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祈りの交響曲 [クラシック百銘盤]

クラシック音楽においてイギリス音楽は
「惑星」や「威風堂々」のような一部例外を除くと
それほど日本ではポピュラーではない。

たしかにかつよりは演奏会でも演奏され
CDでもみかけるようにはなったけど
ドイツ、オーストリア、ロシア、チェコ、フランス、イタリア
といったところに比べるとそれはかなり顕著といえるだろう。

だけどイギリス音楽にもじつに素晴らしいものが多く、
特に癒しと哀愁を兼ね備えた音楽が多いのも特徴といえる。

ヴォーン=ウィリアムス(RVW)もそういう曲を多々書いたひとりで
「グリンスリーヴスによる幻想曲」「あげひばり」「ノーフォーク狂詩曲」
「トーマス・タリスの主題による幻想曲」「沼沢地方にて」
そしていつ聴いても強く心を揺さぶられる「野の花」など
じつに素晴らしい曲を書いている。

そんなRVWが第二次大戦下に完成させた交響曲第5番ニ長調は
「永遠のテーマ」ビジョンとして掲げられ
かのシベリウスに献呈された名曲です。

全体はじつにシンプルな編成で演奏され
特に後半二つの楽章はじつに感動的ともいえる音楽となっています。
そのうちの第三楽章(ロマンツァ Lento)は
多少大きな盛り上がりが途中あるものの
全体が弦を中心としたまるで聖歌のような祈りにみちた音楽となっています。
その楽章の自筆スコアにはバニヤンから一節が前置きされているといいます。
それは

「この場所に十字架が立っており、少し下に聖墓があった。それから彼は
『あの人はその悲しみによって私に安らぎを与え、その死によって私に生命を与え給うた』
と言った。」

因みにRVWはこの時期バニヤンの「天路暦程」を元にした歌劇を作曲しており、
それがこの楽章にも汲みいれられています。

この全編祈りにみちた音楽の後の第四楽章(パッサカリア Moderato)は
かなり激しい動きをみせた楽章となっていますが
終盤音楽は極めて晴朗にそして第三楽章とはまた違った
祈りの音楽となっています。

それはまるで作曲者が天に向かって
この大戦によって天に召されたすべての人々への
深い哀悼の念を渾身の力をもって音楽に託したかのようなものがあります。

この曲は大戦最中の1943年6月24日に
ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで初演されましたが、
演奏後会場全体は深い感動に包まれたといわれています。

昨年末再び中東での戦火が拡大、
アフガニスタンやイラクでの戦火も収まらぬ今
自分はこの曲を聴く回数が急速に増えています。

別に自分がこの曲を聴いたところで
何がどうしたということもないのですが、
なぜかとにかくこの曲を聴かなければ
という不思議な気持ちに駆り立てられることが増えています。

もし世界中の人々がこの曲を聴き
そしてその初演当時のロンドンの人々の気持ちを思ったとき
ひょっとすると今より世界は少しだけ平和になるのではないかと
そういう甘っちょろい考えではありますがが
聴くたびにおきるそういう気持ちになり
そして最後なぜか聴くたびに頭が下がり
祈りの気持ちになってしまうこの交響曲。

この曲は以前たしか違う形で紹介してはいますが
そのページはを以前削除してしまったこともあり、
こういう時代だからこそより多くの方に聴いていただきたい曲ということで
今回ここに改めて紹介させていただきました。

二十世紀最高の交響曲のひとつ。
RVWの交響曲第5番ニ長調。
聴く機会がありましたらぜひお聴きになってみてください。

個人的によく聴く演奏は
サー・ジョン・バルビローリ指揮フィルハーモニア管弦楽団(1962年録音)

RVW.jpg
(EMI 5651102)

JB.jpg
(EMI 2161512)

現在は上記二種類が発売されているようです。
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コメント 2

サンフランシスコ人

イギリス音楽はアメリカでもポピュラーではないですが....
by サンフランシスコ人 (2015-12-09 09:06) 

阿伊沢萬

らしいですね。私も最近知りました。イギリス音楽の場合、あの独特のイギリスの風景の良さがわからないとその魅力が分からないといわれているのでそうなってしまうのかも。
by 阿伊沢萬 (2015-12-09 20:15) 

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