その音の進行方向の直線上にいない人にも
圧倒的な音を誇示することを可能としていたようです。

 (聴き手の耳を弱音に集中させ自らの懐にひきこむことにより、
これらの事象を強く聴き手の感覚ベースに浸透させその結果、
直線的な音とその背後や側面から響かせる音、この二つの種類の音をより実感させ、
その上でこれらの音が渾然一体となってホールに圧倒的に鳴り渡ることを
聴き手により痛感せしめた。
いわばムラヴィンスキーとこのオーケストラのみしかできない音楽が、
このときNHKホールにこれ以上考えられないほどに理想的に鳴り響いていたのです。
まさにこれは「奇跡」の時間そのものでした。)

(後略)」



以上です。

これらの事が昨日のように思い起こされる気がしたほどでした。
よくぞCD化してくれたと、本当に感謝です。

ただ人によっては音質的に若干漂白傾向があるように感じられるかもしれませんが、、
個人的にはとりたてて気になるようなものではありませんでした。

他のウィーンライブも再発されるようなので、
ぜひこのレベルであってほしいと願います。


そしてもうひとつ。

・ウェーバー:歌劇『オベロン』序曲
・シューベルト:交響曲第8番ロ短調『未完成』D.759
・チャイコフスキー:『くるみ割り人形』(抜粋)

の大阪ライブ。

80002.jpg

いきなり結論からいいます。これダメでしょう。

録音は多少弦が薄い感じがするものの、
ティンパニーも管もかなり明瞭かつ分離よくとらえられている。

だがそれが裏目にでている。

本来このオケはひじょうに独特のブレンド感を弦管それぞれもってるのに、
これだと管が残響の少なさも手伝ってちょっとぱさついてしまっている。

だが問題はそんな小さなことではない。

とにかくオケも指揮者も大不調だ。
前半のウェーバーとシューベルトはまだなんとかいいけど、
後半のチャイコフスキーはもう散漫にとっちらかってしまってる。

特に終盤の管の不調と金管の音程の不安定さは些か強烈で、
いままではここまでいくまえに踏みとどまることで、
それが絶妙な表情を生んでいたのだが、
今回はそれを踏み越えてしまっている。

指揮者の推進力の不足も意外だったが、
それ以上にオケの疲れのようなものが半端じゃない。

ここでこのときのツアーの日程をみてみよう。
(これも本当はCDに付録としてつけるべき!いつも言いますがこういうのはメーカーの怠慢です。商品に愛着が無いのでしょうか?ひじょうに残念です。)


◎1977年レニングラード・フィルハーモニー交響楽団日本公演
○同行指揮者:エフゲニー・ムラヴィンスキー、マリス・ヤンソンス

9月25日:神奈川県民ホール/ムラヴィンスキー
ワーグナー/マイスタージンガー、第1幕への前奏曲
ワーグナー/ローエングリーン、第1幕への前奏曲
ワーグナー/タンホイザー、序曲
ブラームス/交響曲第2番

9月26日:東京文化会館/ヤンソンス
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番(P/ラザール・ベルマン)
チャイコフスキー/交響曲第4番

9月27日:東京文化会館/ムラヴィンスキー
ワーグナー/マイスタージンガー、第1幕への前奏曲
ワーグナー/ローエングリーン、第1幕への前奏曲
ワーグナー/タンホイザー、序曲
ブラームス/交響曲第2番

9月29日:武雄文化会館/ヤンソンス
ロッシーニ/どろぼうかささぎ、序曲
ショスタコーヴィチ/交響曲第9番
チャイコフスキー/交響曲第4番

9月30日:福岡市民会館/ムラヴィンスキー
ウェーバー/オベロン、序曲
シューベルト/交響曲第7番「未完成」
チャイコフスキー/くるみ割り人形、抜粋

10月2日:鹿児島文化センター/ヤンソンス
ロッシーニ/どろぼうかささぎ、序曲
ショスタコーヴィチ/交響曲第9番
ドヴォルザーク/交響曲第9番

10月4日:広島郵便貯金ホール/ムラヴィンスキー
シベリウス/トゥオネラの白鳥
シベリウス/交響曲第7番
チャイコフスキー/交響曲第5番

10月6日:フェスティバルホール/ムラヴィンスキー
ワーグナー/マイスタージンガー、第1幕への前奏曲
ワーグナー/ローエングリーン、第1幕への前奏曲
ワーグナー/タンホイザー、序曲
ブラームス/交響曲第2番

