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TBS Vintage Classicsのガウクの演奏について。 [クラシック百銘盤]

TBS Vintage Classics

この春(2013)、TBSの地下倉庫から名演奏家たちのライヴ音源が大量に発見されました。当時「民放の雄」といわれたラジオ東京が贅をつくした録音機材と「最高の音楽は、ラジオ東京から」と使命感に燃えていた音楽部員の情熱の賜物です。

ラジオ東京は、現在のテレビやラジオのTBS全体の母胎です。1951年に首都で最初の民間放送局として誕生。1953年から59年まで存続した「ラジオ東京音楽部」が音楽活動の主体でした。当時既に音楽業界で名を知られていた武川寛海音楽部長が総指揮をとり、既に青年評論家でもあったラジオ東京音楽部員、門馬直美プロデューサーが現場活動を指揮していました。

今回発見された218点の音源の中から、選りすぐってSACDハイブリッド盤でお届けしていきます。

http://www.universal-music.co.jp/classics/tbs-vintage-classics/

というシリーズが昨秋(2013)から発売になった。

この報せを聴きすぐにその中からガウクのCDを購入した。

z6.jpg
http://www.universal-music.co.jp/p/TYGE-60003?s=108903

かつてビクターが発売した「悲愴」のCD化がみえてこないこの状況で、
この録音盤の発売はあまりにも素晴らしいものがあった。

そして演奏は予想通りのものだった。

1956年ウィーンにレニングラードフィルが登場したとき
「弦楽器は大勢のハイフェッツやピアティゴルスキーがいる」
というようなことをいわれ賞賛されていましたが、
その文句がそのままこの来日時にもよくあちこちで使用され、
かなりその前評判が高い公演でもありました。

残念ながら来日直前にムラヴィンスキーが来日中止となり、
かなり落胆された方が多かったものの、
その代行が彼の師であり当時ソ連音楽界の重鎮だった、
アレクサンドル・ガウクになったことで、
その期待は別の意味で大きくなったものでした。

そしてその公演はたいへん高い評価を受けました。
当時のこの演奏をそれから17年後に、
音楽評論家の野村光一氏は以下のように述懐されています。

「ガウクはオーケストラを把握する腕前より音楽そのものに心酔している指揮振りをみせているように思えた。そうかといって、彼のオーケストラ統率ぶりはきわめて微に入り細にわたって神経のゆき届いているものであり、十二分のコントロールの下に、それは表現しようとする音楽に跳ね返ってきているのである。だから、演奏とすれば、技術が決して表面に出てくるのではない。音楽ばかりの様相になってしまっていたといってよかろう。そのために彼のチャイコフスキーはまるでチャイコフスキーそのものになっていて、あの内攻性の強い憂鬱な人柄が、時にセンチメンタルになってすすり泣いたり、時にヒステリックになってわめいたり、あるいはそこはかとなく甘い夢に浸って纏綿と歌ったりして、気持ちの動揺が絶えず幕なしに変化してゆく経過を如実に表出していたのだった。ひいては、彼のチャイコフスキーほどわれわれに親近感を催させたものもなかったと思われたのである。」
(1975年レニングラードフィル・パンフレットより)

ガウク自身もそういうスタイルを自認していたようで、
「最近はこういう(自分のスタイル)のチャイコフスキーが演奏されなくなりつつあり残念。」
という意味の発言をしていました。
ただしガウクは来日時に「堅い古典的な解釈で演奏するようになった」とも語っています。

それは自らが敬愛するニキシュの演奏を素晴らしいとしながらも、

「ニキシュに与えられた印象が非常に強かったとはいえ、別に彼をまねしようとは思っていない。特に彼のあまりにもやわらかい女性的とでもいえるような性質は今日のわれわれの感覚にはむかない。例えば「悲愴交響曲」の時にも聴衆を泣かすのみでなく自分も指揮台で泣いたくらいであった。しかし、われわれは今日、この同じチャイコフスキーの曲をもっと堅い古典的な解釈で演奏するようになった。」

と語っていることからもお分かりになられると思います。

ここでの演奏はそんなガウクのスタイルを偲べる音盤といえるでしょう。
因みにこの公演には谷崎潤一郎の妻松子と妹重子の御両名が聴きにきていたそうです。

この音盤、録音もモノラルながらしっかりとしていてなかなか聴きやすい…
と思っていたのですがチャイコフスキーの終楽章で次第に音揺れが目立ちはじめます。
おそらくテープの保存が万全ではなかったのでしょう。

