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コルトレーン・ライブ・イン・ジャパン [JAZZ]

1966年6月。

日本は未聞の熱気に包まれた。

社会現象にまでなったビートルズの来日。

6月29日に来日。翌日から三日間武道館で公演、そしてその翌日帰国。

この間を含めじつに多くのことがビートルズがらみであったが、
それはここに書ききれないくらいのものがあったようだ。

だが多くのジャズファンはこの一週間ほど後に来日する、
あるアーティストとそのグルーブに気持ちが向かっていた。

ジョン・コルトレーン・クインテット。

当時ジャズの最先端を走っていた巨人。当時39歳。

この一行を待ち構えていた。

コルトレーンは7月8日に来日。

そして7月10日のサンケイホールでの公演を皮切りに、
最終の23日の愛知文化講堂まで休みなしで連日公演を行った。
しかも一日二回公演もあったというから殺人的な凄まじさだ。

いくら東京大阪間にすでに新幹線が走っていたとはいえ、
あまりにもあまりにもだ。

ただこの公演地に広島や長崎が入っていたのは、
コルトレーンの希望からだろうか。
とても意味深なものをこれには感じてしまった。

そして24日には帰国と、まるで嵐のような弾丸ツアー。

7月のこの時期というと梅雨明けと真夏が交錯する時期という、
かなり過酷な気候ということもあり、
コルトレーンはこの来日公演以降体調を崩してしまったという。

そしてこれが最後の国外ツアーとなり、
翌年5月に行ったコンサートが生涯最後のものとなり、
離日から一年も経たない7月17日に急逝した。享年40歳。

来日時に十年後の自分はと聞かれたとき

「自分は聖者になりたい」

と発言したという。

ほんとうにそのとおりになってしまった。


そんなコルトレーンのこの過酷な最初で最後の来日公演。

その二日目11日のサンケイホールでの公演と、
東京での最終公演となった22日の厚生年金会館でのライブ盤が、
各々CD2枚分の4枚組で発売されている。

4e1baa41.jpg

初日は休憩時間無しで三曲90分程の公演だったようだが、
この二日目は曲数こそ同じだか演奏時間は二時間ほどのものなっている。

来日メンバーは、

ジョン・コルトレーン、ファラオ・サンダース(サックス)
アリス・コルトレーン(ピアノ)
ジミー・ギャリソン(ベース)
ラシッド・アリ(ドラムス)

というもの。

当時日本ではトレーン、タイナー、ギヤリソン、ジョーンズという、
この不滅のメンバーによる演奏がイメージとしてはあったようだが、
タイナーが来日前年末、ジョーンズが来日前の春に退団したため、
ギャリソンを除くとあまり馴染の無いメンバーによる公演となった。

だがこのメンバーによるそれは仰天のものとなった。

演奏はそれ以前のものよりはるかにフリー色の強いものになり、
演奏時間も極大なまでに膨れ上がっていた。

特にこの日演奏された「クレッセント」はギャリソンの長いソロを含めると、
じつに50分を超える巨大なものとなった。

しかもコルトレーンがひたすら吠える。

このときのコルトレーンの演奏する姿をみた人の話では、
よだれを流しながらひたすらなにかに取りつかれたかのように吹きまくる、
そのコルトレーンの姿に圧倒されまくったということで、
中には自分の人生観すら変わったという人までいたとか。

この命を削るような凄絶な演奏がこのあと十日間以上も、
しかも一日複数回の公演もあったというのだから、
もはやそれは尋常とはいえないものがある。

それに当時のコルトレーンはすでに肝機能にやや異常があったようで、
実際当時のコルトレーンが妙に太っていたことを、
後々思い出していた人がけっこう多かったとか。

そんな状況の中でよくもこんなことをと、
ほんとうにこのライブを聴くたびに絶句してしまうし、
音楽とは何なのかを真剣に考えさせられてしまうものがある。


だが22日のライブはさらに凄まじかった。


ここでは演奏時間はついに二時間をはるかに超えてしまい、
もはや前人未到の世界にコルトレーンが突入したことを感じさせる、
ほんとうに凄まじいものとなった。

特に二曲目に演奏された「マイ・フェイヴァリット・シングス」は、
冒頭のギャリソンのソロがなんと15分近くにまで及んでいる。

そしてそのあとじつに四十分、
まさに怒涛のコルトレーンワールドが展開されつくしていく。

この凄まじい曲の後、ほとんどなだれ込むように最後の曲
「レオ」がこれまた四十分以上演奏される。

つまり二曲95分をほとんどノンストップで演奏してしまったのだ。

リズムセクションのタフさもここでは特筆すべきだろう。


ところでこの熱狂の終わりでこのライブ盤は面白い光景を収録している。

それは演奏が終わりそうなかんじになりかけたときのこと。

ドラムが猛烈な叩き込みをみせながら、
リズムセクションの演奏がまだ終わっていないというその状況で、
突如マイクで日本人のMCがそこに割って入る。

以下、次のような感じとなっている。

因みにドラムスは下の吹き出しのような発言はしていません。
念のため。


------------------------


                _∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_
     デケデケ      |                         |
        ドコドコ   <  おどりゃあこなくそ!!         >
   ☆      ドムドム |_  _  _ _ _ _ _ _ _ _|
        ☆   ダダダダ! ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
  ドシャーン!  ヽ         オラオラッ!!    ♪
         =≡= ∧_∧     ☆
      ♪   / 〃(・∀・ #)    / シャンシャン
    ♪   〆  ┌\と\と.ヾ∈≡∋ゞ
         ||  γ ⌒ヽヽコ ノ  ||
         || ΣΣ  .|:::|∪〓  ||   ♪
        ./|\人 _.ノノ _||_. /|\
            ガッガッガッ
         ドチドチ!

