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山形交響楽団のブルックナーの6番 [クラシック百銘盤]

2011年3月11日。

日本にとって忘れられない一日だった。

自分は当時横浜の西区高島の帷子川にかかる万里橋の側でこの揺れに遭遇した。

時間は午後二時四十六分を少し過ぎたころだろう。

このとき自分「ついに東南海が来た」と思ったが、その後震源が東北と聞いて仰天した。

確かに宮城県沖で震度7クラスの地震が起きると警告されてはいたが、この揺れはそれとは規模があまりにも桁違いだった。

それからはまさに未曾有の体験の連続だった。そして福島原発の予想もしなかった崩壊。

今のコロナとはまた違った、というより終末感はもっとあったような、そんな日が続いていった。

それから一年ほど経った翌2012年2月22日に、山形交響楽団が当時音楽監督だった現芸術総監督の飯森範親氏の指揮で録音したブルックナーの交響曲第6番が発売された。

録音は2011年4月25日と翌26日。

十日ほど前に行われた第212回定期公演で演奏された後にセッション録音されたもの。


311当時、山形は最大震度5強の揺れにみまわれた。自分が横浜で経験したそれと同じかなり強い揺れだ。

海に面していなかったこと、廻りを高い山に囲まれていたこと、地盤が固かったことなどがあり、他の太平洋に面した東北の県に比べれば人的被害も、そして放射能の直接的な影響も小さかったが、それでも翌12日の山形交響楽団の定期公演は「建物への影響の点検に時間がかかるなどの理由から中止になった」(山形新聞)。

また多くの質的被害、停電やガソリン不足、そして新幹線の運行休止など起こったが、宮城県等がより壊滅的被害を受けた地区があったこともあり、早くも11日の夕方から宮城県への医療救護活動を行っている。

その後4月初旬に再度大きな地震があり一時復旧にブレーキがかかったものの、山形新幹線、そして山形空港という陸と空の交通機関は同月中旬にはしっかりと動いていた。特に山形空港は早い時期から機能していたことが幸いしたとのこと。

この中で山形交響楽団の定期公演が行われた。当時評論家の東条碩夫氏は大阪伊丹から空路山形へ飛びこの演奏会を聴きにきておりこのときの定期演奏会の事を書かれている。

そしてその十日程後にこのブルックナーが録音された。

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さてこの演奏。

山形交響楽団はもともと弦の人数が三十人程しかいないため、他のブルックナーの録音のような分厚く迫力のある弦の響きはここでは感じられない。

ただ19世紀中ごろのブルックナーが交響曲を書いていたころの欧州のオケの多くは二管+弦が多くて四十人程だったというので、そういう意味では当時の規模に近いそれなのかもしれない。

全体的にはちょっとワルター指揮のコロンビア響のそれにも似たようにも感じられるが、こちらの方が神経の細やかな響きを弦が奏ででおり、弦が痩せてか細く苦し気に演奏しているようなそれも感じられない。

あえていうと、ちょっと水彩画的な弦の響きに、それよりも油絵のような色合いが濃く感じられる管楽器が、違和感なくひとつの響きの中でブレンドされているといっていいのかもしれない。これは録音の力やホールの特性もあると思う。

演奏会当日は東条氏のそれによると、かなりトランペットが強靭に吹いていたというけど、ここではそれはあまり感じられないが、それでも終楽章のコーダではなんとなくそれを彷彿とさせるものがあった。

それにしても人間的なものと自然の美しさのようなものが見事に調和された、じつに自然体のブルックナーだ。

ふつうここまで自然体にすぎると小味になってしまいかねないけど、オケの響きが端正ながら伸びやかにに歌っている事でそういう感じをうけないのだろう。

それはじつに瑞々しく清々しいとさえ感じられるほどだった。これにはもちろん指揮をされている飯森さんの力がかなりあることも強調しておきたい。

演奏時間は、

16:29、17:15、9:19、15:12


最後に、

自分はこれを聴いていて、ここにはすでに311の傷のようなものなく、むしろ復興に向かって力強く歩み出した東北の姿をみる思いの方が強く感じられた。

実際、まだ仙台フィルなどは定期公演を開ける状況ではなく、先の山形交響楽団による定期では苦境にある仙台フィルに対して募金が会場で行われていたという。

だけど繰り返すように、決して声高に叫ぶような演奏ではないにもかかわらず、ここにはそのような苦しみの中からも、間違いなく立ち上がろうとしている人たちの姿が自分には強く感じられた。それは6番という剛毅な力を内包した曲だったから余計そう感じられたからなのかもしれない。

とにかく今もまた苦しい時代だけど、この演奏を聴いていると、それでもまたいつかしっかりと立ち上がり前へ進むことができるということを確信させられる、そう強く感じさせられるこれはブルックナーという気が強くしました。

コロナが収まったら、今度はいつか山形交響楽団の演奏でブルックナーの2番を聴いてみたいです。


以上で〆。
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