SSブログ

マリアン・アンダースン [音楽]

マリアン・アンダースン      

最近あまり聞かなくなってしまった名前ですが
かつて二十世紀最大の指揮者のひとりといわれた
かのトスカニーニが「百年に一度しか聞けない」とまでいわしめた
不世出の大歌手のひとりです。

1897年にフィラデルフィアで生まれ。
アメリカの黒人アルト歌手。
故郷の高等学校を卒業後、ニューヨークで声楽を学ぶ。
ニューヨーク・フィルハーモニックのコンテストに入賞。
1929年には黒人歌手に対する当時の差別をはねのけカーネギーホールでデビュー。
1930年渡欧して各地でコンサートを開き、センセーションをまき起こした。
その深々とした豊麗な美声がトスカニーニによって
<百年にいちどの声>と絶賛されて有名になり、
彼女の黒人霊歌やドイツ・リートの歌唱は高い評価を得た。
1939年ワシントン憲法記念館への出演をその所有者である白人保守派の婦人団体に拒否され
復活祭の日にリンカーン記念館の階段から75000人もの聴衆を前に歌い
人種平等を求める闘いの世界的なシンボルとなる。
1953年5月に来日。NHK交響楽団とも共演をする。
1955年1月にニューヨーク・メトロポリタン歌劇場に最初の黒人独唱者としてデビュー。
その後も世界中で活躍し1964年の引退ツアーをあのワシントン憲法記念館ではじめた後
翌年のカーネギーホールでの最終公演にて引退。
その後コネチカット州で長年暮らし
最晩年にオレゴンで甥の現東京都交響楽団の常任指揮者ジェームズ・デプリーストと暮らした後
1993年4月8日に死去。

以上、
音楽之友者:新音楽辞典(人名編)と
マリアン・アンダーソン「黒人霊歌集」のCDライナーノートを参照。

このアンダースンの素晴らしさを最初に教えていただいたのは
じつはオーティス・レディングなどを尊敬していたブルース好きの方でした。
その方は「あれは神の声」と言われたのですが
その後アンダースンの録音を聴いてまったくその言葉に納得しきってしまいました。

今自分の手元にある二枚のCD
ひとつは晩年の1961年と最後の録音となった1964年の録音をひとつにしたもの。
そしてもうひとつが1936年から来日直前の1952年にかけて録音されたものを集めたもの。
(上記写真のもの)

そのどちらも素晴らしいし
ある意味涙無くしては聴けないものがある。
録音的には前者の方がステレオ録音でより良好ではあるが
後者のナチス台頭から朝鮮戦争、東西冷戦の期間に録音されたもので
またかけがえのない素晴らしさがある。

アンターソンのそれはどことなく翳りのある
だがしかしなぜか一点の曇りもない晴朗感がそこにはあり、
ここに収録されている黒人霊歌を聴いていると
心に深く染み入ってくるような感覚を覚えるものがあります。

この「深い」という印象
これは同じく黒人歌手であったポール・ロブスンのそれにもどこか通じるものがありますし
ゴスペルのマヘリア・ジャクソン
さらにはその絶頂期で天逝したキャスリ・フェリアなどにも
どこか共鳴するものがあります。

1952年に録音された
「主を十字架に」と「時に母のない子のように」「お聞き、羊が鳴いている」は
その深さが極まった感さえありますし
「主がわたしの名を変えるなら」「だれも知らないわたしの悩みは」「足どりも重く」は
いつのまにか聴いていて深く頭を垂れてしまうものがあります。

それにしてもアンダースンの声の多彩さには驚いてしまいます。
アルトのような低く深い響きや呟くように語るような歌から
まるでソプラノのような可憐にして明るく跳ね上がるような歌に至るまで
自在にコントロールしながら歌い上げながら紡がれつづけていくその素晴らしさには
正直例えようがありません。
あるときは聴くものすべてを敬虔な祈りの世界へ誘い
あるときは生きているということへのありがたさを噛みしめさせてくれる
このアンダースンの黒人霊歌集。

音楽と歌の素晴らしさと尊さを表した人類の偉大な遺産のひとつ言っていいのかもしれません。

あとひとつ。
アンダースンの伴奏を担当しているビアノのフランツ・ルップ(1901-1992)。
かつてクライスラーの伴奏もつとめたこともあるこの名ピアニストのここでの素晴らしさ
これについても付け加えておく必要があるでしょう。
絶妙なリズムやタッチからくる
あるときはまるで天からの福音のように
そしてまたあるときはまるで合唱のように響くそのピアノの素晴らしさは
もうひとつのアンタースンの心の歌を具現化しているかのようで
この人がいたからこそここまで素晴らしい歌をアンダースンが歌えたのだと
そう強くおもえたものでした。
これもこの黒人霊歌集の大きな聴きものとなっています。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0