10月8日:フェスティバルホール/ムラヴィンスキー
ウェーバー/オベロン、序曲
シューベルト/交響曲第7番「未完成」
チャイコフスキー/くるみ割り人形、抜粋

10月9日:福井文化会館/ヤンソンス
ロッシーニ/どろぼうかささぎ、序曲
ショスタコーヴィチ/交響曲第9番
ドヴォルザーク/交響曲第9番

10月10日:名古屋市民会館/ムラヴィンスキー
ウェーバー/オベロン、序曲
シューベルト/交響曲第7番「未完成」
チャイコフスキー/くるみ割り人形、抜粋

10月12日:東京文化会館/ムラヴィンスキー
ウェーバー/オベロン、序曲
シューベルト/交響曲第7番「未完成」
チャイコフスキー/くるみ割り人形、抜粋

10月13日:札幌厚生年金会館/ヤンソンス
シチェドリン/オーケストラの為の協奏曲「愉快なチャストゥスカ」
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲(VN/ヴィクトル・トレチャコフ)
ドヴォルザーク/交響曲第9番

10月14日:室蘭新日鉄体育館/ヤンソンス
ショスタコーヴィチ/交響曲第9番
モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第4番(VN/ヴィクトル・トレチャコフ)
チャイコフスキー/交響曲第4番

10月16日:新潟県民会館/ムラヴィンスキー
シベリウス/トゥオネラの白鳥
シベリウス/交響曲第7番
チャイコフスキー/交響曲第5番

10月17日:前橋市民会館/ヤンソンス
ショスタコーヴィチ/交響曲第9番
モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第4番(VN/ヴィクトル・トレチャコフ)
チャイコフスキー/交響曲第4番

10月18日:千葉文化会館/ヤンソンス
シチェドリン/オーケストラの為の協奏曲「愉快なチャストゥスカ」
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲(VN/ヴィクトル・トレチャコフ)
ドヴォルザーク/交響曲第9番

10月19日:NHKホール/ムラヴィンスキー
シベリウス/トゥオネラの白鳥
シベリウス/交響曲第7番
チャイコフスキー/交響曲第5番

10月20日:東京文化会館/ヤンソンス
ロッシーニ/どろぼうかささぎ、序曲
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲(VN/ヴィクトル・トレチャコフ)
ドヴォルザーク/交響曲第9番


これをみると大阪あたりでちょうど日程的に疲れそうなところに、
それまで北陸、九州、山陽と、大移動である。
まあ1975年に博多まで新幹線が開通しているので、
そのあたりは多少軽減されてるかもしれないが、
やはりきついことはきつい。

しかも悪いことにこの大阪のプロは一週間前に一度きりで、
これでは調子などなかなかでるとは思えない。

東京公演が名演になったのは、
この大阪と二日後の名古屋があったからだろう。

ムラヴィンスキーは回数をこなすと調子がでてくるタイプのようなので、
大阪ではそれが悪い方にでてしまったというところだろうか。

まあそれでも凡百の演奏に比べればたいした演奏なのですが、
ムラヴィンスキーという指揮者を期待してきくとちょっとあれかなという気がします。
ムラヴィンスキーもレニングラードフィルも人間なんだなと、
そういう一コマをみたようなそんなCDです。

もっともこれは個人的感想なので、
これと逆にチャイコフスキーより大阪の方がいいという人もいるかもしれません。

そのあたりは人それぞれということで。

今回はちょっとキツイ言い方をしましたが、
それだけムラヴィンスキーの演奏はハードルを下げられないということです。

以上です。
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阿伊沢萬

最近この二点を聴きかえしましたが、あまりこのとき書いたそれと変わらない印象でした。しかしこの指揮者ちゃんとしたライブ録音がほんと少ないです。スペインや北米公演時の録音などないのでしょうか。なんとも不思議ですし残念です。

mat-chanさま、nice! ありがとうございます。
by 阿伊沢萬 (2014-12-17 23:41) 

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