それを思うと自分は十年前のあることを思い出してしまいました。

それは十年前このブログの本体にあたるサイトを立ち上げた時、
TBSがかなりの貴重な音源を保持していることが確実視されたため、
当時TBSにこれらの音源をぜひ確認すべきだという趣のメールを出したのですが、
その後この件に関する返事はいっさいありませんでした。
まあどこの馬の骨ともわからない輩が言うことなどとりあげないのだろうということで、
その後こちらも再度メール確認等の行為をしませんでした。

ですが今こうして最後に少なからぬ音の不具合のそれを聴いてしまうと、
「なんであのとき嫌がられてもいいからしつこくメールを出さなかったのか」と、
その後悔のみが今とても強く感じられてしかたありません。

たしかにもしこれらの録音があと十年早く日の目を見ても、
あの音揺れは避けられなかったのかもしれませんが、
それでも十年という決して短くない年数を思うと「もしかして…」なのです。

この音盤を聴くたびに自分は自戒の念に今でもかられるものがあります。
やっぱりどこかに自分に真剣さが当時足りなかったのかなあ…。

それ以外は貴重な証言等もいろいろと網羅されており、
極めて良心的な出来となっているのですが、
それだけに残念なことがあとひとつ。

それはこの公演全体のプログラムが掲載されていないこと。
こういことは最低限やってほしいと今まで何度もいろいろな機会で発言しているが、
やはり今回もこういうことになってしまった。
資料的にも極めて貴重なので今後はぜひ一考してほしいところです。

一応最後にここにはそれを記しておきます。

同行指揮者
アレクサンドル・ガウク、クルト・ザンデルリンク、アルヴィド・ヤンソンス

4月15日:フェスティバルホール(指揮/ガウク)
グリンカ/ルスランとリュドミラ、序曲
ムソルグスキー/ホヴァンシチナ、前奏曲
モーツァルト/交響曲第39番
チャイコフスキー/交響曲第4番

4月16日:フェスティバルホール(指揮/ガウク)
グリンカ/ルスランとリュドミラ、序曲
ムソルグスキー/ホヴァンシチナ、前奏曲
モーツァルト/交響曲第39番
チャイコフスキー/交響曲第4番

4月18日:フェスティバルホール(指揮/ザンデルリンク)
チャイコフスキー/ハムレット
プロコフィエフ/協奏交響曲(VC/ロストロポーヴィチ)
ブラームス/交響曲第4番

4月21日:日比谷公会堂(指揮/ガウク)
グリンカ/ルスランとリュドミラ、序曲
ムソルグスキー/ホヴァンシチナ、前奏曲
モーツァルト/交響曲第39番
チャイコフスキー/交響曲第4番

4月22日:日比谷公会堂(指揮/ガウク)
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
グラズノフ/ライモンタ゜、組曲
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

4月24日:新宿コマ劇場(指揮/ザンデルリンク)
チャイコフスキー/ハムレット
プロコフィエフ/協奏交響曲(VC/ロストロポーヴィチ)
ブラームス/交響曲第4番

4月25日:新宿コマ劇場(指揮/ザンデルリンク)
チャイコフスキー/ハムレット
プロコフィエフ/協奏交響曲(VC/ロストロポーヴィチ)
ブラームス/交響曲第4番

4月27日:新宿コマ劇場(指揮/ザンデルリンク)
ラフマニノフ/交響曲第3番
チャイコフスキー/交響曲第5番

4月28日:新宿コマ劇場(指揮/ザンデルリンク)
ラフマニノフ/交響曲第3番
チャイコフスキー/交響曲第5番

4月29日:新宿コマ劇場(指揮/ヤンソンス)
ドヴォルザーク/交響曲第9番
プロコフィエフ/交響曲第7番
チャイコフスキー/イタリア奇想曲

5月1日:フェスティバルホール(指揮/ザンデルリンク)
ラフマニノフ/交響曲第3番
チャイコフスキー/交響曲第5番

5月2日フェスティバルホール(指揮/ヤンソンス)
ドヴォルザーク/交響曲第9番
プロコフィエフ/交響曲第7番
チャイコフスキー/イタリア奇想曲

5月3日:フェスティバルホール(指揮/ガウク)
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
グラズノフ/ライモンタ゜、組曲
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

5月5日;八幡製鉄体育館(指揮/ヤンソンス)
グリエール/青銅の騎士、偉大なる都への諸歌
グリンカ/イワンスサーニン、ワルツとクラコヴィアック
ムソルグスキー/ホヴァンシチナ、前奏曲
グラズノフ/ライモンタ゜、組曲
カバレフスキー/コラブルニョン、序曲
ハチャトゥリアン/バレエ音楽からの組曲
チャイコフスキー/イタリア奇想曲

