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アンドレ・プレヴィン指揮NHK交響楽団(9/8) [演奏会いろいろ]

(会場)NHKホール
(座席)3階L6列18番
(曲目)
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番(P/アンドレ・プレヴィン)
モーツァルト:交響曲第36番「リンツ」


 アンドレ・プレヴィンは一時眼の状態が悪いということを言われ、このまま一度も聴けないのではないかという気がしていただけに今回の公演はうれしさもひとしおだった。登場するとき足元がやや弱々しく、椅子に座って指揮をしていたものの、その指揮ぶりはまったく衰えなど微塵もない、たいへん感銘深く奥行きのあるものとなっていました。

 まず最初のフィガロはじつにふくよかかつニュアンス豊かな響きではじまったものの、しばらくするとオケが多少粗い響きをだしはじめ、最近よく耳にするN響への不満の一端がこれかという気がしばしめたとき、プレヴィンが木管を中心とした部分に両手で軽く輪をつくるような仕草をして、音の響きをまとめる、もしくはブレンドさせることを伝達したあたりから、オケの粗さへの指向がとまり、おちつきのあるたたずまいをみせた演奏となったことに、じつに感心したものでした。

 プレヴィンはオケをブレンドさせることに関しては、当代随一といわれるほどの手腕をもっており、これがモーツァルトにおいて気品と格調、そして典雅な響きをかたどることに大きな力となっていたのですが、この日はそれだけではなく伸びやかさや熱気にも事欠かないことで、じつに理想的ともいえる「懐かしいスタイル」のモーツァルト演奏を展開していました。これは二曲目のプレヴィンの十八番ともいえる24番の協奏曲において大いに満喫できるものがありました。(因みにこの曲は、プレヴィンが1971年にロンドン交響楽団三度目の来日公演に同行するため初来日したとき、自らの指揮振りで演奏したピアノ協奏曲でもあります。)

 この協奏曲では、プレヴィンのその珠玉ともいえるような清澄かつ温かさに満ちたピアノソロが、オケとじつにうまくブレンドすることによりこの曲を協奏曲ではなくピアノソロ付きの交響曲のように響かせていたことが印象的でした。特に第二楽章の美しさは絶品で、それこそもう一度この楽章だけアンコールで演奏してほしいと願ったほどでした。

 後半の交響曲はさらにオケの熟成が深まったせいか、よりじっくりと、ただし決して深刻すぎずまた重すぎずというバランスの良さも兼ね備えたものとなっており、かつてヨッフムの指揮したモーツァルトの交響曲を想起させられるような瞬間すらあったほどでした。たしかに先鋭的でもなければドラマティックでもない、そういう意味では刺激の無いほうに属するようなモーツァルトであったかもしれませんが、この典雅さと清澄さ、そしてとにもかくにもその温かさは格別のものがあり、この指揮者が古いスタイルではあるものの、現代を代表するモーツァルト指揮者のひとりであることを如実にしめした演奏であるという気がしたものでした。

 それにしてもこの日のN響は表情豊かな音楽を肩肘張らず演奏しており、どこにも尖りの無いプレヴィンのモーツァルトをじつによく表現していました。ひょっとすると演奏している方の中には、これだけ力を抑えて弾いてはたしてこの大きなホールに、しかも前半など十型の弦編成だったことなどから、どう響いているのだろうかと怪訝に思われた方もいらっしゃったのではないかというほどの演奏で、あらためて音楽のまとまり、そしてブレンド感というものが想像以上に大きな力を発揮するということを再認識させられたものでした。

 それにしてもほんとうにプレヴィンの円熟ぶりが素晴らしい。来週のラヴェルプロも期待大です。
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