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のだめ徒然草その5 [のだめ徒然草]

今回は千秋が代役で本番の指揮者が指揮する前の練習指揮をする
いわゆる「下棒」OR「下振り」の話。

指揮者の代役。
本番を振るはずの指揮者がなんらかの事情(病気等)で指揮できなくなり
代わりの人が急遽指揮をするというのはけっこうある。
かのレナード・バーンスタインもそれで成功しているし
昨年亡くなられた岩城宏之氏も
急病で降りた指揮者の代わりにウィーンフィルを指揮するということもあった。

また日本でも急病のカラヤンの代わりに小澤征爾がベルリンフィルの日本公演を指揮したりと
とにかく毎年かならずどこかで何回かこういうことは起こっている。

ただ当日となるとそんなに数は多くない。
かつて前半指揮者が指揮棒で手の平を刺して指揮ができなくなり
後半オーケストラのコンサートマスターが代行したとか、
台風で指揮者がコンサートの開演時刻に間に合わず
変わりに団員が指揮者到着までの急場をしのぎ指揮をしたとか、
病気以外の突発的なことが理由としてはあるようだ。

この当日代行で最も有名なもののひとつが二十世紀最大の指揮者のひとり
アルトゥーロ・トスカニーニ(1967-1957)の例。
トスカニーニ19才の時にそれは起きた。
オーケストラでチェロを弾いていたトスカニーニが、ブラジルでの公演に参加していたときだった。
歌劇「アイーダ」を演奏していたとき
指揮者が拙劣だったためなのかはわからないが
観客が指揮者に対して激しいブーイングを飛ばし捲くり
ついに指揮者は指揮を断念、指揮台から降りてしまったのだ。
この緊急時にトスカニーニは他の団員からの勧めもあり急遽指揮台に立ち
この大荒れの演奏会を一転成功に導いてしまった。

実際どこまで成功したかはともかくとして
これがきっかけでトスカニーニは指揮者への道を歩み始め
そしてついに世界三大指揮者のひとりに数えられるまでの巨匠になっていった。
(トスカニーニ、ワルター、フルトヴェングラー)
なにが人生を変えるかわからないものである。

そんなトスカニーニだが練習は壮絶だったようだ。
残されている練習風景の録音を聞くと
トスカニーニの猛烈なオケに対する叱咤がとにかく凄まじい。
千秋のように細かいミス云々を指摘するというものではなく
オケが意志を持って歌わない瞬間を妥協せずに指摘し追い上げるというもので
とにかくその情熱の注入の仕方は尋常ならざるものがあった。


[トスカニーニの代表録音のひとつ、「ローマ三部作~イタリア管弦楽曲集」BVCC-38104]
(録音は古いモノラル録音ですが音質は当時としては良好です。因みにトスカニーニは晩年、自らの指揮者デビューとなった、ヴェルディの歌劇「アイーダ」の全曲を録音しています。これもかなり気合の入った出来となっています。)

考えてみると今はどうかはわからないが
千秋のような練習の仕方をしていた指揮者達がかつてはいた。
そしてそれらの指揮者が君臨したオーケストラは
そのオケの歴史上最盛期を迎えただけでなく
その時期世界最高のオーケストラのひとつに数えられるほどのオケと讃えられた。
アムステルダム、ボストン、フィラデルフィア、レニングラード、シカゴ、クリーヴランド…。
今それらは録音でも聴くことができるが
正直、とてつもない完成度をもったオーケストラ達だった。


[ジョージ・セル/ライヴ・イン・東京1970:SICC-350]
(※それらの中でオーケストラのひとつの理想形とまで称されたのがクリーヴランド管弦楽団。その最頂点の記録といわれているのが上記CD。技術も凄いが内容も極めて濃いものがあります。録音はちゃんとしたステレオ録音ですが、ライブによるノイズ等がありますので、当時の上質のスタジオ録音と同じ音質とまではいきません。)

だから千秋のやり方というのは決して駄目駄目というわけではないが
時と場合とオケの性格によってはそれが裏目にでることもある
といったところでしょうか。
じっさい自分のやり方でガンガンやって、あるオケでは成功したのに、
次に別のオケへ赴任したらまったく駄目だったという例は決して珍しいことではない。

因みにシュトレーゼマンのような練習の仕方(ナンパ抜き)をしている方ももちろんいるし
また千秋とシュトレーゼマンの中間のような方もいる。
だがどういうやり方をしてもすべてのオケにおいて巧くいくという指揮者はなかなかいない。
ベルリンフィルでは成功したのに
ウィーンフィルではイマイチだったという指揮者もいるし
もちろんその逆の場合もある。
このへんがオーケストラを聴く愉しみのひとつというと意地の悪い発言だろうか。

そんな指揮者の練習の数々
このあたりはみているとけっこう面白いが
自分の手の内をみせる練習というのはなかなか第三者には公開してくれない。

そんな中で自分が知ってる範囲内では以前紹介した
神奈川フィルハーモニーが頻繁に公開練習を行っているので
http://www.kanaphil.com/perform/rehearsal.html
興味がある方は一度ご覧になられてはいかがでしょうか。

指揮者の練習の仕方もそうですが
オーケストラが楽器である前にひとつの生き物であるということがとても実感できると思います。
今回の千秋の失敗の要因は、そこの部分の考えがちょっと抜けていたといったところでしょうか。


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