5月6日:福岡スポーツセンター(指揮/ヤンソンス)
ドヴォルザーク/交響曲第9番
プロコフィエフ/交響曲第7番
チャイコフスキー/イタリア奇想曲

5月8日:名古屋市公会堂(指揮/ザンデルリンク)
ラフマニノフ/交響曲第3番
チャイコフスキー/交響曲第5番

5月11日:日比谷公会堂(指揮/ガウク)
ベートーヴェン/エグモント、序曲
モーツァルト/交響曲第39番
チャイコフスキー/交響曲第6番

5月12日:日比谷公会堂(指揮/ガウク)
チャイコフスキー/交響曲第6番
グラズノフ/ライモンタ゜、組曲
チャイコフスキー/フランチェスカ・ダ・リミニ

5月14日:東京体育館
グリンカ/ルスランとリュドミラ
チャイコフスキー/白鳥の湖、序曲~白鳥の踊り~ワルツ(以上指揮/ヤンソンス)
チャイコフスキー/ロココの主題による変奏曲(VC/ロストロポーヴィチ)
ドヴォルザーク/スラヴ舞曲第15番
ハイドン/弦楽のセレナーデ
ブラームス/ハンガリー舞曲第1番(以上指揮/ザンデルリンク)
チャイコフスキー/交響曲第4番(指揮/ガウク)
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阿伊沢萬

他のそれは聴いていませんが、そのうちヤンソンスあたれを聴いていきたいと思います。以前東響からでていたCDとどれくらい音質が違っているのか楽しみです。
teftefさま、makimakiさま、nice! ありがとうございました。
by 阿伊沢萬 (2014-01-05 18:55) 

蝶 旅の友

始めまして。
ガウク指揮 レニングラード・フィル の記事を拝見し、懐かしく筆をとりました。
 私は終戦後間もなくクラシックをレコードで聴き始めました。
元々感情の流れのままに情緒的に聴くのが私の聴き方なので、分析的に又は熱情的に聴くことは苦手のタイプと思っています。そのためデータがありません。良かったと思ったか、合わなかったかの思い出にとどまります。
1949年に上京してから、演奏会にも行くようになりました。
メニューインやシゲッティも聴きました。
今回の主題のレニングラード交響楽団の公演を日比谷公会堂で聴きました。
ムラビンスキーでなく、ガウクの指揮だったのが残念と言う声もあったような気がします。
詳しいことは覚えていませんが、曲が始まると直ぐ、日比谷公会堂の音の届き難い天井桟敷に、金管の大音響が聴こえてきて驚嘆したことを覚えています。
レニングラード・フィルは弦がいいと聞いていたと思いますが、金管の凄さを感じました。
詳しい状況は覚えていませんが、金管の圧倒的な音量が記憶に残っています。
当時の録音がCD化されたことを知り、聴いてみたい気持ちもありますが、昔の印象を大事にとっておきたい気もします。
 詳しい演奏会のデータを教えて頂き有難うございます。
 今チャイコフスキーを聴くとしたら、ムラビンスキーの厳しさでなく、プレトニェフ指揮、ロシア・ナショナル交響楽団のCDで音の良さを楽しみたいと思っています。
 
 私は暖かい日には野外に出て蝶の写真を撮り、ブログ 「蝶 旅の友」を書いています。
親しく一緒に聴き語り合った友も少なくなり、一人で聴くことが多くなりました。
 クラシックのブログを開いてみて、懐かしい話題に出会いました。
 有難うございました。
長文お許し下さい。

by 蝶 旅の友 (2014-02-15 13:15) 

阿伊沢萬

蝶 旅の友 さま。

貴重なお話ありがとうございます。このあたりの公演の話はなかなか行かれた方のお話を直接伺う機会が無いのでほんとうにありがたいです。私はレニングラードフィルをはじめて聴いたのは1975年なので、ガウクのことは話でしか聞いていませんし、音としては以前ビクターから出ていた日比谷公会堂の「悲愴」くらいしか聴いたことがありません。

それだけに日比谷公会堂の奥まで金管の咆哮が響いたというお話はとても興味深く拝見しました。今後このCDを聴くときは、蝶 旅の友 様のそれを読み返しながら聴いていきたいと思います。

コメントありがとうございました。
by 阿伊沢萬 (2014-02-16 02:55) 

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