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キース・ジャレット「ソング・ブック ライヴ・アット・サントリー・ホール'87」雑感 [JAZZ]

1987年4月14日、東京のサントリー・ホール。
キース・ジャレットがソロコンサートを行った。

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ケルンコンサートでジャズのソロピアノコンサートを
世界中に認知させ高く評価させたキースは
その後ソロ活動をやめトリオに専念したりと
いろいろとその活動がとりざたされたが
この1987年の春
キースはソロコンサートを行った。

場所は前年秋に開館したばかりのコンサート専門のホール。
特にその豊かな残響時間が話題となり
自分が前年10月に行ったドイツのオケの演奏会では
その開演前のホールで手を叩いて
ホールの残響を確かめていた聴衆が何人もいたものだった。

そのホールでキースは日本において記念すべき100回目のコンサートを
このサントリー・ホールで開いた。

ただしこのソロは今までのキースと違い
長大なそれこそ一曲何十分もするようなものではなく
短くしかもスタンダードナンバーを演奏するというものだった。

この日演奏されたものは以下の通り。

1 The Night We Called It A Day
2 I Love You
3 Thing Ain't What They Used To Be
4 Sound
5 I Love You Porgy
6 There Is No Greater Love
7 Round About Midnight
8 Solar
9 Then I'll Be Tired Of You
10 Sweet And Lovely
11 The Wind
12 Do Nothing Till You Hear From Me
13 I Got It Bad And That Ain't Good
14 Summertime


そしてこれは映像と音が収録され、現在もDVDが発売されている。
収録時間は約100分。

自分はこのコンサートを主催の鯉沼さんからのDMで知り
すぐに予約に走ったものだった。

そして当日自分はPブロックという舞台裏の席を購入した。
このため当時の自分の姿も極めて不鮮明ながら今回この映像で確認できた。

キースのそれはじつに印象深いものがあった。
まるで一度自分の中をからっぽにしたかのようにして
その後上から降りてくるのか
それとも中から沸き上がってくるのか
とにかく音楽が自然に
じつに純粋に紡ぎ出されるようにして流れはじめる。
といった具合だった。

キースはあるときはまるで祈り
あるときは呻き

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そしてあるときは立ち上がり舞台を踏みならし
ときにはピアノの下にもぐりこまんとするかのような
ほとんど没我の状態でピアノを弾きまくりつづけた。

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正直その姿を初めて生でみた自分は呆気にとられたし
隣の方などは思わずクスクスと笑っていたりしていた。

またキースはこのDVDをみていただければおわかりと思われるが
ピアノの鍵盤からほとんど指をはなそうとしない。
それはまるでピアノと一体化しているかのようで
あたかもピアノの方がキースを使って
その音楽を紡ぎ出しているかのような感さえあるものだった。

そしてその演奏。
それらはどれもキースの胸一杯ともいえる
音楽に対する強い愛情と深い畏敬の念を感じさせる
極めて心揺さぶられるものとなった。

あるものはまるでオールドスタイルのようであり
あるものは混沌とした少し以前の現代音楽のようであり
あるものはこの日演奏された「Solar」のように
聴くものすべてを圧倒しつくすような激しい音の洪水であり
そしてあるものはこの世にこれ以上ないというくらい
清澄を極めそして優しさと祈りを極めたような
それこそ乾ききった心の中に
爽やかな風と清らかな水が流れ込んできたかのような
そんな感じの音楽を紡ぎ出していった。

デューク・エリントンの曲が何曲か聴かれたが
特にアンコールで弾かれた
「I Got It Bad And That Ain't Good」

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このひたすら昇華されていくような清澄な音楽。
この素晴らしさを何に例えればいいのだろう。
ほんとうに心から祈りたくなるような
じつに涙なくしては聴けないような音楽だ。

それにしてもキースのこういうソロを聴くと
いつも自分の偏屈な心の中が
すこし広く、そして少し人に優しくなれるような
そんな気持ちにさせられてしまう。
ほんとうに一生の宝にしていたいくらいだ。

ところでこのDVDではわからないが
じつはこのアンコール時
多くの観客が通路の後ろで立ったまま聴いていた。

それはこのDVDではうまく編集されているが
アンコールを弾くまでけっこう時間があったのだ。
キースは何度か舞台を行き来したが
アンコールを弾く気配というのがじつはあまり感じられなかった。

だかその時は突然来た。
そしてあの「I Got It Bad And That Ain't Good」が紡がれた。
演奏終了後水をうったように静まりかえる全聴衆。

その中には帰り支度に身を包み
まさにホールを後にしようとしていたまさにそのとき
アンコールがはじまりそのまま立って聴いていることになった人達が
かなりいたのだった。

それらすべての
そしてあのホールにいた誰もがあの瞬間時が止まったように感じたに違いない。

その後流れるように
一転して動的な律動感にみちた「Summertime」がはじまった。

DVDでは演奏終了と同時にすべて終了となっているが
実際はその後嵐のような歓声と喝采そしてスタンディングオベーションと相成った。

このライヴは自分にとって現在まで唯一無二のキースのライヴとなっている。
その後この公演が素晴らしすぎて
ちょっと次行くことに躊躇してしまったことと
なかなか予定があわずに年月が経ちまくってしまっためなのですが
今年の秋に三年ぶりにトリオで来日するということなので
予定があいチケットがまだあったらぜひ行きたいところです。
(しかしキースも年とったなあ…)

それにしてもこのライヴはほんとうにいい。
特に「I Got It Bad」は何度も何度も繰り返し今でも聴いている。

ほんとうにこれは素晴らしいコンサートの記録であります。
(ビデオアーツより発売)


余談

激しい「Solar」の後
キースはハンカチを使って笑いをさそうような仕草をみせ
会場をホッと一息つかせた後
「Then I'll Be Tired Of You」の心安まる演奏へと
流れるようにすべり込んでいった。
この当たりのキースの配慮がまたなんとなく嬉しい。

以上です。
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