SSブログ

「日本のアニメ全史」を読んで。 [アニメ]

アニメ全史_.jpg

最近テン・ブックスから出ている
「日本のアニメ全史」(山口康男 編著)
を読んだ。

アニメの流れというか歴史を知りたいと思っていたので
この本の存在を知ったときはかなり喜んだものでした。
価格が2940円(税込)というものなので
そんなに気安く買えるものではないですし、
けっこうデカめの本なのであれなのですが、
年表あり年度ごとの作品一覧あり
しかも字もそこそこ大きくて読みやすいし、
絵や図もいろいろと掲載されている。

ただそれ以上にありがたいのは
とにかく全体の大きな流れというのがじつにわかりやすく
自分のように点で覚えていることが多いものにとっては
それを線で繋ぎ一本の流れとして捕らえることができたことだった。

たしかに細かい部分はそれほど記載されていないけど、
日本のアニメ概説書としては
これ以上ないくらいよく出来ていた本でした。

ただしこの本は2004年に出版されたものなのに
先日買ったこの本はまだ初版というのがちょっと寂しい。
まあそれほどこういう本は需要が無いということなのだろうか。
そういえばこの本を探すのにも苦労した。
横浜の大きな本屋さんを何軒かみたけどみつからず、
アニメイトも横浜以外に何件かみたけどやはり無い、
けっきょく東京の八重洲ブックセンターでみつけたのですが、
アニメ専門店にも無いアニメ本というのも
なかなかこの本のおかれた立場のむつかしさというものを
ちょっと感じたものでした。

で、全体を読んだ感想はすでに上記しましたが、
それ以外の感想としてあと二点ほど。

この本が出た以降のこと、
つまり2004年以降におきた大きな出来事、
つまり「涼宮ハルヒ」とか「京都アニメーション」のこととか、
さらにはTVアニメのダウンロードによるDVDの売上への影響
そしてネット配信の巨大化については当然ながら触れられていない。
それだけに後者のダウンロードやネット配信のそれが
いかに大きくしかも急激であったかがうかがえたものでしたし、
この本に掲載されていた2003年以前のDVDやCDの売上をみると
さらにそれらを痛感したものでした。

そしてもうひとつはリミテッドアニメのこと。

日本アニメの特性としてのリミテッドアニメについて
この本の編者であり著者である山口さんは
そこに日本の歌舞伎があると書かれていた。

なるほどと思った。
動きの止めやアップなどのそれらを考えると
歌舞伎からの影響とたしかにそれらはいえると思う。

ただそれだけではなく
自分はそれらにさらに「能」の影響というのもあると思う。

「能」というのはご覧になった方はおわかりと思うが
極めて簡略化された動きの中に侘び寂びを織り込み
そして独自の流れと様式美をみせる伝統芸だと自分は思っていますが、
この簡略化といいますか最小限の動きで
最大の効果を狙おうというところに
自分は「能」とリミテッドアニメの共通点をみる思いがしたものでした。

かつて狂言の茂山千三郎さんが舞台における解説で
「能というのはじつに便利、どんな遠いところに行くのでも、
場合によっては軽く一歩歩けばそれでついたことになる。」
ということをおもしろおかしく解説されていたことを思い出しました。

アニメの声優さんに舞台俳優さんが多いというのは
こういうところにも理由があるのでしょう。

たしかにリミテッドアニメは動きがギクシャクして流れ悪いと
かつては悪くいわれていたものですが、
本書では日本のそれはそれを逆手にとりいろいろと効果の手段を開発し、
そして動きではなく内容やストーリーでみせようというその努力が、
脚本と演出の独自深化を生み出したという意味のことをあげていた。

まったくだと思った。
もちろんそこにはさらには声優さんのレベルアップをうながしたこともあるだろう。

このことはマイルス・デービスが自らの技巧的な限界から
技巧に頼らない音楽の深化への道をすすみ偉大な存在となったこととも
これはどこか重なるものがある。

そしてこのことが深化した宮崎アニメから
リミテッドアニメで育った声優さん達をはじき出すことにもなった
という気がした。

自分は現在趣味として
クラシックにおける日本に来日したオーケストラの記録を調べている。
そして日本に来た指揮者のことも多少調べている。
そのことが日本のオーケストラ史を無意識のうちに
流れとして知るようになったが、
そのことがまた今の日本のオーケストラだけでなく
今の音楽界の姿や特長だけでなく
問題点の一部も知ることとなった。

今回この「日本のアニメ全史」は
そういう意味でそれと同じことを自分に教唆してくれたし、
またその入り口に自分を立たせてくれた。

アニメに詳しい方にはあたりまえのことばかりかもしれないけど、
自分にとってこれはじつにためになるしありがたい本だった。

高価な本なので簡単に購入をお薦めはできないけど、
興味のある方はぜひ図書館で閲覧されることをお薦めします。
全体で本文は百五十頁強だけど、
文量はそんなに多くないので
最近本を読まない自分でも
二日ほどですべて読んでしまいました。

しかしそれにしても懐かしい記述が多い。
劇場前の徹夜の行列などじつに懐かしいものがあります。
案外コミケの徹夜も本が欲しいだけじゃなくて、
あそこに並んで時間をわかちあいたいという、
あの劇場前の徹夜と同じ気持ちがそこにはあるのかもしれない…、
などと思ったりもしたものでした。
(とはいえ徹夜を容認しているわけではありません)

以上で〆です。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アニメ

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0