「それでは花束を贈呈…」

                _∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_∧_
     デケデケ      |                         |
        ドコドコ   <  まだ終わってねえぞー!        >
   ☆      ドムドム |_  _  _ _ _ _ _ _ _ _|
        ☆   ダダダダ! ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
  ドシャーン!  ヽ         オラオラッ!!    ♪
         =≡= ∧_∧     ☆
      ♪   / 〃(・∀・ #)    / シャンシャン
    ♪   〆  ┌\と\と.ヾ∈≡∋ゞ
         ||  γ ⌒ヽヽコ ノ  ||
         || ΣΣ  .|:::|∪〓  ||   ♪
        ./|\人 _.ノノ _||_. /|\
            ガッガッガッ
         ドチドチ!

 …(全然やめる気配なし)

「花束の提供は産経スポーツ、産経新聞社、フジテレビ、日本ビクター株式会社、キングレコードでございます。」

(ドカバカドカドカ、バシッバシッ、チャーン、ドロドロドロドロ…演奏終わる)


「ついに二時間十分になんなんとする大熱演でございました。えー、つい皆さんもお疲れになったと思いますが…」

---------------------


というMCが観客の熱狂的な拍手と歓声の中から聞こえてくる。

おそらくこれは当時のホールの使用時間が、
かなり危険なリミットに近づいていたためなのだろう。

因みにこのMCは相倉久人さんとのこと。
(当初団しん也さんだと勘違いしていました。すみません。)

この場内もプレーヤーも完全な出来上がり状況での〆のMCは、
けっこうきつかったことだろう。


だがそれ以上にやばく感じたのがこの花束贈呈。

いったいどういう状況で花束を渡したのか滅茶苦茶気になってしかたがない。

おそらく提供が五つ読み上げられたので人数分あったのだろうが、
ドラムの狂ったようなバシバシとしばきあげてる状態での花束贈呈など、
試合終了直後ブルローブを振り回して暴れるスタン・ハンセンへのそれと同じで、
ちょっと無謀というか命知らず的なものを感じさせられてしまうものがある。

花束嬢など間違って頭をスティックで引っぱ叩かれてたんじゃないのかと、
ほんとなんとも気になってしかたがない。


まあそんなことはさておきということで、
とにかくこの稀に見る凄まじい演奏がこのとき行われ、
それは現在でも語り継がれる程のものとなっている。

そしてこれらが録音されCDで今も発売されている。

ただ残念なのはこれらが良好な音質とはいえ、
なぜかすべてモノラル録音ということだ。

当時はけっこうステレオ録音がこういうライブでは主流だったので、
これだけはなんとも残念だ。


だかこれほどの歴史的な演奏が
とにかく二公演分コンプリートに残されていたのはとてもありがいことだ。

コルトレーンのアルバムとして決して聴きやすくない、
というより最もハードでヘビーな内容のアルバムかもしれないが、
ひとりのアーティストの凄まじいまでの生き様が聴けるアルバムとして、
ぜひ後世まで語り伝えられほしい不朽のアルバムです。

以上で〆。

因みに来年(2016)はコルトレーン来日から五十年、
そして生誕90年にあたります。


尚、このCDの収録曲は以下の通り、


ディスク 1
Afro Blue
Peace on Earth

ディスク 2
Crescent

(以上、7/11)


ディスク 3
Peace on Earth
Leo

ディスク 4
My Favorite Things

(以上、7/22)
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阿伊沢萬

このアルバム、いつ聴いてもヘビーです。なかなか今まで紹介する度胸がありませんでしたが、ついにしてしまいました。コノエンソウヲイキナリ聴いた当時のみなさまの衝撃はいかばかりだったでしょう。もうすぐあれから半世紀です。早いものです。

nice!ありがとうございました。
by 阿伊沢萬 (2015-04-03 00:14) 

リョウタロウ

2年前の記事へのコメント恐縮ですが、「ジョン・コルトレーン 来日」の検索で一番に出てきましたので。相倉久人氏の『ジャズ史夜話』(2013)によれば、最後のMCは相倉氏のものだそうです。「アンコールはやらない」との宣告に対する苦肉の策だったとか。なんにせよクライマックスに躍り出る胆力は相当なものですね。
by リョウタロウ (2017-05-21 14:54) 

阿伊沢萬

気付くのが遅くなり申し訳ありません。相倉久人さんだったのですか。貴重なお話ありがとうございました。遅くなりましたがコルトレーンの50回目の命日に気づけただけ助かりました。

ありがとうございます。
by 阿伊沢萬 (2017-07-17 15:15) 

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