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アート・ペッパーのゴーイン・ホーム [JAZZ]

※かつて書いたものに若干加筆したものです。

アート・ペッパーが1982年6月15日にロサンゼルスのカイザー病院でこの世を去ったとき
彼の音楽を愛する多くの人々はその報せに愕然とし
そしていかに多くの涙を流したかを
当時を知る人から聞いたことがあります。

自分がジャズを本格的に聴きはじめたのはちょうどこの年の
7月の初めころだったような気がする。
つまりペッパーのこのときのことをよくは知らないし
もちろんその演奏を聴いたこともなかった。
そしてどうしてそうなったのかはわからないが
自分がはじめてペッパーのアルバムを聴いたのは
かの「ミーツ・リズムセクション」でもなければ
あの「ヴィレッジバンガード」でもない
ペッパーのラストレコーディングとなった
この「ゴーイン・ホーム」だった。

ペッパーの亡くなる一ヶ月前のこの録音は
ペッパー唯一のピアノとのデュオアルバムなのですが
本来のアルト・サックスだけではなく、クラリネットも吹いています。
で、今あらためてこれを聴くと
これほどアルトのような味わいをもったクラリネットというのも他に類がなく
それがまた独特の雰囲気を醸し出しているように感じますし
またなんともいえない哀愁の色合いを感じてしまいます。

そんな中でいつ聴いても強く感銘を受けるのが
ペッパーの葬儀のときにも流れ
多くの参列者の涙を誘った
このアルバムタイトルともなった一曲目の「ゴーイン・ホーム」。

このドヴォルザークの新世界交響曲の第二楽章のテーマでもあり
後に「家路」として黒人霊歌としても知られるようになったこの名曲を
ペッパーは親友ジョージ・ケイブルスのビアのとともに、クラリネットでじっくりと詩いあげていきます。
このペッパーの深い情感を宿した、
そして終盤のまるで沈みゆく夕暮れに嗚咽をするような泣きの表情と
それをじつに清澄かつ瑞々しく愛情を込めてサポートしていくケイブルスのビアノに
自分はいつ聴いても目頭に熱いものを感じてしまいます。

このアルバム
じつはいろいろな人の作品が収録されています。
ドヴォルザークからはじまり、エリントン、カーマイケル、リチャード・ロジャース
チャーリー・パーカー、そしてスティービー・ワンダーやレイ・チャールズのヒット曲と
それはまるでペッパーがアメリカという国から別れを告げる前に
思いの丈と現在の心象風景を重ねあわせたようで
哀愁感だけではない、なんともいえない不思議な透明感をも持ったアルバムとなっています。

アルバムタイトル「ゴーイン・ホーム」が神の国へと戻るという意味なのか
それともアメリカという国の大地に帰っていくという意味なのか
それは自分にもわかりません。

ですがここで聴かれる深い息づかいをもったペッパー自身の心情の吐露は
いずれにせよペッパーがより幸せな世界へと旅立っていったと
そう考え、そう思いをのせたくなるような演奏です。

なぜペッパーが多くの人々に愛され
そしてその死に多くの人が涙したかを
この音楽と人との、哀しくも優しいコラボレーションがその一端を垣間見せてくれる
そんな感じがするアルバム
それがこの「ゴーイン・ホーム」です。

http://www.youtube.com/watch?v=ldap3NXWdpc

(9月1日のアート・ペッパーの誕生日によせて。)

ZZ013.jpg

(2012 6/15 追加)

ペッパーが亡くなられてから20年がたちました。
この間にペッパーのラストライブのCDや
日本での公演CDがたくさん発売もしくは再発されました。
最後の数年間ペッパーは毎年のように来日してくれました。

ある方がペッパーが初来日のとき
万雷の拍手を受けて登場したときなかなか頭をあげなかったのをみて
「泣いてるのかなあ」
と友人に話しかけたといいます。
このときのことは
http://blogs.yahoo.co.jp/schizoidman1959/7831941.html
のサイトをはじめいろいろなところに書いてある。
読んでいて不覚にもまた涙してしまった。
年とったなあ。


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