SSブログ

清澄な映画だった「思い出のマーニー」。 [スタジオ・ジブリ]

スタジオ・ジブリの新作、
米林宏昌監督の「思い出のマーニー」を観に行く。

今日は夜、横浜港で花火大会があり、
それを観た後映画館に行く。

宮崎・高畑両監督が関わっていない、
初めてのジブリ作品ということで注目を集めた作品ということで、
興味津々というかんじこそあれ、
正直そんなに注目してはいなかった。

予告などをみていると今までのジブリもろかぶりだし、
それ以上に宣伝のポスターがあまりにも魅力無さすぎというか、
これで人呼べるのか…というより呼ぶ気あるのかというくらい、
とてつもなくイージー感全開のそれに軽い失望さえ感じたほどだった。

自分が観た回は夜9時近い開始だったこともあるが、
そのせいかどうかは知らないが、
人の入りの少なさはちょっと驚きのものがあった。

とにかくすべてが不安だらけではじまった。

※ただ他所の別時間帯はけっこういい入りだったようで一安心。

因みに自分はこの原作をまったく知らない。
つまりOVA感覚でみているので、
原作のどこをどう省略したかとか強調したかとか、
そういうことはまったくわからい。

しかもパンフも読んでないので本当にまったくまっさらな状態で、
今回のこの作品を観たことを最初に明記しておきたい。

mani.jpg
http://marnie.jp/index.html

上映時間103分。


以下、ネタバレ込みで書きます。


最初みて驚いたのは絵の穏やかな美しさだ。

けっして美麗とか鮮やかとは違い、
じつに落ち着いた雰囲気のものにしあがっている。。

特に舞台が札幌から地方の沼沢地帯にうつると、
その穏やかさと空の広がりの秀逸感が素晴らしい。

これをみているとかつて、

「イギリスのそのどこまでも続くなだらかな丘陵地帯の良さがわからなければ、イギリス音楽の良さはわからない。」

という意味の言葉を聞いたことを思い出した。

夜と月の光と、
そしてそれが映える沼沢地帯の詩的な美しさも、
じつに穏やかな感銘を与えてくれた。

そしてそんな穏やかな風景の中で、
この話はゆったりと展開していく。

だが途中から、
これ「怪談か?」というかんじがしてきた。
それこそあの名作「牡丹燈篭」や、
怪談ではないが映画「シャイニング」みたいなそれのような。


まあたしかにこれは一種の怪談かもしれない。

だがそこには人間のもつはかなさと、
愛情と友情の深さからくる美しいドラマがある。

そしてそれらが幾重にも重なりながら、
次第にひとつひとつのほつれやからみを解きほぐしつつ、
ひとつの大きな奇跡の輪をつくりあげていく。

米林監督はそれらを、
じつにじっくりと、
そして静かな語り口で紡ぐように描いていく。

だからといって平板というわけではなく、
終盤の嵐の場面などなかなかの不気味さと怖さもあるが、
不必要な劇的効果というものここにはなく、
変にこのシーンが全体から浮くこともなかった。

※このシーン、ちょっとディズニーの「風車小屋のシンフォニー」を思い出してしまいました。


そういう意味でとてもバランス感覚と見通しの良いつくりとなっている。
というよりクリアな出来といっていいのかもしれない。

こういう点では米林監督の前作「アリエッティ」と通ずるものもあるし、
ここでもあのとき同様等速的なテンポで話はすすめられている。

だけど今回は「アリエッティ」でのそれが若干疑問符をうたせたのに対し、
このことが全体のトーンをひとつの大きな響きの中に表出させることになっていく。

しかもあのときよりも細かい緩急が細部でいろいろ施さているため、
単調な運びに陥るということもない。

原作が米林監督のそれにあっていることもこれはあるのかもしれません。

とにかく今回は米林監督のやり方がいい方向に出た作品といえると思います。


あと違う意味で気になったこととして、
最初の家の中での歩くときの床のきしむ音が、
杏奈とおばさんの体重差を考えるとちょっと?だったり、
豪華俳優陣による吹き替えは今回は可もなく不可もなくだったたものの、
これだけの顔ぶれで、あいかわらずモノトーンでしあげるとなると、
やっぱり最後は適役云々より話題性なんだろうなあと、
そんな気が今回はより強くしてしまいました。

まあもっともだからといって
彩香役を井澤詩織さんがやったらこれはどうなんだいということもあるので、
無理してカラフルにせいとはいいませんが…。

因みに、甲斐田裕子さんが今回クレジットされていました。
そろそろ俳優声優の意味の無い部分での垣根が外されるのかもしれません。

正直もうジブリはそんなに名前にいつまでもこだわる必要は無いと思う。
作品そのものにあまり自信が無いというのであれば分かりますが、
それでももう少し作品を信じてもいいような気がするのですが…。

いずれこの部分がジブリにとって足かせというか、
ひとつの限界をつくる要因になるような気がしてなりません。

やめろとはいいませんが、加減は必要といったところでしょうか。


それと杏奈とマーニーの顔だけジブリ風ではない、
なんか深夜アニメでよくみるような感じの顔つきだったりと、
なにか意図していたのかなあというのがちょっと気になました。


他にも細かいところで気になるところはあったものの、
(宮崎監督と似た演出やシーンが散見されたところとか)
「アリエッティ」よりは遥かに不満度の小さい…、
というよりそういうことなどどうでもいいのかもしれないというくらい、
とにかくじつに詩的でおちついた作品でした。

それは氷のように冷たくなった心もあたためてくれるような一杯の紅茶のような、
そんな心あたたまる怪談であり
そして水彩画のような美しい作品でもありました。


そしてまったく宣伝用のポスターとは大違いのイメージの作品でした。

こういう一編がつくれる米林監督の今後により期待したいです。


ラストは予想がつくとはいえ、
なんかかつてTVで放送された、
アレックス・ヘイリーの「ルーツ」の最終回をみたときと似たような感銘を受けましたが、
これって自分が何者なのかという意味も含めた、
いわゆる自分探しの旅でもあったのかもしれません。


〆です。



余談ですが、
終演後何故か自分の頭の中に、
ヴォーン・ウィリアムズによって編曲された
イギリス民謡「緑の茂み(The Green Bushes)」が鳴っていました。

本編中鳴っていた曲は、「アルハンブラ宮殿の思い出」だったのですが…。

原作買って読もうかなあ…。

mani1.jpg
mani2.jpg

※上がマーニーの原作におけるイギリスのノーフォーク、下は釧路湿原。ともにGoogleのストリートビューより。


(追加余談)

喘息ってくるしいんだよなあ…と思ったけど、
この映画ではあまりそういう雰囲気が伝わらなかった。
後半杏奈の雨の中で倒れていたシーンをはじめ、
けっこう夜中に外で倒れていたり眠っていたりするシーンをみていると、
ぜったい喘息もちにはやばいよなあと思ってしまった。

自分が「牡丹灯篭」と思ってしまったのは、
そこから命を吸い取られているように感じられれたためです。

案外監督はそういうミスリードを防ぐために、
あまりこの部分を深く描かなかったのかもしれません。


なんだかんだ言ってて宣伝等に、

「原作は宮崎駿監督も愛読している」云々みたいなこを記しているけど、

けっきょくどこかで宮崎監督と関係づけたいんだよなあ…と、
やはりジブリはNBC交響楽団なのだろうか。

フィルハーモニア管弦楽団みたいに将来なればよいのですが…。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アニメ

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0